- 糸井
-
筆下ろしは、
コピーライターズクラブのコラムだった。
- 田中
- はい。
- 糸井
- それがおもしろかったんですよ。
- 田中
- ありがとうございます。
- 糸井
-
僕、27、8の若い人だと思って。
こういう子が
出てくるんだなぁって(笑)…。
- 田中
- (笑)
- 糸井
-
もっと書かないかな、この子がと思って。
いつ頃だろう、27、8じゃないってわかったのは(笑)。
- 一同
- (笑)
- 田中
- 46、7のオッサンだったっていう(笑)。

- 糸井
- (笑)
- 田中
-
ヒロ君のまま保存されていたんですね。
入った頃の23歳のまま
来ちゃってるから。
好き勝手に書くということになったのが…。
- 糸井
-
(笑)
つい2、3年前。
ヒエェーッ。
で…やがて映画評みたいなものが次ですか?
- 田中
- はい。
- 糸井
-
西島さん(:西島知宏)という、
電通にいた方ですね。
(現在は)クリエイティブブティックを起こされて。
先輩、後輩で言うと、田中さんが先輩?
- 田中
-
7、8年先輩なんです。
でも、彼が電通に一緒に在籍したのは知ってて
辞めたのも知ってるんですけど、
付き合いはなかったんです。
- 糸井
- そうなんですか。
- 田中
-
はい。
2015年の3月に突然大阪を訪ねて来られて、
「明日会いましょう」と。
「なんですか?」と聞いたら、
大阪のヒルトンホテルで
すごくいい和食が用意してあって、
「まぁそこ座ってください」って。
料金表見たら1人前6,000円くらいの「いろは」。
「うわぁ、たっかぁ、食べていいのかな」
「食べましたね。食べましたね、今」
「食べましたよ」
「つきましてはお願いがあります」と。
糸井さんが見られたのと同じ、
東京コピーライターズクラブのリレーコラムと、
ツイッターで時々「昨日見た映画、ここがおもしろかった」って、
2、3行書いてたんですね。
それを見て「うちで連載してください」と。
- 糸井
- はぁ。
- 田中
-
「分量はどれくらいでいいですか?」と聞いたら、
「ツイッターでも2、3行で
映画評をしていることもあるので、
2、3行でいいです」。
- 糸井
- (笑)
- 田中
-
「いいの?映画観て、2、3行書けばそれが仕事的な?」
「そうです」と言うから、
映画を観て、次の週に、
とりあえず7,000字書いて送りました。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- 溜まった性欲が。
- 田中
-
そう!
2、3行のはずが7,000字に。
- 糸井
-
少なくはないですね。
書き始めたらなっちゃったんですか?
- 田中
-
なっちゃったんです。
初めて、勝手に無駄話が止まらないという
経験をしたんですよね。
- 糸井
- あぁ。
- 田中
-
キーボードに向かって、
「俺は何をやっているんだ、眠いのに」っていう。
- 糸井
- うれしさ?
- 田中
-
なんでしょう。
「これを明日ネットで流せば、
笑うやつがいるだろう」と想像すると、
取り付かれたようになったんですよね。
- 糸井
- 大道芸人の喜びみたいな感じですねぇ。
- 田中
- あぁ、そうですね。
- 糸井
-
雑誌のメディアとかだったら、
そんな急に7,000字って、
まずはないですよね。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
頼んだほうも頼んだほうだし、
メディアもインターネットだったし、
本当にそこの幸運はすごい、ですねぇ。

- 田中
-
その後、雑誌に頼まれて
寄稿というのもあったんですけど、
雑誌はやっぱり反響がないので、
印刷されてから、
それに対して僕に直接、
「おもしろかった」とか、
「読んだよ」とかないので、
いくら印刷されて本屋に置いてあっても、
なんかピンと来ないんですよね。
- 糸井
- はぁぁ、インターネットネイティブの発想ですね。
- 田中
- 反応がないというのが。
- 糸井
- 若くないのに、ね。
- 一同
- (笑)
- 田中
- 45にして(笑)。
- 糸井
-
はぁぁ、おもしろい。
酸いも甘いも、
知らないわけじゃないのに。
- 田中
-
すごいシャイな少年みたいに、
ネットの世界に入った感じですね。

- 糸井
-
コピーライターズクラブの
ちょっとした文章はなんていうんだろう、
嫌々やる仕事ですよね。
- 田中
- うん、回ってくるので。
- 糸井
-
回ってくるのでね。
それを田中さんは嫌々ふうに書いてるけど、
全然嫌じゃなかったんですか?
- 田中
-
初めてのことなんで、
「自由に文字書いて、
必ず明日には誰かが見るんだ」
と思うと、うれしくなったんですよね。
- 糸井
-
新鮮ですねぇ。
それはうれしいなぁ。
- 田中
-
糸井さんはそれを18年ずっと
毎日やってらっしゃるわけでしょう?
- 糸井
- (笑)
- 田中
- 休まずに。
- 糸井
-
うーん…でもそれは、
たとえば松本人志さんが
ずっとお笑いやっているのと同じことだから、
「大変ですね」と言われても、
「いや、うん、みんな大変なんじゃない?」って(笑)。
- 田中
- (笑)
- 糸井
-
野球の選手は野球やってるし、
おにぎり屋さんはおにぎり握ってるしね。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
-
たぶん田中さんは今、
そうだと思うんですよね。
- 田中
-
でも大してね、食えないんですよ。
この間の塩野さんとの対談でもそうだったんですけど、
これからの時代、コンテンツ、文章を
お金を出して読もうっていう人が
どんどん減るから、
何を書いても生活の足しにはならないので。
前は大きな会社の社員で、
夜中に仕事が終わってから書いてましたけど、
今は書いても生活の足しにならないから、
じゃあ、どうするんだ?
っていうフェイズには入っています。
- 糸井
-
イェーイ(笑)。
僕、今27の人と話してますね。
- 田中
- そうですね(笑)。
- 糸井
- 「誰かに相談したの、それは(笑)」?
- 田中
- 若者の悩み相談(笑)。
- 糸井
- 「奥さんはなんて言ってるの?」

- 田中
- そんな感じですね(笑)。
- 糸井
- 愉快だわ(笑)。
- 田中
-
ただ僕の中では未だに、
「おもしろい」とか、
「全部読んだよ」とか、
「この結論は納得した」とかという
「声」が報酬になってますね。
家族はたまったもんじゃないでしょうけどね。
- 糸井
-
だけど、自分が
「文字を書く人」という
認識そのものがなかった時代が
20年以上あるという…。
不思議ですよね。
「嫌いだ」とか「好きだ」とかは
思ってなかったんですか?
- 田中
- 読むのが好きで。
- 糸井
- あぁ。
- 田中
-
ひたすら読んでました。
でも自分がまさかダラダラと
何かを書くとは夢にも思わず。
- 糸井
-
…「読み手として」書いてる
タイプの人…。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
っていうのが…
今そういう表現を初めてしたんですけど、
自分にもちょっとそういうところがあって、
コピーライターって、
「書いてる人」というより、
「読んでる人」として
書いてる気がするんですよ。
- 田中
- はい、すごくわかります。

- 糸井
-
だから、うーん…
視線は読者に向かってるんじゃなくて、
自分が読者で、
自分が書いてくれるのを待ってるみたいな…。
- 田中
-
おっしゃるとおり!
いや、それすごく、すっごくわかります!
- 糸井
-
初めて今それを…。
これ、お互い初めて言い合った話だね。
- 田中
-
いや、そんな、ねぇ。
糸井重里さんですよ!
- 一同
- (笑)
- 糸井
-
ろくろの小さい人です(笑)。
あぁ…。
これ説明するのむずかしいですねぇ。

- 田中
-
むずかしいですね。
発信してるんじゃないんですよね。
- 糸井
- 受信してるんです。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
で。
「言うことがない」人間は
書かないと思ってたら大間違いで。
- 田中
- そうなんです。
- 糸井
-
「読み手」というか、
「受け手」であることを、
思い切り伸び伸びと自由に
味わいたい!と思って、
「それを誰がやってくれるのかな?」
「俺だよ」という。
- 田中
- そうなんです。
- 糸井
- あぁぁ、なんて言っていいんだろう、これ。
- 田中
- なんでしょう。
- 糸井
- 今の言い方しかできないなぁ。
- 田中
-
そうですね。
例えばいろんな映画を観ますよね。
そしていろんな人がネットでも雑誌でも
評論をするじゃないですか。
「何でこの見方はないのか?」
と思うんです。
それを探して、見つけたら、
自分で書かなくていいんですけど、
「この見方、なんでないの?
じゃあ、今夜俺書くの?」
ということになるんですよね。

- 糸井
-
あぁ…
なんであんなにおもしろいかっていうのと、
田中さんが書かないで済んでた時代のことが
今やっとわかった。
広告屋だったからだ。
- 田中
- そうですね。
- 糸井
- 因果な商売だねぇ。
- 田中
-
そうなんです。
広告屋は発信しないですもんね。
- 糸井
-
しない。
でも「受け手」としては
感性が絶対にあるわけで…。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
受け取り方が「個性」なんですよね。
そこでピタッと来るものを
人がなかなか書いてくれないから、
「え、俺がやるの?」という、
それが仕事になってたんですよね。
- 田中
- そうですね。
- 糸井
- 自分がやってることも今わかったわ。

(つづきます)