もくじ
第1回出国267日目、タンザニア。 2017-04-18-Tue
第2回出国687日目、メキシコ。 2017-04-18-Tue
第3回出国765日目、アメリカ。 2017-04-18-Tue
第4回出国937日目、タジキスタン。 2017-04-18-Tue
第5回帰国407日目、日本。 2017-04-18-Tue

自然と音楽とお酒と言葉とトライアスロンと晴れの日とバンジージャンプと甘いものとキリンと祭とぶり大根が好きです。

私の好きなもの</br>生きてる感

私の好きなもの
生きてる感

担当・松谷一慶

第3回 出国765日目、アメリカ。

夕方ごろ、ロサンゼルスの空港のベンチに座っていた。
一緒にアメリカを横断する約束の友達と待ち合わせていて、
到着は深夜になるとの連絡があった。

いくつかうまくいかないことが重なっていて、
それを考えていたらあっという間だろうと思い、
気長に待つことにした。

突然、アメリカ人のおばあちゃんに声をかけられた。
空港近くのホテルに行きたいけれど、
どうやっていけばいいのかわからないので
教えてくれないか、とのことだった。
案内所で聞いた方がスムーズなのにな、と思いながら、
携帯に入っている地図アプリで調べてみると、
空港からそう離れていない場所だった。

友達が来るまで特に予定もなかったのと、
少し気分転換もしたかったので、
「案内するよ」と伝えると、
おばあちゃんは少し驚いた顔をして、
「ありがとう」とくしゃっと笑った。
いい笑顔だなと思った。

ホテルまで歩きながら、
おばあちゃんは僕にいろいろ質問した。
「どこから来たの?」
「何をしてるの?」
「アメリカはどこに行くの?」

日本から来たけど、今は旅行中で、この後アメリカ横断する、
と、僕が答える度に、
おばあちゃんは、ひとつひとつ大きくリアクションした。
少し恥ずかしい気はしたけれど、
自分のことで反応してもらえるのは、
結構嬉しいものだなと思った。

ホテルには30分くらいで着いた。
別れ際、なんとなく気になったので、
「どうして、見るからに旅行者の僕に道を聞いたの?」
と、尋ねると、おばあちゃんは、
「あなたがなんだか元気がなさそうな顔をしていたから、
話しかけてみたのよ」と答えた。

言葉に詰まった。
「ありがとう」すらでてこなかった。

定まらない表情の僕をみて、
おばあちゃんはくしゃっと笑いながら、
「でも道がわからなかったのは本当よ、
アメリカ横断楽しんでね」
と、言いながら最後にギュッと僕を抱きしめた。

「生きている」と思った。
「生きてきてよかった」とも思った。

この旅の全てが、
これまで生きてきたことの全てが、
肯定されたような気がした。
エンディング曲が流れてもいいんじゃないかとすら思った。

旅の途中、たくさんの人に会った。
優しい人もいたけれど、そうじゃない人もいた。
すごく悲しい気持ちなることもあった。
けど、きっとそれでいいんだと思う。

全ての人が、全ての瞬間に優しくある必要なんてない。
どこかに優しい人がいることを、僕は知っていて、
その人にいつか必ず会える日々を生きている。

僕らは人知れず戦っている。
不安は絶えず、迷いは尽きない。
でも、大丈夫。
いつか全てが肯定される、そんな日がきっとくる。
そういう風に信じるくらいの価値は、この世界にある思う。

生きていくには、わるくない世界なのかもしれないと、
その時ようやく気がついた。

(つづきます)

第4回 出国937日目、タジキスタン。