もくじ
第1回出国267日目、タンザニア。 2017-04-18-Tue
第2回出国687日目、メキシコ。 2017-04-18-Tue
第3回出国765日目、アメリカ。 2017-04-18-Tue
第4回出国937日目、タジキスタン。 2017-04-18-Tue
第5回帰国407日目、日本。 2017-04-18-Tue

自然と音楽とお酒と言葉とトライアスロンと晴れの日とバンジージャンプと甘いものとキリンと祭とぶり大根が好きです。

私の好きなもの</br>生きてる感

私の好きなもの
生きてる感

担当・松谷一慶

第4回 出国937日目、タジキスタン。

危ないかもしれない、と思った時にはもう、
目の前にナイフを持った4人組がいた。

「死にたくない」と思った。
心臓がすごい速さで鳴っていた。
打開策を考えたり迷ってりする間も無く、
すべての荷物を奪われ、
彼らは車でどこかで走り去った。
真っ暗闇の田舎道に、ひとり取り残された。

念のため体を動かしてみて、
痛みがないことを確認した。
鼓動の高まりはしばらくおさまることはなく、
静寂を噛みしめ、拳を強く握った。
偶然ポケットに入っていた、
パスポートとipadが盗られていないことを確認した。
どうにか旅は続けられそうだというのが唯一の救いだった。

とりあえず街まで行かないと、
と遠ざかりそうな思考をなんとか繋ぎとめ、
誰に向けてかわからない平静を装って歩いた。
泊まる予定だった宿に着いたのが深夜2時頃。
事情を説明すると、
お金はいらないからとりあえず今日は休みなさいと、
ベットを準備してくれた。

日本からの送金や、警察関連の手続きが終わって、
これから先のことを考えていた。
タジキスタンに西から入った場合、
何人かで車をチャーターし、1週間くらいかけて、
キルギスへ抜けるのが一般的なルートになっている。
ほんとはすぐにでもその仲間を探さないといけないけれど、
強盗にあってから、なんだかやる気が出なかった。

考えるのが面倒になって、
布団から出たくないと何度も思ったし、
笑いかけてくれる人にもうまく反応できず、
靴のかかとを踏むことへの罪悪感も感じなくて、
そういったことの全てが、すごく悲しかった。
いつも通りに過ごせなくなっている自分が嫌だった。

そんな時、同じ宿に泊まっている
ドイツ人のグループが声をかけてくれた。
必要なものは全部貸してあげるから、
一緒にキルギスまで行かないか、という誘いだった。
ありがたすぎる誘いを断る理由はなかった。
次に進もうと、気合が入るのがわかった。
当たり前に続いていた毎日を、当たり前に続けようと思った。

強盗にあったという過去は変えられない。
そして、それをよかったと思うことなんて決してない。
けれど、それによって未来まで変えられるのは、ごめんだ。

取られた荷物は戻ってこないし、
命あるだけ良かったなんて思えないし、
だからみんなの優しさに気づけた、
みたいな美談で終わらせるのも癪だけれど、
これ以上、奪われてたまるかと思った。
時間をチャンスをこれからの旅を
僕のものとして守っていこうと思った。

生きているなら、
生きていこうと思ったし、
きっと、生きていけると思った。

「生きている」と思った。

(つづきます)

第5回 帰国407日目、日本。