もくじ
第1回マジメな広告人、ネットと出会う 2017-03-28-Tue
第2回コピーライターは受信している 2017-03-28-Tue
第3回超アマチュアでありたい 2017-03-28-Tue
第4回どうやって生きていこう? 2017-03-28-Tue
第5回逃げた先で見つけたもの 2017-03-28-Tue

散歩が好きです。知らない道をずんずん歩くので、よく迷子になります。それが楽しいのです。高校野球も好きなので、8月と3月は気もそぞろ。
2016年に、社会という大海に舟をこぎだしました。

僕たちの「リンダリンダ」</br>田中泰延×糸井重里

僕たちの「リンダリンダ」
田中泰延×糸井重里

第5回 逃げた先で見つけたもの

糸井
どうしてもやりたくないことっていうのが
世の中にはあって。
そこを、僕は本当に逃げてきた人なんです。
逃げたというよりは、捨ててきた。
 
どうしてもやりたくないことに、
人は案外、人生を費やしちゃうんですよ。
田中
はい。
糸井
広告も、どうしてもやりたくないことに
似てきたんですよ。
 
僕は、「なにかやりたい」というよりは、
「やりたくないことを、やりたくない」気持ちが強くて。
そこから、しょうがなく、マッチもライターもないから
木切れを集めて、火を起こしはじめたみたいなことが
自分の連続だったと思ったんで。
田中
とはいえ、糸井さん広告のお仕事を見てても、
「この商品について、この商品の良さを延々語りなさい」とか、
そのリクエストに応えたことはないですよね。最初から。
糸井
「受け手として僕にはこう見えた、これはいいぞ」って
思いつくまでは書けないわけで。
受け手であることに、ものすごく誠実に
やったつもりではいるんです。
 
でも、僕について「あいつもうだめですよね」って、
みんなが言いたくてしょうがないわけですよ。
「なんでそう言われながら、
仕事をやっていかなきゃならないんだろう?」
と思うようになるんだろうなぁ、とは思っていて。
田中
はいはい。
糸井
だから、「こういう時代にそこにいるのはまずいな」
「絶対嫌だ」と思って。
 
そこで、僕にとっての「ブルーハーツ」に当たるのが
釣りだったんですよね。

田中
そういえば、この間おかしかった(笑)。
糸井さん、「始めた頃は、ちょっと水たまりを見ても
魚がいるんじゃないか」って(笑)。
糸井
そう。
田中
そう見えるんですね(笑)。
糸井
普段見えていない生き物が、竿の先に付いたラインの向こうで、
ひったくりやがるわけです。ものすごい荒々しさで。
その実感が、もう、ワイルドにしちゃったんですよ。僕を。
なんておもしろいんだろうって。
 
前ね、正月に家族で温泉旅行かなんかに行った時に、
まったく根拠なく、砂浜で一生懸命、なにか釣れるのを、
海水浴やるようなビーチで、竿を振って待っていたの。
それを妻と子どもが見てるんだ。
田中
(笑)
なにか釣れましたか、その時は?
糸井
まったく釣れません。
田中
はははは(笑) 
糸井
根拠のない釣りですから。
田中
(笑)
糸井
でも、根拠がなくても水があるんですよ。
いいでしょう?
これ、僕にとってのインターネットって、水なんですよ。
田中
なるほど。
糸井
もう、今初めて説明できたわ。
田中
ははぁ。
糸井
根拠はなくても、水があるんです。
田中
根拠はなくても、水がある。
糸井
水があれば、水たまりでも魚はいるんですね。
それが、自分に火を点けたところがある。
だから、僕の「リンダリンダ」は水と魚です(笑)。
田中
水と魚。
糸井
おもしろいんですよぉ。
朝、1人で誰もいない所で釣りをしていると、
初めて釣れる1匹っていうのがさ・・・・。
 
朝日が明ける頃に、なにも気配がなかった静かな川で、
泥棒に遭ったかのようにひったくられるんですよ。
「俺の大事な荷物が盗まれた!」っていう瞬間みたいに、
パーッと引かれるんですよ。
その喜び。これがね、俺を変えたんじゃないですかね。

田中
なるほど。いや、その話が、
まさかインターネットにつながるとは。
糸井
思いついてなかったですね。
田中
あぁ。
でも、言われてみたら、きっとそういうことですよね。
糸井
広告を辞めるっていう、
「ここから逃げ出したいな」っていう気持ちと、
「水さえあれば、魚がいる」っていうような、
その期待する気持ちに、肉体が釣りでつなげたんでしょうね。
田中
なるほど。
糸井
うわぁ、素敵なお話ですね。
田中
いや、本当に(笑)。

糸井
すごい釣りのうまい人に、
「1匹も釣れなかった経験っていうのはないんですか?」
って、僕が聞くわけですね。
その状態から逃げ出したいわけですから、僕は。
田中
うんうんうん。
糸井
その時に、「基本的に坊主って、ないんじゃないでしょうか」
って、その人は言ったんですよ。
「釣りがある程度わかっていれば、
釣れないっていうのは、ないんじゃないでしょうか」って。
 
うれしいじゃないですかぁ。
「えぇ?そんな魔法は、魔法じゃなくて、
科学だったんですか」っていうお話になるわけだから。
インターネットでも、そう思いますよね。
田中
なるほど。
糸井
というのを、積み上げていったのが今に至るわけで。
さっきの釣りの、こう、「当たり」のおもしろさのところには
たどり着いてみたいですねぇ。
田中
それはいい。
今日はいい話、非常に聞きましたよ、本当に。
釣りの話もそうですけど、
糸井重里さんにお会いして、
身体性の話に行くと思ってなかったから。
 
今日、お話を聞いたことで、なにか僕のこれからが、
やっぱり変わってくると思います。
糸井
「これから、どうするんですか」という話は
公なところじゃなくて、もっといびれるような所でしましょう。
田中
どうぞ、いじめてください(笑)。
糸井
今日はありがとうございました。

(田中泰延さんと、糸井重里さんの対談は以上で終わりです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!)