- 糸井
-
田中さんを書く人っていう認識をしたのは、
東京コピーライターズクラブのリレーコラムでした。
- 田中
- あぁー、そうですか。
- 糸井
-
2年くらい前かなぁ。
僕もそこの人間だったんで、
今はこんなことやってるのかって読んだら、
おもしろくって。
それまでに、田中泰延名義で何か書いたことは?
- 田中
-
一切なかったです。
それまでに長く書いた文章って、大学の卒論ですよ。
現行用紙200枚くらいの。
まぁ、これは人の本の丸写しですから、
書いたうち入らないですかね。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- ちなみに、それは何の研究?
- 田中
-
芥川龍之介の『羅生門』です。
もう、いろんな人のをね、切ったり貼ったり。
とんでもない所から、それをしよう、
という意識はありましたけど。
- 糸井
- ああ。
- 田中
-
小説の中に「きりぎりすが泣いている」
という一文があって、
「これは何の種類のきりぎりすで、
1100年代の京都にはいるか」
とか、まったく無関係なことを書いてました。
今もまぁ似たようなものですが(笑)。
- 糸井
-
のちに、僕らが「石田三成研究」で味わうことを、
大学の先生が味わったと。
広告の仕事をしてる時も書いてないんですか?
- 田中
-
はい。
もぅ、真面目な、
ものすごっく真面目な広告人でしたから。
‥‥これ、伝わりますかねぇ。
- 一同
- (笑)
- 糸井
-
コピーライターとしては、
文字を書く仕事と、
プランナーもやってたんですよね。
- 田中
-
テレビコマーシャルのです。
20年くらい、企画ばっかりでした。
テレビCMの最後には、
コピーのようなものが載りますけど。
- 糸井
- 「来てね」とか。
- 田中
-
「当たります」とか(笑)。
だから、ツイッターができた時、
打った瞬間、人にばらまかれるっていうのは、
なんだろう‥‥
飢えてたっていう感覚がありました。
- 糸井
- 溜まっていましたね、それは。
- 田中
- 溜めに溜まってました。
- 糸井
-
リレーコラムを読んだとき、
てっきり、27、8の若い人だと思ったんですよ。
こういう子が出てくるんだなぁ、と。
- 田中
-
それが、46、7のオッサンだったという(笑)。
- 糸井
-
20歳の開きがある(笑)。
リレーコラムの後は、映画評?
- 田中
- はい、そうです。
- 糸井
- 電通にいた西島(知宏)さんと。
- 田中
- ですね。
- 糸井
- 田中さんが先輩?
- 田中
-
7、8年先輩です。
電通に在籍したのは知ってましたが、
なんの付き合いもなかったんです。
- 糸井
- そうですか。
- 田中
-
突然、大阪に彼が来まして。
「明日会いましょう」と。
ヒルトンホテルで、
6,000円ぐらいの和食が用意してあって、
「うわぁ、高っ」と思いつつ、
食べるじゃないですか。
そしたら、「食べましたね。食べましたね、今」、
「食べましたよ」、
「つきましてはお願いです。うちで連載してください」。
- 糸井
- ほぉーー。
- 田中
-
「分量は?」って聞いたら、
「ツイッターの映画評が2、3行なので、
それぐらいで」。
- 糸井
- (笑)
- 田中
-
「いいの?映画観て2、3行書けば、仕事的な?」、
「そうです」と。
次の週、映画観て、とりあえず7,000字送りました。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- 溜まってましたからねぇ。
- 田中
- はい。書いてみると、止まらなくて。
- 糸井
- 最初の映画はなんだったんですか?
- 田中
-
『フォックスキャッチャー』という、
わりと地味な映画です。
‥‥ここで、無駄話が止まらないっていう経験を
初めてしましたよ。
「俺は何をしているんだ、眠いのに」。
- 糸井
- ああ。
- 田中
-
なんでしょうねぇ。
「明日ネットで流せば、絶対笑うやつがいるだろう」
って想像しちゃうと、もう取り憑かれたように。
- 糸井
- 一種、大道芸人の喜びみたいな感じですよね。
- 田中
- たしかに。
- 糸井
-
雑誌でしたら、
急に7,000字って、まずないですから。
それは、幸運でしたよね。
- 田中
-
そうですね。
雑誌は、反響がないですし。
本屋に置いてあっても、
僕、ピンと来ないんですよ。
- 糸井
-
はぁ、それは、
インターネットネイティブの発想ですね。
- 田中
-
45にして(笑)。
僕の中では、「おもしろい」とか、
「この結論は納得した」っていう声が、
もう、報酬なんですよ。
家族はたまったもんじゃないでしょうけど。
- 糸井
-
なんだろう‥‥。
自分が、考えたことを文字にする人という認識が、
20年以上なかったっていうのは、
不思議ですよね。
- 田中
- 読むのが好きでしたね。
- 糸井
-
あぁ。
‥‥今のその言い方、
読み手として書いてる人が、
表現を初めてしたので、わかんないっていう感覚。
実は、僕もそういうところがあるんです。
コピーライターって、
読んでる人として書いてるんですよ。
- 田中
- それ、わかります。
- 糸井
-
ねぇ。
だから、自分が読者になって、
自分が書いてくれるのを待ってるみたいな。
- 田中
-
おぉーー。
それすごく、すっごくわかります。
- 糸井
-
ありがとうございます(笑)。
今、初めて言葉にしました。
- 田中
- すごい‥‥。
- 糸井
- これ、お互い初めて言い合った話だね。
- 田中
-
いや、そんな、ねぇ。
だって、糸井重里さんですよ‥‥?
- 一同
- (笑)
- 田中
-
でも、本当そうですね。
‥‥発信してるんじゃないんですよね。
- 糸井
- そう、受信してるんです。
- 田中
- ええ、ええ。
- 糸井
-
「受け手であることを、思い切り自由に味わいたい!」、
「それを誰がやってくれるのかな」、
「あぁ俺だよ」っていうね。
- 田中
- そうなんですよ。
- 糸井
-
あぁ、なんだろう。
今の言い方しかできないなぁ。
‥‥あぁ、そっか。
俺、広告屋だったからなんだ。
だから、おもしろいんだ。
- 田中
- 広告屋は、発信しないですもんね。
- 糸井
-
しない。
でも、受け手としての感性が絶対にある。
- 田中
- ありますね。
- 糸井
-
受け取り方っていうのは、個性なんですよね。
で、ピタッと来るものを探してたら、
人がなかなか書かないから、
それが仕事になってたんですよ。
- 田中
- おぉ、そうですね。
- 糸井
-
自分がやってることも、今わかった。
そこを探しているから、
日々生きてるんですよね。
(つづきます)
