もくじ
第1回1日限りのミニ水族館。 2016-12-06-Tue
第2回「段差を埋める」ことを心がける。 2016-12-06-Tue
第3回子どもたちに背中を押されて。 2016-12-06-Tue
第4回都市の川が、自分には合ってる。 2016-12-06-Tue
第5回人と自然をもっと近くに。 2016-12-06-Tue

神戸生まれの26歳。普段は科学関係の記事を書く仕事をしています。学生時代と社会人のはじめを東京で過ごしました。2016年10月から大阪在住。

都市の川が、面白い。</br>~自然を教えるという仕事~

都市の川が、面白い。
~自然を教えるという仕事~

担当・みかんいぬ

第2回 「段差を埋める」ことを心がける。

横浜駅のそばで、
寺田さんが開いた1日限りのミニ水族館。
夕方の時間を過ぎて、
一気に辺りは暗くなってきました。

暗い分だけ、
明かりのついたおしゃれ水槽や
色とりどりのウニランプが
目立っています。

寺田さんが今日ミニ水族館を出しているのは
繁華街の路上に芝生を敷き詰めて
体を動かす遊びが楽しめるお祭り、
「パークキャラバン」の会場です。

実は、このお祭りは、
町の中に人の集う場所を作り、
横浜駅西口のエリアを活性化するための
社会実験でもあります。
まちづくりに携わる地域の人たちも
大勢集まっていました。

「水槽展示、うちでもやってくれませんか?」
「おしゃれな水槽を作るワークショップなんかが
 できるといいなあ」
なんて、寺田さんと話をされている方も。

ミニ水族館は今日限りですが、
今日の展示が色々な人たちの
新しいアイデアの種になって、
次のイベントにつながっていくのかもしれません。

――
今日の水族館、あちこちに工夫が凝らされてて
本当に1日ではもったいないくらいです。
こういう水槽の展示って、
寺田さんはあちこちでやっておられるんですか?
寺田
そうだね。
水槽展示だけじゃなくて、
本当に色々なことをやってるよ。
 
一言で言えば、とにかく
「人と自然を近づけよう」っていうコンセプトがあって、
そこから外れないことならなんでもやる。
自然の調査とか、子どもや地域の人向けの環境学習とか。
 
帷子川のことでいうと、
この川の流域にある横浜市の旭区が、
地域の小学生に川について学んでもらう
っていうプログラムをやってるんだよね。
その講師をもう何年も引き受けてるかな。
子どもたちを川に連れて行って
魚を捕まえてもらって。
捕まえた魚は、こっちですぐ種類別に水槽に分けて
小学校の体育館なんかにずらっと並べて
みんなに観察してもらう。
ヤゴやザリガニも含めれば、
常に15~16種くらいの生き物は集まるね。
――
体育館に期間限定の水族館が!
寺田
現地で魚を捕まえて終わりだと、
他の子が何を捕まえたかが
分からないまま終わるんだよね。
ザリガニばっかり取った子は
この川はザリガニの川だって思ってるけど、
その横で別の子がハゼを取ってたりするわけ。
体育館に水槽を並べれば
子どもたちの人数が多くても
全員が間近で生き物を見られるっていう
メリットもあるんだよ。
――
帷子川以外でも色んなことをされてるんですよね?
寺田
もちろん。
うちの事務所は東京の江東区にあるんだけど、
そこでも環境学習をやってるよ。
江東区って江戸時代から
徳川家康が船運を充実させるために
掘った運河がいっぱい残ってるのね。
で、地域の歴史を学ぼうっていう
小学校3~5年生向けの
歴史の体験学習がもともとあったんだけど、
そこで生き物の学習もやりましょうって
こっちから提案して。
 
あと、面白かったのは
地方の町でやらせてもらった仕事かなあ。
――
東京や横浜ではなく。
寺田
そう。
その町は、使われなくなった休耕田で
もう一度米作りをしようとしてて、
俺はその田んぼで生き物を捕まえて
子どもたちに見せて教えてるんだけど。
 
現地に行ったらすごく自然が残ってて
「環境学習なんか必要ないじゃん!」
って初めは思ったんだよね。(笑)
わざわざ自然に触れる機会なんて作らなくても、
毎日通ってる通学路で十分だって。
 
でも実は違ったんだよ。
田んぼに入ったこともない、
泥に触ったこともない、
そんな子が結構いるって知って、驚いて。
――
ほおお
寺田
さらに言えば、
そういう子がいるのは、
同じ町の中でも山あいというより郊外みたいな所、
って感じがするかな。
立派な道路があって、
ショッピングモールがあって、
区画化された土地に建売の住宅が並んでて。
今のニュータウン化された地域と同じような
町の構成になっちゃってる。
遊びに行くのはショッピングモールだし、
放課後も塾に行ったり、スイミングに行ったり。
なんだか都会の子どもたちと
変わらない暮らしをしていることが多くて。
――
別に自然が嫌いっていうことじゃないんですよね。
寺田
そうそう。
多分ね、きっかけがなくなってる。
  
せっかく身の回りに自然があっても、
そういう自然が豊かな所に
後から都会的なものができると
そっちに目が行っちゃって、
余計に自然体験をしなくなるっていう傾向が、
もしかしたらあるのかもしれない。
――
なるほど。
寺田
だからこの仕事では
「段差を埋めよう」ってことを
心がけてる所があるかな。
自然体験とか環境学習とかって
申し込む側の人からすると、
参加してみようっていう時に
すごく大きなハードルがあって。
特に、自然に興味を持ってない子が多い時代には
そこのハードルは
はてしなく高いんじゃないか、
って気がしてる。
 
だから、そこを上れる小さな階段を作ってあげないと
乗り越えられないんだよね。
 
たとえば、自然の素材を使ったワークショップを
やることで興味を持ってもらったり。
キャンプとかバーベキューとかっていう
アウトドア寄りのイベントで
釣りに参加してもらったり。

寺田
後はもう単純に、
自然のある環境に来やすくする方法もある。
 
以前ある場所で、
生き物の絵を描いてもらってランタンを作る、
っていうワークショップをやったんだよね。
 
保育園とかの小さい子たちって、
どうしても親が水辺に近寄らせない傾向があるんだよ。
でも、
自分たちの作った作品が夜の水辺に並んで、
しかも光ります、ってなると
親子で水辺に見に来てくれる。
 
普段なら夜の川なんて危険でしょうがない、
って話になるんだけど、
こういう機会なら子どもたちも近寄れる。
すると、
水辺の方を「なんかいるかな?」って覗いてみたり、
夜の川に吹く風が気持ちいいって気付いたり。
子どもたちもそういうことができるんだよね。
 
今はそういうきっかけ作りから提案していかないと。
自然について学ぼう、体験しよう、っていう
玄関口の所まで、
そもそも参加者が来てくれない。
 
だから、一見するとこんなの関係ないってことも、
きっかけになるかなって思えば
本当に何でもやるんだよね。

お話を伺っていたら、
午後7時、撤収の時間がやってきました。

魚を素早く移動用の水槽に戻す寺田さん。
ウナギだって、透明の筒を使ってこの通り!

片付けを終えた後は、
軽い打ち上げでご飯を食べに行くことになりました。
場所を変えて、寺田さんのお仕事について
引き続き色々な話を伺ってみたいと思います。

(つづきます)

第3回 子どもたちに背中を押されて。