もくじ
第1回出国267日目、タンザニア。 2017-04-18-Tue
第2回出国687日目、メキシコ。 2017-04-18-Tue
第3回出国765日目、アメリカ。 2017-04-18-Tue
第4回出国937日目、タジキスタン。 2017-04-18-Tue
第5回帰国407日目、日本。 2017-04-18-Tue

自然と音楽とお酒と言葉とトライアスロンと晴れの日とバンジージャンプと甘いものとキリンと祭とぶり大根が好きです。

私の好きなもの</br>生きてる感

私の好きなもの
生きてる感

担当・松谷一慶

第2回 出国687日目、メキシコ。

モーターサイクルダイアリーズ、
という映画が好きだった。

若き日のチェゲバラがバイクで南米を旅する映画で、
ひとつひとつのシーンが最高にかっこよくて、
いつかこんな風にバイクで旅をしてみたいと思っていた。
中米をどうやって旅しようかと考えていた時、
ふと、この映画のことを思い出した。

はじめは冗談半分くらいのつもりで考えていたんだけれど、
調べるにつれて、手が届くところにその夢があることがわかって。
最後の方は、憧れに追いつけるかもしれない興奮に背中を押され、
勢いのまま残金の半分を使って、中古のバイクを購入した。

登録や保険など、ひととおりの手続きを済ませて、
30歳の誕生日に、バイク旅を始めた。

中米を縦断し、目指すはパナマ。
かかる音楽はもちろんイージューライダー。

何もないな 誰もいないな 快適なスピードで
道はただ延々続く 話しながら 歌いながら  
イージューライダー/奥田民生

あとから知ったのだけれど、
イージューライダーというタイトルは、
業界用語で30をあらわすE10(イージュー)と、
映画イージーライダーをかけていて、
30歳のバイク乗りという意味があるらしい。
それを知ってまたこの曲が好きになった。

荒野が続くメキシコを抜けて、
グアテマラ、エルサルバドル、ニカラグア、
ホンジュラス、コスタリカ、パナマとぐんぐん南下していく。

晴れた日に思いのまま広大な道をバイクで進む。
青い空の下、両サイドにはサボテンだらけの荒野。
太陽がじりじりと肌を焦がし、
中米の匂いを運ぶ風が気持ちいい。
スロットルを回した分だけ、世界が早く進む。

想像していた何倍も、バイク旅は最高だった。

その日も、いつも通りバイクを走らせながら、
夕日が沈んでいくところを見ていた。
今日はどこに泊まろうかなと、
テントが張りやすそうな場所を探していると、
ガタッという音とともに、バイクが減速した。

バイクを調べて見ると、チェーンが切れていた。
中古のバイクなので、こういうトラブルはよくあって、
それで焦ることはないんだけれど、
予備のチェーンがない以上、
ひとりでは直せないことは明らかだった。
地図を見ると、一番近い街までで50km。
通りがかる車に助けを求めるしかないけれど、
高速道路のようなその場所は、車を止めるには不向きで、
助けてくれる車を見つけられないまま時間だけが流れていた。

夕日は完全に沈み、次第に暗くなってきた。
ポツポツと雨も降り出してきて、
全然止まってくれない車を目で追いながら
これはちょっと面倒なことになったなと思った。
リセットボタンを押して前のセーブポイントから、
なんてわけにもいかず、
真夜中に近づいてきたこともあって、
チェーンの切れたバイクを近くの木の下まで運んで、
その日は、そこで寝ることにした。

朝起きると雨はやんでいた。
さてどうしようかと考える頭は、
寝たこともあってスッキリしていた。

ここにいるのは僕だけで、
待っていても誰もきてくれない。
車もどうやら止まってくれない。
驚くほどさみしい気持ちになったし、
50kmの道のりをバイクを押して歩くのに、
どれくらいかかるんだろうと憂鬱になったけれど、
それでも、進むしかなくて。

よし、と気合を入れて、バイクを押しはじめた。
「生きている」と感じた。

結局、夕方まで歩いて休んでいるところに、
通りかかったトラックの運転手のおじいちゃんが、
バイクごと次の町まで運んでくれて、
あっけなくどうにかなったんだけど。

困った、助けてほしい、誰もいない、
の不安のドミノ倒しが最後にたどり着いたのが、
「でも進むしかない」という諦めを通り越した前向きの決心で。

夢みてただけでは想像すらできない世界があって、
そこには不安も苦しみもあって、
でもそこでも前に進もうと思えるのは、
なんだかすごくいいなと思った。

(つづきます)

第3回 出国765日目、アメリカ。