もくじ
第1回一本の電話から。 2017-05-16-Tue
第2回神社ってなんですか、先生? 2017-05-16-Tue
第3回持って生まれたフィーリング 2017-05-16-Tue
第4回秘めている感情 2017-05-16-Tue
第5回言葉にするって。 2017-05-16-Tue

ここ3年ほど、毎日飽きずにバタートーストに魅了されています。日本に住んで3年、どうやらそのことに関係があるらしい。ロサンゼルスから来ました。よろしくお願いします。

言葉にできるまで。

言葉にできるまで。

担当・ユウキ

第3回 持って生まれたフィーリング

日本とアメリカの文化の違いを
他に意識した時というのは?
LAで子供を育てた時に、違うな、と思った。
うちの下の子が…
もうすっごく大変だったのね。
アメリカで生まれた息子さん…
そう。本当に大変だったの。
先生をしていたのに恥ずかしいんだけど…
ありとあらゆる悪さをして育っちゃったのね。
結局は居場所が「カンフタブル」じゃなかったのよね。
居心地が悪かった…
うん。私は英語があまり話せなかったから、
子供の学校に深く関わることができなかったの。
ちゃんと彼のことを見てあげることができなかった。
 
テストで80点取ってきたら、
「どうして?なんでもうちょっと頑張れなかったの?」
という雰囲気を出してしまってたのよね。
申し訳ないと思いながらも。
それでもうとにかく闘ったの、子供と。
はい…
何年か経ってから
子供にいろんなことを言われたけれど、
中でも印象に残っているのは
アメリカのご両親は「先生第一」じゃないって、言うのよ。
(頷く)
親は子供の言うことをちゃんと聞いて、
子供の言うことが「ちょっと違うな」と思っても
学校に話し合いに行ってくれるって言うの。
はい。
その、自分のために使ってくれた時間?
自分のことを考えて、
じゃあ先生のところに一緒に行こうかっていうね。
その時間が子供にとっては大事なんだって。
 
「ママは何もしてくれない。
いつも僕が悪くて、先生が正しい」って言うの。
確かにそうなのよー!(笑)
それは息子さんがおいくつぐらいの時の話ですか?
小学校の2年生ぐらいかな。
話し合ったのはもうちょっと大きくなってから。
中学生ぐらいかなぁ…
へぇ…
こういう話もあって。
「僕は先生に髪型のことで怒られた」って、言うの。
アメリカンスクールの。
そうそうそう。
こういう形の前髪(逆さまのVの仕草)をしてたの。
「同じ髪型をしている人がいるのに、僕だけ怒られた」と。
 
私は日本人なものだから、
もちろん親の資質というのもあるけども、
「まさか先生がそれだけのことで怒るわけない」と思うわけ。
他に悪いことをしたんだろうな、
と思っちゃうわけよ。
で、つい先生の味方をしちゃう。
 
でもうちの子は、
「同じ髪の子が怒られないで、僕だけ怒られた。
ママに言ってもダメだから、
僕は悔しいから校長先生のところへ行った」って。
そしたら校長先生が、その先生のところに来て、
同じ髪型の子を見て、先生に注意してくれたの。
「それで僕は本当にホッとした」と言うわけじゃない!?
あぁぁぁぁぁ、すごいですね、息子さん。
(笑)
たまたまその強さをうちの子が持ってたから、
今は大丈夫なんだけど。
持ってなかったら今頃どうなってたかなって。
そういうふうに思うのね。
息子さんは今もアメリカに?
うん、今は自分の経験を通して、
例えば音楽がやりたい、
アートをやりたいと望んでいるけれど
親に反対されて道を閉ざされてしまう…
そういう経験をしている子たちが反発して学校をやめたり、
トラブルを起こしたり、
そういう方向に行かないためのサポートしている。
すごい。
「僕は本当にママに迷惑をかけた」って言うのね。
私は「ママがアメリカの社会に溶け込まなかったから、
あなたのことを理解できなかったから、
本当に悪いと思う」って。
すごく恥ずかしい話なんだけど、
子供たちはこうやって悩むんだよね。
居場所がなくて。
…わかるなぁ。

***

話を聞きながら、由理子先生の息子さんは「強い」と思った。
子供のころ、その強さを持たない私にとって
「表現すること」は難しかった。
それは英語でも、日本語でも。

それがようやく変わり始めたのは、
アメリカの大学を卒業して数年後。
LAの知人を通じて
日本のスクールで「教える」仕事に就いた。
もちろん、教える経験は初めて。
自分自身が生徒の前に立った時、
「表現がしづらそうな子たち」にばかり目が行った。

***

私も20代半ばから、少し教育に関わっていた時期があって。
あんなに表現ができなかった私が
「表現を教える」みたいな立場になったんです。
すごく皮肉なことに(笑)。
へぇ!
もともと持ってたのね、ユウキちゃん。
いえいえ。
全くどうしていいかわからずに。
一応英語を教える、ということで雇われたので、
みんな本当に英語をやりたいの?
というところから入って。
いいねぇ。
そんなこと聞かれて
生徒たちもぽかんとしていました(笑)。
自由に授業を考えていいとのことだったので、
思いつきでブロードウェイのミュージカルを取り入れたんです。
英語のことは考えなくていいから、
まずこの一曲だけ聴いてみよう、と言って
自分の好きな曲を流しました。
素敵。
その一曲の歌詞を掘り下げたり、
歌っている人物の感情を分析して、
自分たちに当てはめてみたりして。
みんなが「わぁ〜、ロジャー(涙)」となったところで
「続き知りたい?」って(笑)。
賑やかな子もそうでない子も、
作品への感情移入がすごくて。
私も「なんだか行けそう」と思って、
1本のミュージカルを1年かけて紐解いていったんです。
試行錯誤しながら。
へぇぇ。
そこは歌とダンスを専門とするスクールだったので、
「ここまでやっちゃっていいんだ!」と目覚めた生徒たちの
表現力はすごかったです。
全編英語で、しかも表情がナチュラルで豊か。
ステージ経験のある子もない子も、
「自分のもの」にしていくんですよね。
うんうん!
そこで思ったのが、日本の子たちは
ものすごい感情を秘めてるなって。
でもみんながぶつかる「表現の壁」は相当厚い。
わかる!
テクニックはいいのよ、
日本のピアニストでも何でも。
はい!素晴らしいです。
テクニックは間違いない。
でも…。
…。
フィーリング。
フィーリングっっっ!(笑)
まさに!(笑)
その「フィーリング」は
どうやって身につけるのでしょうか?
みんなそれぞれ、持って生まれてるんだと思う。
私もそう思います。
でも、それを潰されちゃうことが多い。
みんなと同じじゃないといけない。
ずば抜けたらいけない。
アメリカは、どうやったら自分が
人と違う表現ができるか?でしょ。
はい。
日本で育った場合、
やっぱり出る杭にならないといけないんだけど。
出る杭になるためには、
ある意味での強さ、信念と言うか、自信というか…
あとは自分にあう表現手段とぶつかること…?
それ、難しいよね。
運もあるしね。
やっぱり、もっと自由にいろいろ…
でもね〜。
「ダメダメ」が多いんだよね、日本はね…
 
日本人はね、私すごいと思うのよ。
持って生まれたものが。
まず、真面目でしょ。
はい。
違う人たちもいるけれど、
全般的に見たら、真面目。
そして誠実。
いいかげんじゃないよね。
人間としてすごくいいものをいっぱい持ってると私は思うの。
でもやっぱり、今までのカルチャーに抑えられてる
部分があるんじゃないかな。
自分が何が好きかを知るには…
どうしたらいいんですかね…。

***

話は一向に終わりそうにない。
釜飯はすっかりなくなっていた。

(つづきます)

第4回 秘めている感情