もくじ
第1回1日限りのミニ水族館。 2016-12-06-Tue
第2回「段差を埋める」ことを心がける。 2016-12-06-Tue
第3回子どもたちに背中を押されて。 2016-12-06-Tue
第4回都市の川が、自分には合ってる。 2016-12-06-Tue
第5回人と自然をもっと近くに。 2016-12-06-Tue

神戸生まれの26歳。普段は科学関係の記事を書く仕事をしています。学生時代と社会人のはじめを東京で過ごしました。2016年10月から大阪在住。

都市の川が、面白い。</br>~自然を教えるという仕事~

都市の川が、面白い。
~自然を教えるという仕事~

担当・みかんいぬ

第3回 子どもたちに背中を押されて。

ミニ水族館の片付けを終えて、
やってきたのは横浜駅のそばにあるパスタ屋です。

――
おつかれさまです!
寺田
おつかれさま!
ああ、明日仕事じゃ無ければ飲むのになあ。(笑)
――
明日って日曜ですけど。
寺田
日曜は都内で
ミニアクアリウムのワークショップをやるんだよ。
――
過密なスケジュールですね…
寺田さんって、
昔からずっと環境学習をやりたいと思って
今に至るんですか?

寺田
いやいや。
最初は俺、全然環境学習をやるつもりはなくて。
むしろ自然の調査とかビオトープ作りをやりたかった。
人と話すよりも、とにかく
自然と向き合えばいいと思ってたんだよね。
たとえばある川が自然再生するためには
こういう堰を作ればいいとか、
ビオトープを町なかにどう作れば
生き物のネットワークが形成されるか、とか。
――
はい。
寺田
でも、そのうちこれって、
1人で何か頑張って
成果が出ることじゃないなって思って。
どんどん人と自然が離れていく中で、
結局自分が死ぬ間際になった頃にさ、
こんなに俺頑張ったのに、
「結局昔より環境が悪くなってるじゃん」
ってなりかねないと思ったんだよ。
――
そう思うきっかけって、何かあったんですか?
寺田
大学を出た後の、就職の時かな。
自然の調査をやる環境コンサルの会社とか、
建設会社のビオトープを作る部門とか、
そういう所に行きたかったんだよね。
 
でも、大学2年ぐらいから
どんな仕事なんだろうって調べていくと
色んなことが見えてきて。
大きい会社では現場に出ずに
仕事を下請けに回しちゃってるとか、
現場の方は元請けの会社の事情があるから
本当はこうしたい、と思ってもできないとか。
それを知ったら、
「俺、結局どこに入っても変わんねえじゃん」
って感じになっちゃって。
――
ああ……

寺田
でも、そのときに思ったんだよね。
何か1つのものを変えるのに、
1人で動いて駄目なんだったら、
10人とか20人、人がいれば変わるかもしれない。
俺が連れてきた20人がいたとして、
その20人の一人ひとりがまた20人を連れてくると……
って計算をしていった時に、
そのやり方の方が絶対効率がいいなと思って。
 
するとさ、次の世代を担ってくれる子どもたちに
環境学習っていうものをやっておくといいなって
思うようになったわけ。
たとえばクラスに40人の子どもがいたとして、
初めはみんな全く自然に興味が無かったとしても、
環境学習とか自然体験をした後で
40人のうち1人でも興味を持つ子がいたとしたら。
それを1年間で何十クラスもやれば、
何十人もの子が興味を持ってくれるぞ、みたいな。
で、その興味を持った子が友達と一緒に川に行ったら、
また興味を持つ子が増えて……
というイメージがちょっとずつできてきてさ。
――
はい、はい。
寺田
1人自分の中で考えてる、
「自然環境を良くしたい」
っていうのを実現するためには、
それはもうネズミ算的に増えるような
マンパワーが欲しいんだよね。
 
そうやって考えていった時、
環境学習ってやる意義があるぞって、
全く別の方向からも気付かされて。
――
と、言うと。
寺田
実はそれが、君が大学時代にアルバイトしてた、
横浜のNPOで働きはじめた時のことなんだけど。
――
懐かしいです。
植物の調査とか、
子ども向けにドングリの種類を教える講座とか、
私も色々やらせてもらいました。
寺田
NPOに来る前、
俺は環境調査の会社に就職してたから、
はじめは土日だけバイトで入ることになったんだよね。
そこで、1年間に10人くらいの
近所の子を相手にするだけの
環境学習をやらせてもらって。
 
でさ、その子たちが
学校の作文で「将来なりたいもの」って書く時に、
10人中4人くらいが
「寺田さん」って書いたらしくて。(笑)
――
へええ。(笑)
寺田
それを聞いたときに、
感情的に訴えられるものがあって。
なんか、なんというのかな。
普通、なりたいものを聞かれて、
人の名前が出てくるってなかなか無いじゃない。
これはやってて意味あることなんだなあっていうか。
すごく心を動かされるものがあって。
 
肩肘を張って自分の同調者を増やそう、
なんて思わなくても、
生き物に興味を持ってくれる子は
それなりに増えてくれるんじゃないかな、
っていう手応えがあって。
それで、環境学習っていう
今の仕事の路線になったんだよね。
――
そこで子どもたちが「寺田さん」って書いたの、
なんとなく分かる気がします。(笑)
寺田
そう?俺は実を言うと、当時は
子どもの相手とかが得意じゃ無くて。
――
えっ、今日もウニランプのワークショップで
あんなに活躍されてたのに。

寺田
自分自身が一人っ子なのもあると思うんだけどね。
なんか、子どもって明らかにすごく年下じゃん。(笑)
――
年下ですね。(笑)
寺田
どう接したらいいかわかんないというかさ、
訳のわかんないことを
いってくるんじゃないかっていう身構えと、
どこまで本当のことをいったらいいのかっていう悩みと。
だから当時は多分
子どもの気持ちにもなれてないと思うし、
どうやったら楽しいっていうのを模索しながらやってた。
なんかこう、どうしよう、どうしようって
思いながらやってたから。
 
でもそんな中で、「寺田さんになりたい」なんて
書いてくれたから、自分にはすごく意外で。
「え、そんな風に書いてくれちゃうの?」って嬉しくて。
逆に言ったらすごく責任感も感じたね。
――
寺田さんになりたいって書いた子のこと、
やっぱり、すごく分かる気がします。
魚を捕まえたり、
自然のことを話したりしてるのが、
それ自体がすごい楽しそうなんです。
寺田
あー!なるほどね。
そうか、それはあるかもしれないね。
――
多分、その生き物が何かは分からなくても、
とにかく楽しそうってことだけは伝わるから、
楽しいって所から全てがスタートするっていう。
寺田
すごいそうだと思う。
やっぱり、自分は水の中の生き物が好きだから。
本当にこれはある意味病気だと思うんだけど、
水があるだけで生き物を覗きに行きたくなるんだよね。
極端な話、アホでしょっていわれたのが、
ディズニーランドの…
――
あっ…(笑)
寺田
ディズニーランドに池とかあるじゃん。
家族で行って行列に並んでると、
水辺がちょこっと見える場所があるのね。
そういう所でこうやって背伸びして、
茂みの向こう側にある池を超頑張って見てたら、
「そんなとこ何もいないから。バカじゃないの」
って言われて。
嫁に。(笑)
――
子どもの時とかじゃなくて、
最近の話なんですね。(笑)
寺田
最近だよ最近!
ほんと無意識なんだよね。
言われると初めて
「あ、俺そうだわ。俺、こういう感じだわ」
って思うじゃん。
なんか水たまりでも生き物探しちゃう、みたいな。
別に意識して探そうって思ってるんじゃなくて、
あると勝手に見てるっていう。
もう病気だよね、一種の。(笑)

(つづきます)

第4回 都市の川が、自分には合ってる。