土鍋を買う店は、なんとなく自分の中で決めていた。
母がお気に入りの陶器屋だ。
そのお店は、毎年初詣に行く神社の近くにあるお店で、
帰りに覗いてみるのが我が家の習慣だった。
茶碗、深皿、小皿、湯のみ、箸置き‥‥
なんでもござれの取り揃えである。
デパートの食器売り場ではあまり見ることのない、
つくり手の作風が伝わってくる器たちを見ているのが、
子どもの頃から好きであった。
ちなみに、現在愛用している曲げわっぱのお弁当箱も、
ここのお店で購入したもの。
「この曲げわっぱのお弁当に詰めると、ご飯が美味しく
感じられるんですよ」
という店主さまの言う通り、
購入したわっぱに入れると、見映えの良いお弁当に
仕上がる。ご飯もいつもよりおいしい気がする。不思議だ。
自分の好みに合う、器と出会える場所。
きっと土鍋も見つかるだろう。
その思いに応えるように、土鍋は店頭に並んでいた。
しかも、数種類も、だ。
‥‥土鍋って、こんなに形が様々なんですね。
肌の色が違っていたり、深さが違っていたり‥‥
選びがいがあるが、悩ましい。
すると、馴染みの店主さまが、すすす‥‥と側に来て
「土鍋も色々、ありますからねぇ」
と言いながら、土鍋について教えて頂いた。
その中でも気になったものは、IHでも対応できる土鍋。
ガス火以外にも使える土鍋であれば、今後役に立つ場面が多そうだ。
しかも、吹きこぼれにくいように、少し深めに作られているという。
「あの時の曲げわっぱも、半年待ちの商品で店頭にないんですよ。
器もですけど、こういったものはご縁ですねぇ」
と、店主さま。
さすが、買い手の心理をついてくる。
だけど、私もそう思う。
「欲しい」と思い続けていたものと
「出会う」タイミングは必ずあると思うのだ。
店主さまの言葉も後押しして、
私はそのお店で土鍋を購入した。
これから、どうぞよろしく、土鍋。

(続きます)