- 古賀
- 吉本隆明さんだったり、あるいは矢沢永吉さんだったり、
糸井さんのなかでのヒーローみたいなひとたちがいて、
糸井さんは、その出版のお手伝いとかを
されてきたわけじゃないですか。 - 糸井
- ああ、そうですね。
- 古賀
- そのときの、糸井さんの気持ちっていうのは、
「おれが前に出る」というよりも、
やっぱり、「このひとのことばを聞いてくれ」
みたいなかんじなんですよね。 - 糸井
- 「ぼくは、とっても驚いたよ」とか、
「ぼくは、とってもいいなと思ったよ」とか、
間接話法で、“ぼくの本”になるんですよね。
だから、じぶんを前に出す必要はまったくなくて。
たとえば、
おいしいリンゴを売ってる八百屋はいい八百屋で、
そういうお店から買ってくれるひとがいたら、
またいいリンゴが売れるじゃないですか。
それとか、
「リンゴがあんまり売れないから、
つくるのやめようと思うんだよね」
っていうひとに、
「おれ売るから、ちょっとつくってよ」
って（笑）。
- 古賀
- （笑）
そうですね、うんうん。 - 糸井
- 古賀さん、そういえば、
そういう仕事してますね。 - 古賀
-
そうですね、はい。
今でこそ、じぶんが「やりたい」と言ったら、
やりたい企画ができる状態にはなったんですけど。
10年前なんかは、やっぱり、
やりたい企画がなかなか実現しない時期が
けっこう長くつづいてて。『ほぼ日』では、
「こんなおもしろいひとがいるから、
対談して、そのひとを紹介したいな」とか、
あとは、「TOBICHI」で、
「こんなひとがいるから、そのひとの展覧会をひらこう」
とか、そういう…… - 糸井
- 場所づくり。
- 古賀
- 場所をつくって、そのひとたちを紹介していく。
それって、ぼくが今やりたいことと、
すごく重なる部分があります。
『ほぼ日』のなかで、もちろん、
「今日のダーリン」という大きなコンテンツは
あるんですけど、
糸井さんが、「おれがおれが」って
前に出てくるんじゃなくて、
それよりも、「こんなおもしろいひとがいてね…」
っていう場所になってて。 - 糸井
-
「あなたには、“目立ちたい”ってことはないんですか？」
って聞かれたら、
「ものすごく、ありますよ」
って答えるんじゃないですかね。
ただ、それは、どういう種類のものかっていうと、
「いや、いいかも、いらないかも」
っていう。そんなに一生懸命目立とうとしなくても、
ひとつのおもしろい世界はやれるんだな
っていうのは、
若い人たちが、ぼくを見たときに
「ああ、なんかいいな」
って思う理由のひとつですよね。
「目立ちたい」っていう欲が消えたんじゃなくて、
そのくらいのほうが、楽しいんだよ。 - 古賀
- なるほど。
- 糸井
- 日本のアルプス山脈とか、ヒマラヤ山脈とか、
ああいうのが見える場所に、立ったことあります？ - 古賀
- いや、ないです。
- 糸井
- ないですか。
たまたま立ったりしたときに、「大きいな～」
って思うじゃないですか（笑）。 - 古賀
- （笑）
ナイアガラの滝で感じました（笑）。 - 糸井
- いいですよね。
で、「来てよかったな～」
って思うじゃないですか。 - 古賀
- 思います、思います、はい。
- 糸井
- だからぼくは、ひとに、けっこう
ピラミッドは勧めてますもん。
だけど、おれ、
仕事でそんな大きいもの見たかっていうと、
そんなもの見てないんですよ。
だから、何が、大きい数字かなっていうのは、
宿題ですね。
それが宿題なんで、今やりかけてるものが、
はじめて、ビジョンとしては億だとかっていう単位で
かぞえなきゃいけないぞ、
といってもいい仕事になったんです。
それは、｢どうだ、おれはすごいだろう｣
じゃなくて、そのヒマラヤなりの景色を、
仲間もいっしょに見られるのがいいよね。
それが、じぶんのこと以上にうれしい。
この間あったじゃない、それ。 - 古賀
- はいはい（笑）。
うちの子が、はい。
あれは、きもちいいですね。
会社の子が担当した書籍が10万部いって、
それはうれしかったですね。 - 糸井
- 「ひとが喜んでくれることこそが、
じぶんのうれしいことです」
っていうのを綺麗ごととしてことばにすると、
あまり通じないんだけど。
たとえば、お母さんが、子どもにイチゴを食べさせて、
じぶんは食べない、みたいな。
そういう経験をすればするほど、
ひとのよろこぶことを、考えつきやすくなりますよね。 - 古賀
- そういった、
遠くの5万10万、あるいは億のひとたちを考えるとき、
たとえば、「ミリオンセラーになったら、1億円だ」
とか、お金のことは想像しますか。
- 糸井
- ぼくは、お金にたいしては、ちょっと警戒心があって。
「お金好きです」っていう発言を、
ときどきするようにしています。
けっこう、お金っていうのは、リスクなんですよね。
邪魔するのに、非常に都合がいいんですよ。 - 古賀
- 邪魔するのに、都合がいい。
- 糸井
- たとえば、古賀さんが、「これはおもしろいぞ」
ってことを考えたときに、
「ぼくもそれやりたいです、参加させてください」
って言ったひとに、だれかが、
「それをやればやるほど、
古賀さんがもうかる仕組みなんだよ」
って言ったら、動きにくいんですよ。 - 古賀
- そうですね、うんうん。
- 糸井
- だから、もっと屈託なくやるためには、
お金について、ぼくはこう思ってる、
っていうのを、わりといつも見えるようにしてますね。 - 古賀
- よろこびの源泉として、「おっ、1億円！」
とか、そういうものはあったりするんですか。 - 糸井
- それはまったくないですね。
なぜないかというと、
ぼくが求めて得られるような数字って、
お金でいうと、小さいからですよ。 - 古賀
- （笑）
でもそれと、「じゃあ、お金なしでやるよ」
っていうのは、また違いますよね。 - 糸井
- ぜんぜんちがいます。
なんだろうな、お金って、
エンジンが回るみたいなところがあって。
そのエンジンだって、手持ちのお金でうだうだしてると、
消し炭のうばい合いみたいになっちゃうんで。
ずるいことをせずに、やりたいことをやれたら、
きっと、ひととして、徳が身につきますよね。