- 糸井
-
これは吉本隆明さんの受け売りで、
吉本さんはマルクスの受け売りなんですけど。
「自然に人間は働きかける。
働きかけた分だけ自然は変わる」。
それは作用と反作用の関係で、
「仕事、つまり、なにかをするっていうのは、
相手が変わった分だけ自分が変わっているんだよ」と。
だから、僕と泰延さんの
「超受け手でありたい」っていう気持ちも、
もうすでに反作用を受けている。
- 田中
- そうですね。
- 糸井
-
だから、その意味では、アマチュアには戻れないだけの
影響を受けているわけです。
プロが、「次もあるから、それやっちゃだめだよ」
「そういうイメージが付いちゃうから、だめだよ」
みたいに思われることも、
へっちゃらなんですよね、アマチュアって。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
-
「プロって弱みなんですよ」っていうのは、
肯定的にも言えるし、否定的にも言えるし。
「なんでもない人として生まれて死んだ」っていうのが、
人間として一番尊いっていう価値観は、
僕の中には、どんどん強固になっていきますね。
たぶん、泰延さんは今、
生きていく手段として問われていることが
ものすごく山ほどありますね。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
みんな興味があるのは、機能としての泰延さんが、
社会に機能するかどうかっていうことばっかりを
問いかけている時代で。
「なにやって食っていくんですか?」
「なにやって自分の気持ちを維持するんですか?」って。
‥‥面倒くさい時期ですよね。
- 田中
-
そうですね。
今まで担保されていたものがなくなったので、
みんなが質問するし、僕もまぁ時々、
「どうやって生きていこう?」って考えるし。
僕、糸井さんが広告の仕事から違うことに
踏み出そうと思った時の話をお伺いしたくて。
- 糸井
- あぁ。
- 田中
-
糸井さんと京都で初めて会った時に、
最初に聞いたことがそれだったんですよね。
「ほぼ日という組織をつくられて、
その会社を大きくしていって、
その中で好きなものを毎日書く。
この状態にすごい興味があります」
って言ったら、
糸井さんが「そこですか」っておっしゃったんですよ。
それが忘れられなくて。
- 糸井
-
「そこですか」って思いますよ。
まさかね、会社を辞めると思ってないから。

- 田中
- あぁ。
- 糸井
-
だから、「あれ?この人、電通の人なのに、
そんなこと興味あるのか」っていうのは思いましたね。
- 田中
-
その時、僕も会社を辞めるとはまったく思ってなくて。
辞めようと思ったのが、11月末。
辞めたのが12月31日なんで、1ヶ月しかなかったですね。
- 糸井
- 素晴らしいですね(笑)。
- 田中
-
この間も、たまたま書いたんですけど、
会社を辞めたわけは、理由になっていないような
理由なんですけど、やっぱり‥‥。
- 糸井
- 「ブルーハーツ」?
- 田中
-
そう、「ブルーハーツ」ですよ。
だから、まだこんなね、50手前にオッサンになっても、
中身は20うん歳のつもりだから。
それを聞いた時のことがこう、思い出して。
「あ、これは、もう、
このように生きなくちゃいけないな」って。
かといって、伝えたいこととか、
「熱い俺のメッセージを聞け」とかは、ないんですよ。
相変わらず、なにか見て聞いて、
「これはね」ってしゃべるだけの人なんですけど。
でも、「ここは出なくちゃいけないな」って
思ったんですよね。

(つづきます)
