最後に話を聞いたのは、
同じチームで働いていた先輩・Yさんです。
私と同じタイミングで会社を退職し、
現在は違う業種のお仕事をしています。
1年ぶりに会いました。
- ーー
-
いつもYさんには仕事の相談をしているのですが、
あらためて一緒に働いていた会社について話をしたくて。
私にとって、あまり良い思い出になっていないんです。
- Yさん
-
今と昔の自分を比較して
昔のほうが輝いていたんだって思うのはね、嫌だよね。
人からそう思われるのも癪だし…。
でも、そんなに考えなくても良さそうだけどね。
- ーー
-
理由として、
再就職がうまくいかなかったからかなと思っているんです。
- Yさん
-
タイミングはあると思うよ。
あのとき(2008年から2009年頃)は大不況だった。
俺、忘れもしない出来事があるんだけどさ、
後輩と歌舞伎町へ飲みに行ったの。
歌舞伎町って混んでいるし、客引きもいるじゃない?
11月か12月の25日だったかなぁ。
交差点に客がいなかったの。まったく人がいないの。
- ーー
- お給料日なのに。
- Yさん
-
何があったんだ一体、って思ったね。
俺の知ってる歌舞伎町じゃないよと後輩に言ったら、
彼も「これは何かあったんですかね?」と驚いていたくらい。
リーマンショックのせいなんだけどさ、
本当に閑散としてて、大変なことが起きてるんだと実感した。
- ーー
-
出産したばかりで、私が家にこもっていた頃ですね。
知りませんでした。
- Yさん
-
あの時、再就職は難しかったと思う。
子供が生まれたこともあるから、
客観的に見ても最悪なタイミングだったんじゃないかな。
働くということはね、縁や運みたいな外的要因も大きいからね。
- ーー
-
外的要因も理由だと思うのですけど、
どこまで努力したら就職できるんだろうと悩みました。
30代後半になると管理職経験というものが求められますよね。
それを経験しなきゃって躍起になっていた時もあって。
- Yさん
-
自分がこうありたいという気持ちが強くて、
理想と現状のギャップを感じていると、
過去のことを忘れたいに繋がってしまうのかもしれないね。
もしくは、自分のやりたいことの方向が
昔の延長線上にないから苦しいのかも。
- ーー
- なるほど…。
- Yさん
-
みんな、口に出して言わないけど悩んでいるよね。
とくに40代特有の危機、
ミッドライフ・クライシスというものがあるんだけど
不安になったり、憂鬱になったりするの。
- ーー
-
子供も思春期だし、仕事でも責任が重くなる時期ですよね。
いろいろ悩みがあっても表に出さないのかぁ。
- Yさん
- 年取るとさ、俺もそうなんだけど執着が強くなってくるのよ。
- ーー
-
逆に気にならなくなるものだと思っていました。
Yさんは「僕は僕」というスタンスだと思っていたのですが、
考えが変わりました?
- Yさん
-
変わった、変わった。
たとえば、子供が大きくなったり友人との関係が変わったり、
時間が経つことによって環境が変化することに
慣れていないんだよね。
変わらないことに満足していた部分があるのかもしれない。
保守的になっている気がします。
- ーー
- 40才を過ぎても、価値観が変わることがあるのですね。
- Yさん
-
しんどいと思うのは、労働者としての自分の人生よりもさ、
プロダクトやサービスの寿命のほうがはるかに短いということ。
年をとっても、新しいことをし続ける必要が出てくるわけです。
- ーー
-
「あと10年で消える仕事」のような話を聞くと、
気が重くなります。
- Yさん
-
嫌いなこと、やらされていると感じている仕事から、
新しいことって生まれにくいよね。
そうなると、好きなものでないと勝負できないなと思う。
- ーー
- 好きなことじゃないと、そもそも続けられないです。
- Yさん
-
たとえばね、80才ぐらいのおばあちゃんがやってる、
めちゃくちゃ安い飲食店があるの。
おでんと焼酎飲み放題で2000円ぐらいのお店。
「東京ひとりでやってるババアの店」って呼んでるんだけど。
- ーー
- (笑)
- Yさん
-
なぜそんなに安いのかというと、
おばあちゃんたちは自分が店をやってる、
好きな仕事をやってるというのが大事だから。
採算はさておいて、その価格に落ち着くんだよね。
どんなに年をとっても、「ありがとう」と感謝されて嬉しいし
「働いてないとダメだ」と考えている。
これって仕事の究極的な形だと思わない?
- ーー
-
お孫さんとかハラハラしちゃいますね。
おでん作ってる場合なの、おばあちゃん!みたいに。
- Yさん
-
やらずにはいられないんだよね。
仕事って、本当はそういうものなのだなと思う。
自分の好きや生きがいが
「東京ひとりでやってるババアの店」には、
ぎゅっと詰まっている感じがする。
そういう人を見ていると元気になるから。
働くってこういうことかという、ベースの部分が見えてくるな。
- ーー
-
おばあちゃんも、
昔は家族を食べさせるためにお店をやっていたかもしれなくて。
働くって、時期によって目的も変わりますよね。
- Yさん
-
100年後ぐらいになったら、
人が働かなくてもいい世界がくるかもしれないからさ。
本当に好きなことだけでみんなが勝負していくことになったら、
「東京ひとりでやってるババアの店」みたいなのが
いっぱい出てくるんだなって。
- ーー
- 素敵ですねぇ。
おわりに
働くということは、なんだろう?
悩みに悩みましたが、
すっきりとした答えは見つかっていません。
でも、私が感じていた過去の仕事へのわだかまりについては
さまざまな視点での考え方を知り、
とても気持ちが楽になりました。
悩む姿を人に見せるのは恥ずかしいものです。
素直に悩むと、自分の傲慢さもでるし、
弱さにも気づきます。
その分、少しずつ前に進んでいるなと思える瞬間が
何回もありました。
悩むことって、喜怒哀楽と同じ、
当たり前のことなのかもしれない。
また「働くということ」について悩んでも、
悪いものじゃないって思える気がしています。
(悩みは尽きませんが、終わります)