- ユ
- 自分が何が好きなのか、わかるには…
- 由
-
そうねぇ…
私の母はものすごく厳しい人だったの。
自分の箱の中で育てたくて、
その箱から出たら、
ぽんぽんぽんと箱の中に返されるわけよ。
私は怒られたくないから、
いい子でいよう、褒められることだけをしようって
頭がそっちばかりに行って。
あまりそれが強いと、
自分がなにをしたいのか、なにが好きなのか、
考えられなくなってきちゃうんだと思う。
- ユ
- はい…
- 由
-
子どもを信頼して、見守ってあげること…。
ほったらかしにするのと、見守るというのは
全然違うという気持ちがあるのね。
外の人が見たら「あんなにほっておいて!」
と見えるかもしれない。
でも、見守っているのよね。親として。
それは子供に伝わると思うの。
例えばこの家族は(手のひらに円を描き)
この円の中だけで見守ってあげる。
で、落ちそうになったらぴっと支えてくれる。
危ないよーって。
ある親は(手のひらより大きな円を描き )
これぐらいの円があるわけよ。
その中で自由にさせてくれて、
落ちそうになったら支えてくれる。
やっぱり円が大きければ大きいほど、
子供は自信を持って生きていける。
そうすると、
おまえできないなって言われてもへこたれないし、
自分がやりたいということが
人から見てどうということよりも
「やってみたい」という思いが
強くなるんじゃないかと思うの。
- ユ
- はい。
- 由
-
だからまず家庭かな、って思うのよね。
それと、日本人はやっぱりよその人の目、
恥ずかしくないようにというのが強いのよね。
- ユ
- それで冒険ができない?
- 由
-
そう、冒険!
Fearというの?
それが強いと思うの。
と同時に、成功している日本人もいっぱいいるわけじゃない?
そういう人たちを見ると、
やっぱり思ったことを通してるよね。
人の話をばっさり切り捨てるんじゃなくて、
聞きながら、その中でチョイスしている。
- ユ
- もともと持っている資質、ですか?
- 由
-
一応みんな持ってると思うよ。
生まれた時から持っている。
- ユ
-
アメリカでは「人はみんな表現したいし、すべきだ」
という教育を受けるんです。
- 由
- うんうん。
- ユ
- Everyone has something to say. (誰にも意見はある)
- 由
- Yes.
- ユ
-
でも日本ではそういうのって
あまり求められてないのかなって?
表現をすることって…。
- 由
-
いやぁ、したいんだと思う。
したくてもできないから
悩んでるんだと私は思う。
自分が前に出るとか、自分を表現するとか。
そういうことは「いけないこと」だと
知らないうちに染みついちゃってるんじゃないかな。
心の奥底では、いいなぁ、
私もやってみたいなぁって。
でもその前に、できるわけないよ、って思っちゃう。
本当にやりたい人は恥をかいてもやる。
恥かかなきゃ成長できないじゃない。
失敗しないで上に行くなんてないじゃない。
だから、失敗してもいいんだという思いを
もっと伝えたいなと思う。
- ユ
-
はい。
それで思い出したことが…
私、日本のスクールで教える日々を経て、
34歳の時にNYに引っ越したんです。
- 由
- うんうん。
- ユ
-
自分が教えていた演技や表現が
正しかったのか知りたくて
演技のスタジオに通い始めました。
- 由
- へぇ、えらい。
- ユ
-
いえ、全然です。
覚えているのは、クラスの初日。
20人ぐらいいたかな。
その中に50代後半ぐらいの、
バスの運転手のユニフォームを着た
体の大きな黒人の女性がいたんです。生徒として。
- 由
- おー!アメリカー!
- ユ
-
その人の19歳の娘さんも
同じクラスに生徒としているんです。
- 由
- いいねーー!
- ユ
-
私ももう30代半ばで、今さら演技なんて…
多分最年長だろうなぁ、と思っていたら。
そういう人とか、
40代のお腹の出たおじさんもいて(笑)。
- 由
- うんうん。
- ユ
-
他にも現役モデルとか、
英語の発音で苦労していたクロアチア人男性とか。
いろいろな人がいました。
自己紹介で、そのバスの運転手の女性が言ったんです。
「私は18歳の時、リー・ストラスバーグのスタジオ
のオーディションに受かりました」って。

(リー・ストラスバーグは、マーロン・ブランド、ロバート・デニーロ、
アル・パチーノ、マリリン・モンローなどを輩出したNYの「アクターズ・スタジオ」の伝説の演技指導者)
- ユ
-
すごく淡々と話すんです。
「私はそのスクールで演技を学びはじめましたが、
But life took over(人生に逆らえなかった)」って。
- 由
- あ〜。
- ユ
-
「事情があって通えなくなったので
バスの運転手になりました。
私はもうすぐ60歳になります。
60になったらバスの運転手を引退して、
I want to be an actress」
女優になりたい、と言ったんです。
- 由
-
わーーーー!いいねーーー!
拍手だよ。
- ユ
- その場にいたみんなが拍手でした。
- 由
-
いい話!
希望をもらうね。
- ユ
- はい。
- 由
-
いいなぁ。
年は関係ないよ。
本当に関係がない。

- ユ
-
いろんなものを勝手に背負ってる自分がバカみたいでした。
アメリカでマイノリティとして育つと、それはそれで
「ここまでしかできない」という
感覚が植えつけられるところがあって。
私の経験ですが。
- 由
- うん。
- ユ
-
…あのぉ、今話してて思ったんですけど。
私、どこまでコンプレックスの塊なのでしょうか(笑)。
- 由
-
あははは。
コンプレックスって、
私もいっぱい持ってるけど、
自分で勝手に持つものだよね(笑)。
- ユ
- 本当ですね…
(つづきます)