ミリオンセラーの、ほんとのところ

第4回 誰も『嫌われる勇気』を知らない
- 古賀
- ちょっと、今日のテーマというか、話が戻るんですけど、
吉本さんだったり、あるいは矢沢永吉さんだったりって、
糸井さんの中でのヒーローみたいな人達がいて、
その出版のお手伝いとか、されてきたわけじゃないですか。
- 糸井
- ああそうですね。
- 古賀
- その時の糸井さんの気持ちっていうのは、
俺が前に出るというよりも、やっぱりこの人の
言葉を聞いてくれみたいな感じなんですよね。
- 糸井
- ぼくはとっても驚いたよとか、
ぼくはとってもいいなと思ったよとか、
間接話法でぼくの本になるんですよね。
だから自分を前に出す必要は全くなくて。
美味しいリンゴを売ってる八百屋はいい八百屋で、
そういう八百屋から買ってくれる人がいたら、
またいいリンゴが売れるじゃないですか。
あるいは「リンゴがあんまり買ってもらえないから
作るのやめようと思うんだよね」っていう人に、
「俺売るから、ちょっと作ってよ」とも言える(笑)
- 古賀
- (笑)そうですね、うんうん。
- 糸井
- 具体的に、うちで売ってる海苔とかそうだからね。
お爺さんが「もうそろそろめんどくさいこと
やめようと思うんだ。漁協に普通に出そうと思うんだよ」
「まあまあ、待て待て」って。その商売ですよね、
商売の仕組みって、、
建造物としてのアートってあるじゃないですか、
ああいうのに似てますよね。
古賀さんそういえば、そういう仕事してますね。
- 古賀
- そうですね、うん、はい。
だから、今だったら、やっぱりいろんな
出版社さんにも知り合いがいますし、
やりたいと言ったらやりたい企画ができるような
状態にはなったんですけど、10年前とかは、
やっぱり、自分がやりたいと言っても、
なかなか実現しなかったりとか、
向こうからやってというお仕事だけしか
できない時期というのは結構長くて。
糸井さんが、例えば『成りあがり』とか、
ああいうものでやったことが、
たぶん今『ほぼ日』の中で毎日のように
できてるんじゃないのかなと思うんですよね。
こんな面白い人がいるから、
ちょっと対談して、この人を紹介したいなとか、
あとはTOBICHIで、こんな人がいるからと言って、
その人の展覧会を開いてとか。
- 糸井
- 場所作り。
- 古賀
- 場所を作って、その人達を紹介していく。
だから結構そうですね、ぼくが今やりたいこととかと、
すごく重なる部分があって。『ほぼ日』の中で、
もちろん毎日「今日のダーリン」という
大きなコンテンツはあるんですけど、
糸井さんが、俺が俺がって前に出てる
場所ではないじゃないですか。
それよりも、こんな面白い人がいてねっていう
場所になってて。その姿勢というのは、
結構『成りあがり』の頃から一貫してるのかなという。
- 糸井
- 「あなたには目立ちたいってことはないんですか?」
って聞かれたら、「ものすごくありますよ」と
言うんじゃないですかね。ただそれはどういう
種類のものなんでしょうねと言うと、
「いや、いいかも、要らないかも」(笑)っていう。
浅いところでは目立ちたがりですよ、ぼく、たぶん。
ちょっとだけ掘るだけで、急にどうでもよくなりますね。
- 古賀
- それは、それこそ30ぐらいの時に、
目立って痛い目に遭ったりした経験があるから……。
- 糸井
- じゃないですね。
- 古賀
- からではなく。
- 糸井
- じゃないです。
だから、一番目立ちたがりだったの
高校生じゃないですか。
たぶん性欲の代わりに、表現力が出るみたいな。
- 古賀
- はいはい(笑)
- 糸井
- その時期っていうのは、何をしてでも目立ちたいわけで。
みんな俺をもっと見ないかなって、言葉にすれば
そういうこと思ってるのを、服装にしてみたり(笑)。
それは動物の毛皮の色みたいなもので、自然で、天然です。
やがてそれを残しながらも、やっぱり嬉しいのは
何かっていったら、近くにいる人にモテちゃうことの方が
嬉しいんですよね。だから彼女がいるっていうのが
一番理想ですよね、若い時のね、
彼女がいて一緒に苦労する話なんていうのは。
この間俺、上村一夫さんの娘さんと対談したんだけど、
『同棲時代』っていう、すごい悲劇的な漫画を、
俺は当時羨ましいと思って見てたつったんですよ。
だって、気狂っちゃうし、貧乏だけど、
彼女いるんだから、ね。
三畳一間だか4畳だか知らないけど、
そんなとこで女と毎日寝てるんだぞみたいな。

- 古賀
- (笑)
- 糸井
- それさえあれば俺は何も要らないみたいな。
恋愛至上主義に近いんですよ、若い時って。
そこに突っ込んでいきたかったんですよね。
それとネタ自体を天秤にかけたら、女ですよ、圧倒的に。
- 古賀
- はいはい。
- 糸井
- ワーワーモテちゃったとしても、
その人たちとは距離をとらないといけない。
寄せちゃいけないんですよね。
「ファンに手を付ける」になるんですよね。
とっても上手くいってもね。
- 古賀
- なるほど。
- 糸井
- そんなにガツガツ目立とうとしなくても、
1つの面白い世界はやれるんだなっていうのは、
若い人達がぼくを見てた時に、ああ、あれいいなって思う
理由の1つだったと思います。
そこは、「なんかいいな」って、
そういう表現ですよね。
消えたんじゃなくて、そのくらいの方が楽しいんだよ。
だってね、アイドルグループの子達だって、
すごく人気があるとしても、
実際の個人としてモテてたわけじゃないでしょ。
- 古賀
- 遠くでモテて。
- 糸井
- そうなんです、距離なんですよ。
だから全部OKですよっていうお客さんが
会場を埋め尽くしてるはずじゃないですか。
外野から見たら。
でも、それは禁じられたことでもあるし、
仮にそこのとこに突っ込んでいったら、
後始末大変ですよね。
- 古賀
- そうですね。
- 糸井
- と考えると、それは、商品に手を付けるっていうか、
そういうことだから禁じられてるわけで。
それよりは、たまたま行った誰かの送別会の時に
隣にいた女の子に
「私送ってって欲しいんだけど」なんて言わたら、
もうバリバリに鼻の下伸ばしますよね。
「そのくらいいいよ」なんて言って(笑)
- 古賀
- (笑)そうですね、うんうん。
- 糸井
- そこの実態の話で。
いずれみんなわかっちゃうんじゃないですかね。
まだ足んないんだよってぼく、あんま思わないんですよ。
大体足りたって思うんです。
- 古賀
- はいはいはい。でも遠くの5万人とか
遠くの50万人にモテてる俺っていうのを
喜ぶ人も確実にいますよね。
- 糸井
- それはものすごく面白いゲームだし、
ぼくなんかの中にそれはなくはないんだけど、
何人読んでくれてるかというと、まさしく100万人。
それは「ええー?」っていう嬉しさがあるじゃないですか。
アルプスってあれか、日本か、日本のアルプスか、
じゃなくてヒマラヤとかさ、ああいうのが
見える場所に立ったことあります?
- 古賀
- いや、ないです。
- 糸井
- ないですか。たまたま立ったりした時に、
「大きいなー」って思うじゃないですか(笑)
- 古賀
- ああ。ナイアガラの滝で感じました(笑)
- 糸井
- いいですよね。
- 古賀
- いいです、いいです、うん。
- 糸井
- で、「来て良かったなー」って思うじゃないですか。
- 古賀
- 思います、思います、はい。
- 糸井
- 他人に、「もしナイアガラの方に行くんだったら、
近く通るんだったら絶対行った方がいいよ」
と言いますよね。あれですよ。
- 古賀
- はああ。
- 糸井
- ぼくはだから人に、結構ピラミッドをおすすめいしています。
俺、そんなもの見たかというと、
実は仕事でそんなもの見てないんですよ。
100万部なんてもう絶対ないし。
だから何が大きい数字かなっていうのは宿題ですね。
エベレストの麓で
「登れないけどこれかあ」と思うみたいな。
今やりかけてる仕事は、
ほぼ日で初めて、億単位まで考えていい規模に
なりそうなんです。
それは、「どうだ俺はすごいだろう」
じゃなくてヒマラヤですよ。
ヒマラヤって、仲間も一緒に見られるのがいいよね。
古賀さんが、「まったくお金なんかないですよ」って子に
「ちょっと今儲かったから連れて行ってあげるよ」と。
ヒマラヤが見えるとこに立って「なあ」って言うと、
その子が「ほんとだあ」って言うじゃないですか。
その、ほんとだが、自分以上に嬉しいですよね。
この間あったじゃない、それ。
- 古賀
- はい。うちの若い社員の子が書いた本が。
- 糸井
- ヒットしたんだよね。
- 古賀
- そうですね。

- 糸井
- あれですよ。
- 古賀
- そうですね、あれは気持ちいいですね。
会社の子が10万部いって、自分のこと以上に嬉しかったですね。
- 糸井
- それは嬉しいと思いますよ。
人が喜んでくれることこそが自分の嬉しいことです
っていうのを言葉にすると綺麗事になっちゃうけど。
そういう経験をすればするほど、
人の喜ぶことを考えつきやすくなりますよね。
- 古賀
- そうやって5万10万あるいは億の人達とかを考える時、
糸井さんの中では、例えばミリオンセラーになったら1億円だとか、
そういうような金勘定はしますか。
- 糸井
- あのね、すぐ人はそれを想像するので、
そこのところに対して無防備でいると、
その人の小ささに合わせて自分像がはめ込まれちゃうんですよ。
それは嫌なので、ぼくはお金好きですっていう発言を
時々するようにしています。
そうしないと、そうじゃないフリをしていたのに
好きじゃねえかっていうふうに。
- 古賀
- むっつりスケベみたいな(笑)
- 糸井
- 結構そこね、リスクなんですよね。
邪魔するのに、非常に都合がいいんですよ。
例えば古賀さんが何か、これは面白いぞってことを考えて、
「俺もそれやりたいです」って言って、
「参加させてください」った人に、
「それをやればやるほど古賀さんが
儲かる仕組みなんだよ」って誰かが言ったら、
動きにくいんですよ。
- 古賀
- そうですね、うんうん。
- 糸井
- だからもっとくったくなくやるためには、
お金についてぼくはこういうふうに思ってますし、
具体的にこうですよねっていうのが、
わりといつも見えるようにするというか、
そこはなんか。それこそ管理しないとできないですね。
- 古賀
- ぼく、今回、自分であんまり
こういう言い方あれなんですけど、
ミリオンセラーというのを初めて経験して、
1つやってみてわかったというのは、
みんな全然知らないんですよ、
『嫌われる勇気』っていう本のこと。
- 糸井
- (笑)
- 古賀
- ミリオンセラーって、やってみる前は、
あまねく人達の所に届くはずのものだったんですけど……。
みんな全然知らないし、誰にも届いてないなって。
もちろん100万人という数はすごいんですけど。
聞きたかったのは、糸井さんの中で、
ヒットするとかっていうのは、何か自分の中で、
「こういうものだ」というのあるんですかね。
- 糸井
- 『ほぼ日』始めてからは、
もうヒット多様性になりましたね。
- 古賀
- ヒット多様性?
- 糸井
- 生物多様性みたいに。
これもヒット、あれもヒットになりました。
だからゲームボードがいっぱいあって、
そのゲームボードの上で、これはヒット、
こっちではせいぜい黒字っていう程度だけでヒット、
結構売れたけどヒットとは言いにくいなみたいな。
ルールをいっぱい持つようになりましたね。
- 古賀
- それはコンテンツ毎に、これのヒットは
このぐらいの基準でというのが何となくあって。
- 糸井
- 全てがコンテンツですということを言い始めて、
例えば事務所の引越も、ヒットでしたねと。
金銭的に言ったらマイナスになってますけど、
これヒットなんですよ。
何がヒットかっていうのも説明できるわけですよね。
そういうような、みんなが既に持ってる
価値観じゃないところに自分の価値観を
増やしていくというのは、
たぶんぼくが『ほぼ日』以後にするようになったことでしょうね。
100万部に対して5万部はヒットじゃないかというと、
5万部もヒットですよという言い方あるんだけど、
やっぱり100万部があることでの信用度とか
発言権とか、それを持つと次に出した時には、
そこと掛け算になって、打ちやすくなりますよね。
それはとっても大事なことなんだと思うんですね。
二谷友里恵さんが100万部だった時には、騒がれたじゃないですか。
- 古賀
- (笑)はい、騒がれましたね。
- 糸井
- それは掛け算だってことなんですよね。
- 古賀
- うんうんうん。
- 糸井
- 古賀さんっていう、
ぼくは黒子ですって言ってた人、
「×(かける)100万部」だから。
2冊目は、「100万部の古賀」がだから。
面白いとこだよね。
- 古賀
- 面白いですね。
- 糸井
- 立て続け感が、すごく面白いんですよね。
一発屋って言葉に続いて二発屋っていうの出ないかな。
三発屋はないのか。それじゃ床屋だよみたいな。