- ユ
-
日本とアメリカの文化の違いを
他に意識した時というのは?
- 由
-
LAで子供を育てた時に、違うな、と思った。
うちの下の子が…
もうすっごく大変だったのね。
- ユ
- アメリカで生まれた息子さん…
- 由
-
そう。本当に大変だったの。
先生をしていたのに恥ずかしいんだけど…
ありとあらゆる悪さをして育っちゃったのね。
結局は居場所が「カンフタブル」じゃなかったのよね。
- ユ
- 居心地が悪かった…
- 由
-
うん。私は英語があまり話せなかったから、
子供の学校に深く関わることができなかったの。
ちゃんと彼のことを見てあげることができなかった。
テストで80点取ってきたら、
「どうして?なんでもうちょっと頑張れなかったの?」
という雰囲気を出してしまってたのよね。
申し訳ないと思いながらも。
それでもうとにかく闘ったの、子供と。
- ユ
- はい…
- 由
-
何年か経ってから
子供にいろんなことを言われたけれど、
中でも印象に残っているのは
アメリカのご両親は「先生第一」じゃないって、言うのよ。
- ユ
- (頷く)
- 由
-
親は子供の言うことをちゃんと聞いて、
子供の言うことが「ちょっと違うな」と思っても
学校に話し合いに行ってくれるって言うの。
- ユ
- はい。
- 由
-
その、自分のために使ってくれた時間?
自分のことを考えて、
じゃあ先生のところに一緒に行こうかっていうね。
その時間が子供にとっては大事なんだって。
「ママは何もしてくれない。
いつも僕が悪くて、先生が正しい」って言うの。
確かにそうなのよー!(笑)
- ユ
- それは息子さんがおいくつぐらいの時の話ですか?
- 由
-
小学校の2年生ぐらいかな。
話し合ったのはもうちょっと大きくなってから。
中学生ぐらいかなぁ…
- ユ
- へぇ…
- 由
-
こういう話もあって。
「僕は先生に髪型のことで怒られた」って、言うの。
- ユ
- アメリカンスクールの。
- 由
-
そうそうそう。
こういう形の前髪(逆さまのVの仕草)をしてたの。
「同じ髪型をしている人がいるのに、僕だけ怒られた」と。
私は日本人なものだから、
もちろん親の資質というのもあるけども、
「まさか先生がそれだけのことで怒るわけない」と思うわけ。
他に悪いことをしたんだろうな、
と思っちゃうわけよ。
で、つい先生の味方をしちゃう。
でもうちの子は、
「同じ髪の子が怒られないで、僕だけ怒られた。
ママに言ってもダメだから、
僕は悔しいから校長先生のところへ行った」って。
そしたら校長先生が、その先生のところに来て、
同じ髪型の子を見て、先生に注意してくれたの。
「それで僕は本当にホッとした」と言うわけじゃない!?
- ユ
- あぁぁぁぁぁ、すごいですね、息子さん。
- 由
-
(笑)
たまたまその強さをうちの子が持ってたから、
今は大丈夫なんだけど。
持ってなかったら今頃どうなってたかなって。
そういうふうに思うのね。
- ユ
- 息子さんは今もアメリカに?
- 由
-
うん、今は自分の経験を通して、
例えば音楽がやりたい、
アートをやりたいと望んでいるけれど
親に反対されて道を閉ざされてしまう…
そういう経験をしている子たちが反発して学校をやめたり、
トラブルを起こしたり、
そういう方向に行かないためのサポートしている。
- ユ
- すごい。
- 由
-
「僕は本当にママに迷惑をかけた」って言うのね。
私は「ママがアメリカの社会に溶け込まなかったから、
あなたのことを理解できなかったから、
本当に悪いと思う」って。
すごく恥ずかしい話なんだけど、
子供たちはこうやって悩むんだよね。
居場所がなくて。
- ユ
- …わかるなぁ。

***
話を聞きながら、由理子先生の息子さんは「強い」と思った。
子供のころ、その強さを持たない私にとって
「表現すること」は難しかった。
それは英語でも、日本語でも。
それがようやく変わり始めたのは、
アメリカの大学を卒業して数年後。
LAの知人を通じて
日本のスクールで「教える」仕事に就いた。
もちろん、教える経験は初めて。
自分自身が生徒の前に立った時、
「表現がしづらそうな子たち」にばかり目が行った。
***
- ユ
-
私も20代半ばから、少し教育に関わっていた時期があって。
あんなに表現ができなかった私が
「表現を教える」みたいな立場になったんです。
すごく皮肉なことに(笑)。
- 由
-
へぇ!
もともと持ってたのね、ユウキちゃん。
- ユ
-
いえいえ。
全くどうしていいかわからずに。
一応英語を教える、ということで雇われたので、
みんな本当に英語をやりたいの?
というところから入って。
- 由
- いいねぇ。
- ユ
-
そんなこと聞かれて
生徒たちもぽかんとしていました(笑)。
自由に授業を考えていいとのことだったので、
思いつきでブロードウェイのミュージカルを取り入れたんです。
英語のことは考えなくていいから、
まずこの一曲だけ聴いてみよう、と言って
自分の好きな曲を流しました。
- 由
- 素敵。
- ユ
-
その一曲の歌詞を掘り下げたり、
歌っている人物の感情を分析して、
自分たちに当てはめてみたりして。
みんなが「わぁ〜、ロジャー(涙)」となったところで
「続き知りたい?」って(笑)。
賑やかな子もそうでない子も、
作品への感情移入がすごくて。
私も「なんだか行けそう」と思って、
1本のミュージカルを1年かけて紐解いていったんです。
試行錯誤しながら。
- 由
- へぇぇ。
- ユ
-
そこは歌とダンスを専門とするスクールだったので、
「ここまでやっちゃっていいんだ!」と目覚めた生徒たちの
表現力はすごかったです。
全編英語で、しかも表情がナチュラルで豊か。
ステージ経験のある子もない子も、
「自分のもの」にしていくんですよね。
- 由
- うんうん!
- ユ
-
そこで思ったのが、日本の子たちは
ものすごい感情を秘めてるなって。
でもみんながぶつかる「表現の壁」は相当厚い。
- 由
-
わかる!
テクニックはいいのよ、
日本のピアニストでも何でも。
- ユ
- はい!素晴らしいです。
- 由
-
テクニックは間違いない。
でも…。
…。
フィーリング。
フィーリングっっっ!(笑)
- ユ
-
まさに!(笑)
その「フィーリング」は
どうやって身につけるのでしょうか?
- 由
- みんなそれぞれ、持って生まれてるんだと思う。
- ユ
- 私もそう思います。
- 由
-
でも、それを潰されちゃうことが多い。
みんなと同じじゃないといけない。
ずば抜けたらいけない。
アメリカは、どうやったら自分が
人と違う表現ができるか?でしょ。
- ユ
- はい。
- 由
-
日本で育った場合、
やっぱり出る杭にならないといけないんだけど。
出る杭になるためには、
ある意味での強さ、信念と言うか、自信というか…
- ユ
- あとは自分にあう表現手段とぶつかること…?
- 由
-
それ、難しいよね。
運もあるしね。
やっぱり、もっと自由にいろいろ…
でもね〜。
「ダメダメ」が多いんだよね、日本はね…
日本人はね、私すごいと思うのよ。
持って生まれたものが。
まず、真面目でしょ。
- ユ
- はい。
- 由
-
違う人たちもいるけれど、
全般的に見たら、真面目。
そして誠実。
いいかげんじゃないよね。
人間としてすごくいいものをいっぱい持ってると私は思うの。
でもやっぱり、今までのカルチャーに抑えられてる
部分があるんじゃないかな。
- ユ
-
自分が何が好きかを知るには…
どうしたらいいんですかね…。
***
話は一向に終わりそうにない。
釜飯はすっかりなくなっていた。
(つづきます)