糸井さんと古賀さんが話す、売れるということ

古賀: ちょっと、今日のテーマに戻るんですけど。
吉本隆明さんだったり、矢沢永吉さんだったり、
糸井さんの中でのヒーローみたいな人達の
出版のお手伝いもされてきたわけじゃないですか。
糸井: あぁそうですね。
古賀: やっぱり糸井さんはそのときも、自分が前に出るというより、
「この人の言葉を聞いてくれ」みたいな感じなんですよね。
糸井: そうですね。
「僕はとっても驚いたよ」とか
「僕はとってもいいと思ったよ」とか、
間接話法で僕の本になるから、僕を前に出す必要は全くなくて。
古賀: えぇ、わかります。
糸井: たとえば、美味しいリンゴ売っている、いい八百屋があって。
そこで１度リンゴを買った人が、もう１度買物してくれたら、
またいいリンゴが売れるじゃないですか。
そしたら、「リンゴがあんまり売れないから
作るのやめようと思うんだよね」っていう農園の人に、
「俺売るから作ってよ」って八百屋の人が言える（笑）
古賀: そうですね、うんうん（笑）
糸井: 具体的に、うちで売ってる海苔とかそうだからね。
その商売の仕組みって、建造物としてのアートとか、
ああいうのに似てますよね。
そういえば、古賀さんの仕事もそうですよね。

古賀: そうですね、うん、はい。
10年前は自分がしたいと言ってもなかなか実現しなかったし、
頼まれた仕事しかできない時期が結構長くて。
今はいろんな出版社さんに知り合いがいますし、
やりたいと言ったらやりたい企画ができる状態ですけど。
糸井: うん、もうできるよね。
古賀: 糸井さんはたぶん『ほぼ日』の中で、
そういったことをしてるのかなと思うんですよ。
こんな面白い人、ちょっと対談して紹介したいなとか、
この人、TOBICHIでその人の展覧会を開いてとか、
そういう…
糸井: 場所作り。
古賀: そう、場所を作って、その人達を紹介していく。
だから結構、僕が今したいことと、すごく重なる部分があって。
「今日のダーリン」という大きなコンテンツはあっても、
『ほぼ日』に、糸井さんが全面に出る場所はないじゃない。
それより、「面白い人」を紹介する場所になってて。
その姿勢というのは、一貫してるのかなと。
糸井: 「あなたは目立ちたくないんですか？」って聞かれたら、
「ものすごくありますよ」って言うんじゃないですかね。
浅いところでは目立ちたがりですよ、僕、たぶん。
でも、ちょっと出るだけで、急にどうでもよくなりますね。
古賀: それはそれこそ、30歳ごろに、
目立って痛い目を見た経験があるから…
糸井: じゃないですね。

古賀: からではなく。
糸井: じゃないです。
一番目立ちたがりった時期って、高校生の時じゃないですか。
古賀: はいはい（笑）
糸井: たぶん性欲の代わりに表現力が出るみたいな。
古賀: そうですね。
糸井: その時期っていうのは、何をしてでも目立ちたいわけで。
言葉にすれば「みんな俺をもっと見ないかな」ってことを、
服装にしてみたり（笑）
それは動物の毛皮の色みたいなもので、自然ですよね。
でもやっぱり嬉しいのは何かっていったら、
近くにいる人にモテることの方が嬉しいんですよね。
だから彼女がいるっていうのが一番理想ですよね、若いときの。
それさえあれば俺は何も要らないみたいな。
恋愛至上主義に近いんですよ、若い時って。
そこに突っ込んでいきたかったんですよね。
古賀: はいはい。
糸井: ワーワー言われるほどモテちゃったとしても、
それは距離が遠いものだから、寄せちゃいけないんですよね。
古賀: なるほど。でも、それわかります。
糸井: そんなにガツガツ目立とうとしなくても、
１つの面白い世界はつくるというのは、若い人達が僕を見て、
「ああ、あれいいな」って思ってくれる理由の１つですよね。
別に、図らずも消えちゃったんじゃなくて、
そのくらいの距離感の方が楽しいんだよっていうか。
だってね、アイドルグループの子達だって、
すごく人気があるとしても、
実際の個人としてモテてたわけじゃないでしょ。
古賀: 遠くでモテて。
糸井: そうなんです、距離なんですよ。
だからコンサート会場をお客さんが埋め尽くしていても、
引き寄せることは禁じられているし、
仮にそこに突っ込んでいったら、後始末大変ですよね。
古賀: そうですね。
糸井: って考えると、それより、
たまたま行った誰かの送別会の時に隣にいた女の子に、
「私、送ってって欲しいんだけど」って言われたら、
もうバリバリに鼻の下伸ばしますよね。
「そのくらいいいよ」って（笑）
古賀: うんうん、そっちの方が伸びますね（笑）

糸井さんと古賀さんが話す、売れるということ

第４回 目立つことのはなし

第４回目立つことのはなし