- 田中
- 今、「青年失業家」として岐路に立っていまして。
- 糸井
-
書くことで食っていけるようにするか、
食うことと関わりなく、書くことに自由であるか、
ですよね。
- 田中
- はい、そうです。
- 糸井
-
僕はね、アマチュアなんですよ。
「お前、ずるいよ」っていう場所にいないと、
いい読み手の書き手にはなれないって思ってて。
超アマチュアで一生が終われば、もう満足なんです。
- 田中
- その軽ろみを、どう維持するかという。
- 糸井
-
同時に、軽さはコンプレックスでもあって、
「俺は、逃げちゃいけないと思って勝負してる人たち
とは違う生き方をしてる」っていう。
- 田中
-
わかる、メッチャわかる(笑)。
たった2年ですけど、やっぱり、書いていると、
独善的になっていきます。
- 糸井
-
なっていきますね。
世界像を安定させたくなるんですよね。
- 田中
-
そうなんです。
書く行為自体が、はみ出したり、怒ってたり、
ひがんでたりすることを、忘れる人が危ないです。
- 糸井
-
田中さんは、そういうことを考えてる、
読み手ですよね。
- 田中
- そう、そう(笑)。
- 糸井
- ややこしいなぁーー。
- 田中
-
僕は、世の中をひがむとか、政治的主張とか、
ないんです、読み手ですから。
でも、映画評とか書くとよく言われるのが、
「田中さん、そろそろ小説書きましょうよ」。
- 糸井
- 必ず言われますよねぇ。
- 田中
-
「あ、これいいですね」、「あ、これ木ですか?」、
「あぁ、木っちゅうのはですね」っていう
話しがしたいんですよ、僕は。
- 一同
- (笑)
- 田中
-
永遠に馬鹿馬鹿しいことをやるのは、
これは、体力も必要だと思っていて。
- 糸井
-
体力、そうですね。
‥‥これ、結局「ご近所の人気者」に行きつくと思います。
- 田中
- おぉ。
- 糸井
-
「ご近所の人気者」っていうフレーズは、
中崎タツヤさんが『じみへん』で書いた言葉なんです。
うちのカミさんが、それ読んで「俺だ」って。
- 田中
-
なるほど。
中崎タツヤさんのスタンス、素晴らしいですよね。
あなたは仙人かっ!ていうくらいの崩れなさで。
- 糸井
-
凄味があります。
永遠に忘れまい、とした1話があって。
庶民の家の男が出てくるんですけど、
お母さんがやってることが、
すごく馬鹿に見えてるんですね。
で、馬鹿さ、くだらなさ、弱さ、下品さ
みたいなものに対して、
「母さんは、何かものを考えたことあるの?」と
血筋に対する怒りをぶつけるんですよ。
- 田中
- ええ。
- 糸井
-
すると、お母さんが、
「あるよ。寝る前にちょっと」。
- 田中
- (笑)
- 糸井
-
涙が出るほどうれしかったんですよ。
これを言葉にしたって。
- 田中
- 素晴らしい。
- 糸井
-
いないでしょ?
僕は、「寝る前にちょっと」を探す人なんですよ。
その人たちと一緒に遊びたいんです。
「お前も幸せになれよ」っていうメッセージを
投げかけ続けてるんですよ。
- 田中
- あぁ、わかります。
- 糸井
-
今の泰延さんの、青年、青年‥‥
なんだっけ、扶養者じゃなくて‥‥
- 田中
- 青年失業家。
- 糸井
-
失業家、そうそう。
こう、自転車に乗っている、
ランナーの伴走者のような気持ちで、
見るわけですよね。「どう?」って。
- 田中
-
ああー。
‥‥祖母がね、死ぬ前にこう言ったんです、
「この間18やと思ったのに、もう80や」。
- 糸井
-
おぉ、それですよ。
それは翻って、「ご近所の人気者」ですよね。
「今日も機嫌ようやっとるな」ってお互いに。
- 田中
- はい、はい(笑)。
- 糸井
-
本当の地理的なご近所と、気持ちのご近所と
両方あるのが、今なんでしょうね。
- 田中
-
たしかに。
「ご近所」っていうのは、
やっぱりフィジカルなことも大事ですね。
- 糸井
- 大事ですねぇ。
- 田中
-
1週間前に、糸井さんの楽屋に5分だけでも寄って、
今日があるとないのとでは、違いますよね。
- 糸井
- あの時も手土産をどうもありがとう。
- 田中
-
いえいえ。
- 糸井
-
アマチュアであることと、
「ご近所感」って、隣り合わせですよね。
- 田中
- うん、うん。
- 糸井
-
アマチュアは、変形してない、
プロは、変形してることかと。
- 田中
- 変形ですか?
- 糸井
-
これは、吉本隆明さんの受け売りなんですけど、
「ずっと座り仕事をして、
ろくろを回してる職人さんがいたとしたら、
座りタコができているし、
指の形も変わるかもしれないし、
腰は曲がるかもしれないっていう形で、
反作用を受けてるんだよ」。
その変形が、プロである、と。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
-
だから、僕と泰延さんの
「超受け手でありたい」っていう気持ちも、
すでにプロの歪みをもっている証なんですよ。
- 田中
- ああー。
- 糸井
-
でも、どの部分で歪んでないものを維持できるかに、
「ご近所の人気者」があるんですよ。
‥‥あの、うち、夫婦ともアマチュアなんですよね。
- 田中
-
はぁ。
奥様は、僕らなんかからすると、
プロ中のプロのような気がしますが。
- 糸井
-
違うんですよ。
「プロになるスイッチ」があるんです。
仕事が終わったら、アマチュアに戻るんです。
カミさんは、高い所とか苦手なんですけど、
「仕事なら、パラシュートでもやる?」って聞くと、
間髪入れずに、「やる」って。
- 田中
- そうなんですか。
- 糸井
-
プロだと「次もあるから、それやっちゃだめ」って
考えちゃいますけど、
アマチュアはへっちゃらなんですよね。
それは居心地としてはどっちもよくないはずですが、
演技はしたくない。
だから、泰延さんに渡された日本酒は
むずかしいんですよ、僕には(笑)。
(つづきます)
