- 糸井
-
どうしてもやりたくないことっていうのが
世の中にはあって。
そこを、僕は本当に逃げてきた人なんです。
逃げたというよりは、捨ててきた。
どうしてもやりたくないことに、
人は案外、人生を費やしちゃうんですよ。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
広告も、どうしてもやりたくないことに
似てきたんですよ。
僕は、「なにかやりたい」というよりは、
「やりたくないことを、やりたくない」気持ちが強くて。
そこから、しょうがなく、マッチもライターもないから
木切れを集めて、火を起こしはじめたみたいなことが
自分の連続だったと思ったんで。
- 田中
-
とはいえ、糸井さん広告のお仕事を見てても、
「この商品について、この商品の良さを延々語りなさい」とか、
そのリクエストに応えたことはないですよね。最初から。
- 糸井
-
「受け手として僕にはこう見えた、これはいいぞ」って
思いつくまでは書けないわけで。
受け手であることに、ものすごく誠実に
やったつもりではいるんです。
でも、僕について「あいつもうだめですよね」って、
みんなが言いたくてしょうがないわけですよ。
「なんでそう言われながら、
仕事をやっていかなきゃならないんだろう?」
と思うようになるんだろうなぁ、とは思っていて。
- 田中
- はいはい。
- 糸井
-
だから、「こういう時代にそこにいるのはまずいな」
「絶対嫌だ」と思って。
そこで、僕にとっての「ブルーハーツ」に当たるのが
釣りだったんですよね。

- 田中
-
そういえば、この間おかしかった(笑)。
糸井さん、「始めた頃は、ちょっと水たまりを見ても
魚がいるんじゃないか」って(笑)。
- 糸井
- そう。
- 田中
- そう見えるんですね(笑)。
- 糸井
-
普段見えていない生き物が、竿の先に付いたラインの向こうで、
ひったくりやがるわけです。ものすごい荒々しさで。
その実感が、もう、ワイルドにしちゃったんですよ。僕を。
なんておもしろいんだろうって。
前ね、正月に家族で温泉旅行かなんかに行った時に、
まったく根拠なく、砂浜で一生懸命、なにか釣れるのを、
海水浴やるようなビーチで、竿を振って待っていたの。
それを妻と子どもが見てるんだ。
- 田中
-
(笑)
なにか釣れましたか、その時は?
- 糸井
- まったく釣れません。
- 田中
- はははは(笑)
- 糸井
- 根拠のない釣りですから。
- 田中
- (笑)
- 糸井
-
でも、根拠がなくても水があるんですよ。
いいでしょう?
これ、僕にとってのインターネットって、水なんですよ。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
- もう、今初めて説明できたわ。
- 田中
- ははぁ。
- 糸井
- 根拠はなくても、水があるんです。
- 田中
- 根拠はなくても、水がある。
- 糸井
-
水があれば、水たまりでも魚はいるんですね。
それが、自分に火を点けたところがある。
だから、僕の「リンダリンダ」は水と魚です(笑)。
- 田中
- 水と魚。
- 糸井
-
おもしろいんですよぉ。
朝、1人で誰もいない所で釣りをしていると、
初めて釣れる1匹っていうのがさ・・・・。
朝日が明ける頃に、なにも気配がなかった静かな川で、
泥棒に遭ったかのようにひったくられるんですよ。
「俺の大事な荷物が盗まれた!」っていう瞬間みたいに、
パーッと引かれるんですよ。
その喜び。これがね、俺を変えたんじゃないですかね。

- 田中
-
なるほど。いや、その話が、
まさかインターネットにつながるとは。
- 糸井
- 思いついてなかったですね。
- 田中
-
あぁ。
でも、言われてみたら、きっとそういうことですよね。
- 糸井
-
広告を辞めるっていう、
「ここから逃げ出したいな」っていう気持ちと、
「水さえあれば、魚がいる」っていうような、
その期待する気持ちに、肉体が釣りでつなげたんでしょうね。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
- うわぁ、素敵なお話ですね。
- 田中
- いや、本当に(笑)。

- 糸井
-
すごい釣りのうまい人に、
「1匹も釣れなかった経験っていうのはないんですか?」
って、僕が聞くわけですね。
その状態から逃げ出したいわけですから、僕は。
- 田中
- うんうんうん。
- 糸井
-
その時に、「基本的に坊主って、ないんじゃないでしょうか」
って、その人は言ったんですよ。
「釣りがある程度わかっていれば、
釣れないっていうのは、ないんじゃないでしょうか」って。
うれしいじゃないですかぁ。
「えぇ?そんな魔法は、魔法じゃなくて、
科学だったんですか」っていうお話になるわけだから。
インターネットでも、そう思いますよね。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
-
というのを、積み上げていったのが今に至るわけで。
さっきの釣りの、こう、「当たり」のおもしろさのところには
たどり着いてみたいですねぇ。
- 田中
-
それはいい。
今日はいい話、非常に聞きましたよ、本当に。
釣りの話もそうですけど、
糸井重里さんにお会いして、
身体性の話に行くと思ってなかったから。
今日、お話を聞いたことで、なにか僕のこれからが、
やっぱり変わってくると思います。
- 糸井
-
「これから、どうするんですか」という話は
公なところじゃなくて、もっといびれるような所でしましょう。
- 田中
- どうぞ、いじめてください(笑)。
- 糸井
- 今日はありがとうございました。

(田中泰延さんと、糸井重里さんの対談は以上で終わりです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!)
