もくじ
第1回もっと天狗になるはずだったのですが…… 2016-05-16-Mon
第2回10年後20年後じゃなくて、3年後 2016-05-16-Mon
第3回東京から西を向く 2016-05-16-Mon
第4回誰も『嫌われる勇気』を知らない 2016-05-16-Mon
第5回本当は本なんか書きたくない 2016-05-16-Mon

滋賀県生まれ、東京在住の編集者です。新書・マンガ・小説をつくる仕事をしています。

ミリオンセラーの、ほんとのところ

120万部を超えるベストセラー『嫌われる勇気』のライター古賀史健さんが、糸井と対談しました。震災や女の子の話により道しつつ、「ミリオンセラーを書いても天狗になれなかった」「100万部売れても、誰も本のことを知らない」など、大ヒットの実態に迫ります。

プロフィール
古賀史健さんのプロフィール
糸井重里さんのプロフィール

第1回 もっと天狗になるはずだったのですが……

糸井
売れてますねぇ。
古賀
ありがとうございます(笑)
糸井
誰がどう料理するにしても、
入りは「お天気がいいですね」
じゃなくて、これでしょう(笑)
ライターという、一種の裏方商売を
やっているつもりで生きてる人にとっては、
不思議な実感なんじゃないかなと。
これを経験してしゃべってる人って、
あんまりいないと思うんですよね。
古賀
そうですね、はい。
糸井
だからその意味で、 漠とした話の方が
面白いような気がする(笑)
古賀
はいはいはい。
糸井
漠と、どうですか。
古賀
いや、やっぱりおっしゃる通り
ずっと裏方の仕事をやっているので、
関わった作品がどんなに売れても、
調子にのりようがなかったんです。
それで言うと今回は、こうやって名前も出して書いて、
それがありがたいことにたくさん売れて、
「さすがに俺も100万部いったら天狗になるだろう」と
思っていたのですが……。
糸井
なっていい数字ですよね(笑)
古賀
そうですね(笑)。
そうなったら、もうちょっと偉そうに
世の中にもの申すみたいな活動が
躊躇なくできるようになるのかなと思ってたんですけど、
全くできないですね。実感がないのか。
「俺の話を聞け」っていうのが、
ぼくはほんとにないんですね。
「この人の話を聞いてください」なんですよ、基本的に。
糸井
うん、そうですね。「その人が考えてることを、
ぼくはとても好きなんです」とやれば、
そこには自分のメッセージも入り込みますもんね。
古賀
「こんなに素晴らしい人がいる、
こんなに面白い人がいる、
みんな聞いてください!」でずっとやってきたので、
その中で培われた技術みたいなものはあります。
こうしたほうがより聞こえる、伝わるという手法について
大声で言いたくなるだろうなと思っていたんですけど、
それが未だに全くなくて。
次の人というか、ぼくがマイクを渡して
「大きな声で言ってください」とお願いしたくなる人を
捜し回ってる状態ですね。

糸井
古賀さんのお考え、そのままストレートに伝わってきます。
ぼくの場合は、なったんですよ、天狗に。
振り返ってみると、なんなかったつもりでいたのに、
なってるんですよ。
古賀
どのぐらいのタイミングですか。
糸井
30歳そこそこで。
古賀
へええ。
糸井
自分ではなってないと思ってるのに、
過剰に攻撃されたり、無視されたりするというのが
聞こえてくるので、それに対して矛と盾で言うと、
盾のつもりで肩を張るんですね。
古賀
わかります。
糸井
そんなところにぼくはいないよっていうか、
そこまでチンケな人間じゃないよと言いたくなって、
お座敷があって座布団があると座るってなことを
するんですよね。特に何だろうな、
ちょっと気持ちが良くてやっちゃうのは、
アシスタントやってる子なんかも喜ぶし、
女子大で講演してもらえませんかみたいな話。
女子大生に、ぼくなんかが言うことあるはずないのに。
古賀
はいはい。
糸井
なのに「やってくださいよ」なんて
言われると悪い気しなくて。
鼻の下長くして
「そう? 行こうか?」なんつって。
結局のところ、楽しいのは控え室までで。

古賀
(笑)
糸井
あとはテレビですよね。
テレビは仕事で、帯でやってたから、
その道具建てがあると人に会えたりする。
それは良かったなと思うんですね。
でも、そのお陰で、余計な拍手やら、
余計なそしりやらを受けて……。
古賀
拍手も、余計ですか。
糸井
余計ですよね。だって、そんなじゃないですよ。
褒められたくてしょうがないのは、
若い時は当然ありますけど、そんなじゃないですよね。
過分に褒められたりするというのが、
そんなことないって言えなくなるんです。
黙ってることによって認めるみたいな。
仮に、ありきたりな言い方で言えば「天才だね」とか、
「言葉の魔術師だね」みたいな言った時に、
特に否定しないんですよね(笑)。
それは1つには営業上のこともあるのかな、無意識で。
その辺わかんないです。昔に戻って見ても、
意識できてなかったことだと思いますね。
だんだんと、何をやってきたかとか、
何を考えたかって自分でわかるようになりますから。
ああ原寸大がいいなって思うのであって。
古賀
でも糸井さんの、特に30歳ぐらいからの、
テレビをはじめとしたメディアでの活動って、
コピーライターという仕事の認知拡大という意識も
あったんじゃないかと思うんですよね。
ぼくも本のライターというのがどういう仕事なのかを
声高に言った方がいいのか。
やはり裏方の人間として、このまま拡声器の役に
徹しているのがいいのかっていうのは、
まだちょっとわからなくて。
糸井さんには当時、極端な話ですけど、
「たった1行でそんなお金もらっていいね」みたいなことって
あったわけじゃないですか。
それに対して、「いやそんなことないよ」って言いたい気持ちと、
敢えて乗っかって「俺は1行で1000万なんだ」みたいなふうに
吹聴する気持ちと両方あったんじゃないかと思うんですけど。
糸井
それはね、当時は自分でもよくわかってなくて、
たぶん厳密に言うと嘘を言ってたと思うんです。
つまり、若かろうが年取っていようが、
大手にいようが中小にいようが、
「業界のために」っていう言い方、
ものすごくするんですよ。
真田幸村の物語で言えば、長野県辺りのね、
あの辺のためにっていう心からの気持ちとか、
自分がその方が楽だからっていう気持ちとかが、
混ざるんですよね。
もしもっとわかりやすい、
例えばサーカスの団長だったとして、
「サーカス面白いよね」ってぼくらが言われるようになれば、
「これからもサーカスの火を絶やさずにね、
ほんとサーカスって面白いですから」というのは、
自然に言えますよね。
古賀
そうですね。
糸井
つまりサーカス業が上手くいけば自分も乗れるから。
人は誰でも、自分の居やすい状況を作りたいんですよ。
だから売れてないけど、
「業界のために」と声高に言うっていうのは、
なかなか実は自分でも
わかんなくなっちゃうことだと思うんですよね。
ぼくも、コピーライターっていう職業があって、
それはすごいもんだぞっていうのは、言ってくれるんだったら、
ぼくも相乗りして言ってたんだけど、
あれは何だろうな、ほんとかなっていう。
極端に追求すると、ほんとかなと思ってますね。
嘘をついたつもりはないんだけど。
古賀
それは、今振り返っての。
糸井
振り返ってです。だからわかんないですずっと。
業界のために一生懸命やってくれる人がいたりするのも、
ありがたいことだと思いますし、
その業界に人が入って来るとか、
そういうのも、考えてみればライバルを
作ってるようなものですからね。
お笑いの人がよく言うじゃないですか。
「あの若い芽を摘んでやる」
古賀
はいはい、言いますね。
糸井
本当にほんとかっていうふうに、
三日三晩1人で自問自答したら、
ちょっと混ざりもののある(笑)
生まれた時からその商売やろうと思ってた人なんか、
あまりいないじゃないですか。
歌舞伎の御曹司とかは別だと思うんですよね。
あれは、業界が私、だからね。
どういうふうにタニマチと付き合うかとか、
全部が、人生がもう芸ですからね。
古賀
そうですね。
糸井
追い詰めすぎなのかも知れないけど、どうですか、逆に(笑)
古賀
いやぼくは、そうだな、やっぱり、
つい業界のためとかっていうことを言っちゃうし、
考えるんですよね。例えば10年前、20年前、
自分が新人だった頃は、こんな格好いい先輩達がいたけど、
今自分らがそれになれてるんだろうかとか、
今残ってる50代60代の中に、どれぐらい格好いい人達が
いるだろうと思うと、やっぱり昔の思い出の方が
格好良く見えたりもします。
その時に、若くて優秀な人が、格好いいなとか、
入りたいなって思う場所になってるかどうかっていうのは、
たぶん端的に言って、ネット業界とかの方が
キラキラして見えるはずなので。
だから多少のキラキラとか、何て言うんですかね、
羽振りの良さみたいなものとか、
サッカーの本田圭佑さんが白いスーツ着たりとか、
ポルシェに乗って成田にやって来ましたとか…
糸井
敢えてやってますよね。
古賀
はいはい、ああいう演出とかも、
何かしら出版業界の中とか、
ぼくらみたいな立場の人間が、
多少はやった方がいいのかなという思いも若干あるんですけど。
でも、今の糸井さんの話を聞いて、
三日三晩自分に、もしそれを問いかけたら(笑)

糸井
(笑)。
古賀
と思いますね。問い詰めると、
どこかにはチヤホヤして欲しいという気持ちはあるんで、
それを良くないことと片付けるのは、
あまりにも勿体ない原動力だから。
糸井
人間じゃなくなっちゃうってとこがあるからね。
古賀
はい。だからチヤホヤされたいという気持ちと、
どう向き合って、そこを下品にならないようにとか、
人を傷つけたりしないようにとかの中で
自分を前に進めていくというのが、
今やるべきことなのかなという気はします。
第2回 10年後20年後じゃなくて、3年後