糸井

９月でしたね。

田中

あの時点では、
まったく辞めると思ってなかったんですよ。

糸井

素晴らしいね。

田中

辞めようと思ったのが、11月の末で、
辞めたのが12月31日。
１ヶ月しかなかったです。

永田

11月末に何かあったんですか？

田中

いや、なんか、これがね‥‥

糸井

（笑）

田中

理由になってないような理由なんですけど、
やっぱり‥‥

糸井

ブルーハーツ。

田中

そうなんですよぉ。
50手前のオッサンになっても、
中身は20うん歳のつもりだから、
「あ、これは、もう、こう生きなくちゃな」って。
相変わらず、なんか見て聞いて、
「これはね」ってしゃべるだけの人ですけど。

糸井

ああ。
僕はね、どうしてもやりたくないこと
を捨ててきた人なんです。
‥‥広告もどうしてもやりたくないことに、
似てきてしまったんですよね。

田中

なるほど。

糸井

マッチもライターもないから、
しょうがなく木切れから火を起こしはじめた、
みたいなことの連続だったと思います。
僕は、結構金のかかるコピーライターで、
「受け手としてこう見えた、これはいいぞ」
って思いつくまでは書けないんですよ。
車の広告ごとに、１台買ってましたし。
どこかで受け手であることに、
ものすごく誠実にやったつもりではいるんです。

田中

ああ。

糸井

‥‥僕にとってのブルーハーツは、釣りでした。

田中

釣り、ですか。

糸井

そう、釣り。
初めて行ったのは、真冬の日でした。
出掛ける時、アマチュアの奥さんに、
「ご苦労様」ってちょっとなめたことを
言われましてね。
その時は、大きい魚がルアーを追いかけてきたのに、
逃げてしまったんですよ。
しかたなく家に帰ったら、
バスタブには水が張ってある（笑）。

田中

バスタブに、水が？

糸井

生きた魚をそこに入れようと思ったみたい。

田中

それはすごい！

糸井

「あれは明らかに魚が追いかけてきた」
って思ったことと、
「釣ってきた時にはここで見よう、見たい」
という気持ち。
もう、夢そのものじゃないですか。
それが僕の中に、ウワァーッと湧くわけですよ。

田中

うん、うん（笑）。

糸井

釣りでは、見えていない生き物が、
俺の、竿の先の向こうでひったくりやがるわけよ、
ものすごい荒々しさで。
その実感が、
もう、ワイルドにしちゃったんですよね。
‥‥いやぁ、なんておもしろいんだろう。

田中

ほおおーーー。

糸井

正月に家族で温泉旅行へ行った時、
まったく根拠なく、海水浴やるビーチで
一生懸命、一生懸命、投げてる。

田中

投げてる（笑）。
なんか釣れましたか？

糸井

いえ、まったく。
根拠のない釣りですから。

田中

（笑）

糸井

根拠がなくても水があるんですよ。

一同

（笑）

糸井

いいでしょう？
　
僕にとってのインターネットって、
水なんですよ。

田中

おおーー！
その話が、まさかインターネットにつながるとは。

糸井

もう、今、初めて説明できましたよ。

田中

はぁーー。

糸井

水があれば、水たまりにも魚はいるんです。
僕の「リンダリンダ」は、水と魚です。
思ってもなかったですね。

田中

おぉ。

糸井

広告を辞める、「ここから逃げたい」という気持ちと、
「水さえあれば、魚がいる」と期待する気持ちを、
肉体が、釣りでつなげたんでしょうね。
‥‥うわぁ、素敵なお話ですね（笑）。

田中

まさに、身体性ですね。

糸井

そうですね。
僕、釣りのうまい人に聞いたんですよ、
「１匹も釣れなかった経験はないんですか？」って。

田中

うん、うん。

糸井

そしたら、「釣りがある程度わかっていれば
基本的にないんじゃないでしょうか」
って他人事にように言ったんです。
「魔法は魔法じゃなくて、科学だったんですか」
っていうお話になるんですよ。
もう、それがうれしくって。

（つづきます）