もくじ
第1回もっと天狗になるはずだったのですが…… 2016-05-16-Mon
第2回10年後20年後じゃなくて、3年後 2016-05-16-Mon
第3回東京から西を向く 2016-05-16-Mon
第4回誰も『嫌われる勇気』を知らない 2016-05-16-Mon
第5回本当は本なんか書きたくない 2016-05-16-Mon

滋賀県生まれ、東京在住の編集者です。新書・マンガ・小説をつくる仕事をしています。

ミリオンセラーの、ほんとのところ

第4回 誰も『嫌われる勇気』を知らない

古賀
ちょっと、今日のテーマというか、話が戻るんですけど、
吉本さんだったり、あるいは矢沢永吉さんだったりって、
糸井さんの中でのヒーローみたいな人達がいて、
その出版のお手伝いとか、されてきたわけじゃないですか。
糸井
ああそうですね。
古賀
その時の糸井さんの気持ちっていうのは、
俺が前に出るというよりも、やっぱりこの人の
言葉を聞いてくれみたいな感じなんですよね。
糸井
ぼくはとっても驚いたよとか、
ぼくはとってもいいなと思ったよとか、
間接話法でぼくの本になるんですよね。
だから自分を前に出す必要は全くなくて。
美味しいリンゴを売ってる八百屋はいい八百屋で、
そういう八百屋から買ってくれる人がいたら、
またいいリンゴが売れるじゃないですか。
あるいは「リンゴがあんまり買ってもらえないから
作るのやめようと思うんだよね」っていう人に、
「俺売るから、ちょっと作ってよ」とも言える(笑)
古賀
(笑)そうですね、うんうん。
糸井
具体的に、うちで売ってる海苔とかそうだからね。
お爺さんが「もうそろそろめんどくさいこと
やめようと思うんだ。漁協に普通に出そうと思うんだよ」
「まあまあ、待て待て」って。その商売ですよね、
商売の仕組みって、、
建造物としてのアートってあるじゃないですか、
ああいうのに似てますよね。
古賀さんそういえば、そういう仕事してますね。
古賀
そうですね、うん、はい。
だから、今だったら、やっぱりいろんな
出版社さんにも知り合いがいますし、
やりたいと言ったらやりたい企画ができるような
状態にはなったんですけど、10年前とかは、
やっぱり、自分がやりたいと言っても、
なかなか実現しなかったりとか、
向こうからやってというお仕事だけしか
できない時期というのは結構長くて。
糸井さんが、例えば『成りあがり』とか、
ああいうものでやったことが、
たぶん今『ほぼ日』の中で毎日のように
できてるんじゃないのかなと思うんですよね。
こんな面白い人がいるから、
ちょっと対談して、この人を紹介したいなとか、
あとはTOBICHIで、こんな人がいるからと言って、
その人の展覧会を開いてとか。
糸井
場所作り。
古賀
場所を作って、その人達を紹介していく。
だから結構そうですね、ぼくが今やりたいこととかと、
すごく重なる部分があって。『ほぼ日』の中で、
もちろん毎日「今日のダーリン」という
大きなコンテンツはあるんですけど、
糸井さんが、俺が俺がって前に出てる
場所ではないじゃないですか。
それよりも、こんな面白い人がいてねっていう
場所になってて。その姿勢というのは、
結構『成りあがり』の頃から一貫してるのかなという。
糸井
「あなたには目立ちたいってことはないんですか?」
って聞かれたら、「ものすごくありますよ」と
言うんじゃないですかね。ただそれはどういう
種類のものなんでしょうねと言うと、
「いや、いいかも、要らないかも」(笑)っていう。
浅いところでは目立ちたがりですよ、ぼく、たぶん。
ちょっとだけ掘るだけで、急にどうでもよくなりますね。
古賀
それは、それこそ30ぐらいの時に、
目立って痛い目に遭ったりした経験があるから……。
糸井
じゃないですね。
古賀
からではなく。
糸井
じゃないです。
だから、一番目立ちたがりだったの
高校生じゃないですか。
たぶん性欲の代わりに、表現力が出るみたいな。
古賀
はいはい(笑)
糸井
その時期っていうのは、何をしてでも目立ちたいわけで。
みんな俺をもっと見ないかなって、言葉にすれば
そういうこと思ってるのを、服装にしてみたり(笑)。
それは動物の毛皮の色みたいなもので、自然で、天然です。
やがてそれを残しながらも、やっぱり嬉しいのは
何かっていったら、近くにいる人にモテちゃうことの方が
嬉しいんですよね。だから彼女がいるっていうのが
一番理想ですよね、若い時のね、
彼女がいて一緒に苦労する話なんていうのは。
この間俺、上村一夫さんの娘さんと対談したんだけど、
『同棲時代』っていう、すごい悲劇的な漫画を、
俺は当時羨ましいと思って見てたつったんですよ。
だって、気狂っちゃうし、貧乏だけど、
彼女いるんだから、ね。
三畳一間だか4畳だか知らないけど、
そんなとこで女と毎日寝てるんだぞみたいな。

古賀
(笑)
糸井
それさえあれば俺は何も要らないみたいな。
恋愛至上主義に近いんですよ、若い時って。
そこに突っ込んでいきたかったんですよね。
それとネタ自体を天秤にかけたら、女ですよ、圧倒的に。
古賀
はいはい。
糸井
ワーワーモテちゃったとしても、
その人たちとは距離をとらないといけない。
寄せちゃいけないんですよね。
「ファンに手を付ける」になるんですよね。
とっても上手くいってもね。
古賀
なるほど。
糸井
そんなにガツガツ目立とうとしなくても、
1つの面白い世界はやれるんだなっていうのは、
若い人達がぼくを見てた時に、ああ、あれいいなって思う
理由の1つだったと思います。
そこは、「なんかいいな」って、
そういう表現ですよね。
消えたんじゃなくて、そのくらいの方が楽しいんだよ。
だってね、アイドルグループの子達だって、
すごく人気があるとしても、
実際の個人としてモテてたわけじゃないでしょ。
古賀
遠くでモテて。
糸井
そうなんです、距離なんですよ。
だから全部OKですよっていうお客さんが
会場を埋め尽くしてるはずじゃないですか。
外野から見たら。
でも、それは禁じられたことでもあるし、
仮にそこのとこに突っ込んでいったら、
後始末大変ですよね。
古賀
そうですね。
糸井
と考えると、それは、商品に手を付けるっていうか、
そういうことだから禁じられてるわけで。
それよりは、たまたま行った誰かの送別会の時に
隣にいた女の子に
「私送ってって欲しいんだけど」なんて言わたら、
もうバリバリに鼻の下伸ばしますよね。
「そのくらいいいよ」なんて言って(笑)
古賀
(笑)そうですね、うんうん。
糸井
そこの実態の話で。
いずれみんなわかっちゃうんじゃないですかね。
まだ足んないんだよってぼく、あんま思わないんですよ。
大体足りたって思うんです。
古賀
はいはいはい。でも遠くの5万人とか
遠くの50万人にモテてる俺っていうのを
喜ぶ人も確実にいますよね。
糸井
それはものすごく面白いゲームだし、
ぼくなんかの中にそれはなくはないんだけど、
何人読んでくれてるかというと、まさしく100万人。
それは「ええー?」っていう嬉しさがあるじゃないですか。
アルプスってあれか、日本か、日本のアルプスか、
じゃなくてヒマラヤとかさ、ああいうのが
見える場所に立ったことあります?
古賀
いや、ないです。
糸井
ないですか。たまたま立ったりした時に、
「大きいなー」って思うじゃないですか(笑)
古賀
ああ。ナイアガラの滝で感じました(笑)
糸井
いいですよね。
古賀
いいです、いいです、うん。
糸井
で、「来て良かったなー」って思うじゃないですか。
古賀
思います、思います、はい。
糸井
他人に、「もしナイアガラの方に行くんだったら、
近く通るんだったら絶対行った方がいいよ」
と言いますよね。あれですよ。
古賀
はああ。
糸井
ぼくはだから人に、結構ピラミッドをおすすめいしています。
俺、そんなもの見たかというと、
実は仕事でそんなもの見てないんですよ。
100万部なんてもう絶対ないし。
だから何が大きい数字かなっていうのは宿題ですね。
エベレストの麓で
「登れないけどこれかあ」と思うみたいな。
今やりかけてる仕事は、
ほぼ日で初めて、億単位まで考えていい規模に
なりそうなんです。
それは、「どうだ俺はすごいだろう」
じゃなくてヒマラヤですよ。
ヒマラヤって、仲間も一緒に見られるのがいいよね。
古賀さんが、「まったくお金なんかないですよ」って子に
「ちょっと今儲かったから連れて行ってあげるよ」と。
ヒマラヤが見えるとこに立って「なあ」って言うと、
その子が「ほんとだあ」って言うじゃないですか。
その、ほんとだが、自分以上に嬉しいですよね。
この間あったじゃない、それ。
古賀
はい。うちの若い社員の子が書いた本が。
糸井
ヒットしたんだよね。
古賀
そうですね。

糸井
あれですよ。
古賀
そうですね、あれは気持ちいいですね。
会社の子が10万部いって、自分のこと以上に嬉しかったですね。
糸井
それは嬉しいと思いますよ。
人が喜んでくれることこそが自分の嬉しいことです
っていうのを言葉にすると綺麗事になっちゃうけど。
そういう経験をすればするほど、
人の喜ぶことを考えつきやすくなりますよね。
古賀
そうやって5万10万あるいは億の人達とかを考える時、
糸井さんの中では、例えばミリオンセラーになったら1億円だとか、
そういうような金勘定はしますか。
糸井
あのね、すぐ人はそれを想像するので、
そこのところに対して無防備でいると、
その人の小ささに合わせて自分像がはめ込まれちゃうんですよ。
それは嫌なので、ぼくはお金好きですっていう発言を
時々するようにしています。
そうしないと、そうじゃないフリをしていたのに
好きじゃねえかっていうふうに。
古賀
むっつりスケベみたいな(笑)
糸井
結構そこね、リスクなんですよね。
邪魔するのに、非常に都合がいいんですよ。
例えば古賀さんが何か、これは面白いぞってことを考えて、
「俺もそれやりたいです」って言って、
「参加させてください」った人に、
「それをやればやるほど古賀さんが
儲かる仕組みなんだよ」って誰かが言ったら、
動きにくいんですよ。
古賀
そうですね、うんうん。
糸井
だからもっとくったくなくやるためには、
お金についてぼくはこういうふうに思ってますし、
具体的にこうですよねっていうのが、
わりといつも見えるようにするというか、
そこはなんか。それこそ管理しないとできないですね。
古賀
ぼく、今回、自分であんまり
こういう言い方あれなんですけど、
ミリオンセラーというのを初めて経験して、
1つやってみてわかったというのは、
みんな全然知らないんですよ、
『嫌われる勇気』っていう本のこと。
糸井
(笑)
古賀
ミリオンセラーって、やってみる前は、
あまねく人達の所に届くはずのものだったんですけど……。
みんな全然知らないし、誰にも届いてないなって。
もちろん100万人という数はすごいんですけど。
聞きたかったのは、糸井さんの中で、
ヒットするとかっていうのは、何か自分の中で、
「こういうものだ」というのあるんですかね。
糸井
『ほぼ日』始めてからは、
もうヒット多様性になりましたね。
古賀
ヒット多様性?
糸井
生物多様性みたいに。
これもヒット、あれもヒットになりました。
だからゲームボードがいっぱいあって、
そのゲームボードの上で、これはヒット、
こっちではせいぜい黒字っていう程度だけでヒット、
結構売れたけどヒットとは言いにくいなみたいな。
ルールをいっぱい持つようになりましたね。
古賀
それはコンテンツ毎に、これのヒットは
このぐらいの基準でというのが何となくあって。
糸井
全てがコンテンツですということを言い始めて、
例えば事務所の引越も、ヒットでしたねと。
金銭的に言ったらマイナスになってますけど、
これヒットなんですよ。
何がヒットかっていうのも説明できるわけですよね。
そういうような、みんなが既に持ってる
価値観じゃないところに自分の価値観を
増やしていくというのは、
たぶんぼくが『ほぼ日』以後にするようになったことでしょうね。
100万部に対して5万部はヒットじゃないかというと、
5万部もヒットですよという言い方あるんだけど、
やっぱり100万部があることでの信用度とか
発言権とか、それを持つと次に出した時には、
そこと掛け算になって、打ちやすくなりますよね。
それはとっても大事なことなんだと思うんですね。
二谷友里恵さんが100万部だった時には、騒がれたじゃないですか。
古賀
(笑)はい、騒がれましたね。
糸井
それは掛け算だってことなんですよね。
古賀
うんうんうん。
糸井
古賀さんっていう、
ぼくは黒子ですって言ってた人、
「×(かける)100万部」だから。
2冊目は、「100万部の古賀」がだから。
面白いとこだよね。
古賀
面白いですね。
糸井
立て続け感が、すごく面白いんですよね。
一発屋って言葉に続いて二発屋っていうの出ないかな。
三発屋はないのか。それじゃ床屋だよみたいな。
第5回 本当は本なんか書きたくない