- ユ
- 由理子先生のコンプレックスとは?
- 由
-
あのね、自分がやらないからコンプレックスになるの。
気がついた、今。
ユウキちゃんと話していて(笑)。
私はね、英語。
人を動かす人たちというのは、
頭の中で「やりたいねー、やりたいねー」じゃなくて、
本当にやってるんだよね。
すごく努力して必死になって。
それだけの思いが結局ないねと言われたら
「そうだね」と言うしかない(笑)。
- ユ
-
でもどうして私の中に先生が
こんなに残っているのですかね。
- 由
- ありがとうね〜、ユウキちゃん!
- ユ
- 本当です。
- 由
-
でもやっぱり、
ユウキちゃんのお母さんの心構えは違ったよ。
一生懸命日本語を身につけさせようというのは伝わった。
- ユ
- そうなんですか?
- 由
-
うん。
すごく伝わってきた。
当時、ある程度日本語ができたらいいんです、
というお母様もいらっしゃったし、
日本に帰るから「お願いします!
すぐに日本の学校に入れるようにしてください」
という方もいた。
でもユウキちゃんのお母さんは、
日本に帰るとか帰らないとかじゃなくて、
やっぱりユウキちゃんの人生において
日本語が必要だと思われてるんだな、
という感じがした。
- ユ
- ふううん。
- 由
-
繋げたいと。
日本語で。
- ユ
- そうですね…。

- 由
-
だから、外そうね。
そのコンプレックス(笑)。
なーーんにもコンプレックスに思うことないのにっ!
- ユ
- はい…
- 由
- ああ、面白いね〜。(キャハハハッと笑う)
- ユ
- 先生、 ありがとうございます。
- 由
-
努力。
自分の努力だよ。
褒めてあげなさい、自分を。
- ユ
- う、うん。
- 由
- でも日本人でよかったでしょ?
- ユ
-
はい、よかったと思っています。
日本に住んで、この国の深さを知れば知るほど…
- 由
-
やっぱり、二つの国に行ってしまったわけじゃない?
マイナスに考えれば、
いつも心が落ち着かないと思うんだけども、
なんでもマイナスとプラスの考え方があると思うの。
「あぁ、幸せだなぁ、
いろいろなところを見せてもらって」という…。
- ユ
- そうですね。
- 由
- いろいろあったから今のユウキちゃんがいるのよね。
- ユ
-
はい。
親にもたくさん苦労をかけました。
- 由
-
親はそれで成長するんだよ。
私も息子に感謝している。
暴れてくれて(笑)。
その時は「なにー!」って思うよ、本当にね。
でも今は、あぁ、感謝だなって。
- ユ
- 今日、私の中で何かが大きく動いた気がします。
- 由
-
ありがとうね、ユウキちゃん。
すごく嬉しいよ。
- ユ
-
先生。
本当に、本当にありがとうございました。
***
由理子先生と会う前、
私はどのような展開が待つかわからなくて
ドキドキしていました。
32年の月日は、シャイな小学生とその先生を
どのように変えているのだろうか、と。
「ハチ公前で会おうね」と言ってくれた先生は、
埼玉から電車に揺られてきてくださいました。
気が利かなくてごめんなさい、先生。
今は旦那さまとのゆったりとした時間の中で、
初めてのパリ旅行にワクワクしたり、
おふたりで全米を車で横断して(!)
お子様に会いに行ったり、
美味しい珈琲と共に70代を満喫されていると
話してくださいました。
「いろいろあったな〜」と笑う先生の姿に、
想像もできないドラマを感じました。

たまたまロスアンゼルスという街に
1981年に降り立った由理子先生、そして私の家族。
あの丘の上の、小さな日本語学校のおかげで、
こうして言葉に苦労することがなく、
東京で暮らすことができています。
そして「日本語」以上のものを学んでいたことにも、
ようやく気づきました。
32年かかったけれど。
言葉にするって。
表現するって。
大事なことなんですね。
由理子先生、本当にありがとうございました。
そして、最後まで読んでくださったみなさん。
ありがとうございました。
(おわります)