糸井

僕たちみたいなタイプを、どう表せばいいんだろうって考えてたんですけど････、「伝え手として書いてる」っていうより、「読み手として書いてる」気がするんですよ。自分自身が読んでみたくて、自分が書いてくれるのを待ってるみたいな。

田中

はい。それすごく、すっごくわかります････！　発信してるんじゃないんですよね。

糸井

受け取ってるんです。

田中

はい。

糸井

「受け取る側が感じることや見える景色を、思い切り伸び伸びと自由に味わいたい！」って思うんだけど、「それを誰が運んできてくれるのかな････。俺かぁ」っていう。

田中

そうなんです。 映画も、まず自分が観て、そのあといろんな人の評論を読むじゃないですか。自分と同じ見方の感想があったら、もう書かなくていいんですけど「この見方はなんで無いの？　じゃあ今夜、俺が書くの？」ってなるんですよね。

糸井

あぁ〜。そうだ。ピタッと来る言葉を探していても、なかなか無いから「え、俺が書くの？」っていう。それが自分のコピーライター時代の仕事だったんですよね。
････でも僕ね、嫌いなんですよ、ものを書くのが。前からそう言ってますけど（笑）。

田中

わかります。僕もすっごい嫌（笑）。

糸井

でも「じゃあお前、何も伝えたいことないのかよ」って誰かに突きつけられたら、「そんなわけないでしょう」っていう一言ですよね。それを探しているから、日々生きてるわけでね。

田中

そうですよね。

糸井

田中さんもこれからは、自分の名前を出して文章を書くという立場に変わりますよね。

田中

そうなんです。これがむずかしい。
会社で仕事するついでに書く人ではなくなりつつあるので、じゃあどうしたらいいのかって「青年失業家」としては岐路に立っているんですね、今。

糸井

2つ方向があって、書くことで食っていくのが“プロ”。それから、食えるかどうかは関係なく自由にしていられるから書くというのが“アマチュア”。
この違いについてはずっと考えているんですけど、僕はアマチュア側なんです。いくつになっても気ままな場所から、いい読み手で在れるように書いていたい、と思って。
田中さんは、まだ答えを探しているところですよね。

田中

はい、そうですね。
糸井さんは、その軽やかさをね、どうやって維持するかっていうこととの戦いだったと思うんですよ。

糸井

そうですね、軽さはコンプレックスでもあったので。
でも人は何か「順列」をつけて、「書く」っていうことを偉くするから。 僕はその順列からも自由でありたいなぁって。だから「“超”アマチュア」で一生が終われば、もう満足なんですよ（笑）。

田中

わかる、めっちゃわかる（笑）。
まだ文章を書くようになってたった2年ですけど、書くことの落とし穴はすでに感じます。「僕はこう考える」って書くことを毎日つみ重ねていくうちに、だんだん独善的になっていく。

糸井

なっていきますね。あのぅ、世界像を安定させたくなるんだと思うんですよね。

田中

はい、はい。

糸井

でも、世界像を安定させると‥‥、ひとりで書いている時の全能感が、ほかのことをしている時まで追っかけてくるんですね、たぶん。

田中

なるほど。

糸井

この迫ってくる全能感からは、俺は逃げたいって思う。
「書く」ことで、世界像を周りに押し付けるようになっちゃうのは、人としてはつまんないかなって。いち読者として拍手するんだけど。

田中

書くという行為自体がもともと、はみ出したり、怒ってたりするということを忘れて書く人が危ないですよね。

糸井

そう言う僕たちは、プロの書き手として生きる覚悟はないのに、そんなことを考えてる読み手ですしね。

田中

そうそうそう（笑）、そうなんです。

糸井

ややこしいよねぇ。吉本ばななさんには「糸井さんは、ちょっと作家という職業を偉いと思ってる。でもそれは、ものすごく惜しいことだと思う」って言われます。

田中

そうなんだ（笑）。

糸井

自分でもそう思うんですよ、そんなこと考える必要ないのになぁって。作家とか、芸術家とか、表現者に対する拍手が目立ってるんでしょうね。もっとしょうもないものへの拍手も同じくらいできてるはずなのにね。

田中

だからバランス取って、僕のような、しょうもない戯言言ってる人間に夜中に絡むわけですか。ウザ絡みを（笑）。

糸井

だいたいが「www」で返されますけどね（笑）。ヘタすると、夜中ひと寝入りしてからまた絡んでたりするし。

田中

「もう夜中の３時半だけど、またなんか言ってきたよ」ってね（笑）。
まぁ永遠に馬鹿馬鹿しいことを楽しんでやるっていうのは、体力がいりますよね。

糸井

そうですね。

田中

でも、それができなくなったら、やっぱり偉そうな人になっちゃうんで。

　
（つづきます）