- 糸井
-
田中さんは嫌々書いているように見えるけど、
全然嫌じゃなかったんですか?
- 田中
-
あれはもう初めてのことなので。
「あ、自由に文字を書いて、必ず明日には誰かが見るんだ」
と思うと、うれしくなったんですよね。

- 糸井
-
新鮮ですねぇ。
それはうれしいなぁ。
- 田中
-
でも、糸井さんはそれを18年、
ずっと毎日やってらっしゃるわけでしょう?
- 糸井
- ふふふ(笑)
- 田中
- 休まずに。
- 糸井
-
うーん‥‥。野球の選手は野球やってるしね。
だから、そこは、あえて言えば、
休まないって決めたことだけがコツなんで。
たとえば、松本人志さんがお笑いやっているのと
同じことですからね。
「大変ですね」って言われても
「いや、大変?みんな大変なんじゃない?」って(笑)。
- 田中
- 「みんな大変だろう」って(笑)
- 糸井
-
あとは、なんでもないことですよね。
仕事だからね、おにぎり屋さんは、おにぎり握ってるしね。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
- たぶん田中さんは、今そうだと思うんですよね。
- 田中
-
大してね、食えないんですよ、これが。
でも、これからの時代、コンテンツの文章に
お金を出して読もうっていう人はどんどん減るでしょ。
今、僕が得ている、あれも全然儲かってないし。
- 糸井
- 儲からない。
- 田中
-
書いても生活の足しにならないから、
「じゃあ、どうするんだ?」っていう
フェイズには入っています。
- 糸井
- イェーイ(笑)。

- 田中
-
とはいえ(笑)。
僕の中では相変わらず、なにかを書いたらお金ではなく、
「おもしろい」「全部読んだよ」とか、
「この結論は納得した」っていう
その声が報酬になってますね。
- 糸井
-
コピーライターって、書いてる人っていうより、
読んでる人として書いてる気がするんですよ。
- 田中
- はい、すっごくわかります!
- 糸井
- ねぇ。
- 田中
- はい!
- 糸井
-
だから、うーん‥‥。
視線は読者じゃなくて、自分が読者で、
自分が書いてくれるのを待っている、みたいな。
- 田中
-
おっしゃるとおり、いや、それすごく、
すっごくわかります。
- 糸井
-
あ‥‥すいません、ありがとうございます(笑)。
これ、お互い初めて言い合った話だね。

- 田中
-
いや、そんな、ねぇ。
糸井重里さんですよ。
- 糸井
- いやいや。
- 田中
- でも、本当にそうですね。
- 糸井
- これ、説明するのむずかしいですねぇ。
- 田中
-
むずかしいですね。
でも、発信してるんじゃないんですよね。
- 糸井
- 受信してるんです。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
そうなんです、そうなんです。
自分に言うことがない人間が書かないのは、
大間違いで。
- 田中
- そうなんです。
- 糸井
-
読み手というか、
「受け手であることを、思い切り伸び伸びと自由に、
味わいたい!」って思って、
「それを誰がやってくれるのかな」
‥‥「俺だよ」っていう。
- 田中
- そうなんです。
- 糸井
- あぁ、なんて言っていいんだろう、これ。
- 田中
- なんでしょう。
- 糸井
- 今の言い方しかできないなぁ。
- 田中
-
そうですね。
映画を観ても、今はいろんな人が
ネットでも雑誌でも評論をするじゃないですか。
そうしたら、
「なんでこの中に、この見方はないのか?」と思うんです。
探して見つかったら、もう自分は書かなくていいんですけど、
「この見方、なんでないの?じゃあ、今夜、俺書くの?」
っていうことになるんですよね。
- 糸井
- 因果な商売だねぇ。
- 田中
-
そうなんです。
広告屋はね、発信しないですもんね。
- 糸井
-
しない。
でも、受け手としては感性が絶対にあるわけで。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
俺の受け取り方っていうのは、
発信しなくても個性なんですよね。
ピタッと来るものを探してたら、
人がなかなか書いてくれなくて、
「え、俺がやるの?」ってなる。
それが仕事になってたんですよね。
- 田中
- そうですね。
- 糸井
- 自分がやってることも、今わかったわ。
- 田中
- (笑)
- 糸井
- 僕ね、嫌いなんですよ、ものを書くのが。
- 田中
- わかります。
- 糸井
- 前から、前からそう言ってますけど(笑)。
- 田中
- 僕もすっごい嫌(笑)。
- 糸井
-
僕もそうですし、田中さんも、
「お前って、じゃあ、なにも考えもないのかよ」って
誰かに突きつけられたら、
「そんな人間いないでしょう」っていう一言ですよね。
そこを探しているから、日々生きているわけで。
- 田中
-
そうですね。
たとえば、この水でも、
「この水、このボトル、僕好きだなぁ」
っていうのを、ちょっとだけ伝えたいじゃないですか。
「僕は今、これを心地よく、思ってます」って。

- 糸井
-
そうですね。
それは他のボトル見た時には思わなかったんですよ。
そのボトル見た時に思ったから、これを選んだ。
でも、また選んでいる側ですよ。
- 田中
- そうですよね。
- 糸井
-
つまり、受け手ですよね。
という日々ですよ。
これはね、雑誌の連載ではできないんですよ。
インターネットだから、いずれわかった時に
わかったように書けるんですよね。
- 田中
-
でも、とりあえず、その日は、「これがいいなぁ」ってことは
まず伝えることができますよね。
- 糸井
- そうです、そうです。
- 田中
-
「ツラツラ考えたんだけど前もちょっと話したけど、
なにがいいか、わかった」
って話がまたできるんですね。
- 糸井
-
そうです。
だから、やりかけなんですよね、全部がね。
田中さんがやっているのも、だいたいパターンはそれですよね。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
でも、コピーライターは、
これ、わかってくれるかしら?
- 田中
-
たぶんこの感覚、
皆さんおわかりになるんじゃないですかね。
- 糸井
- わかるんですかね。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
はぁ‥‥。このことをね、言いたかったんですよ、僕。
たぶん、ずっとね。

(つづきます)
