田口商店 五代目継承の物語。 田口商店 五代目継承の物語。
下北沢にある「夢眠書店」は、
店主・夢眠ねむさんと、料理担当・まあさんが
ふたりで営んでいる本屋さんです。



ねむさんと、まあさんは、実の姉妹。



ふたりは三重県伊賀市にある老舗、
「田口商店」に生まれました。
乾物や鮮魚を販売するお店の、長女と次女です。



その「田口商店」が、
「生活のたのしみ展」に初出店します!
おいしいかつお節などを、たっぷりとご用意して。



しかもこれを機会に、代々続いた「田口商店」の屋号を、
長女・まあさんが五代目として継承するとか。
つまり、五代目として初のお仕事が、
「生活のたのしみ展2026」ということです。



なぜ、いま、継承することになったのか。
東京で活動するまあさんは、
どういうかたちで「田口商店」を継ぐのか‥‥。



継承までの経緯を、ほぼ日が追いかけました。
「生活のたのしみ展2026」にお越しくださる前に、
その物語をお読みください。



第二回 出店のための作戦会議 後篇
───
お母さまのお話は、おおむねわかりました。



で、お姉さま、
まあさんのお話というのは? 
ねむ
こうしてべらべらしゃべっている
わたしではありますが、
じつは、自分で言うのもなんですけど、
今回は陰の立役者っていうんですか? 
写真
───
陰の‥‥。
裏でひっそり役立つような? 
ねむ
そう、そうです。
───
ということは、表に立つのは‥‥。 
ねむ
わたしは、姉が「田口商店」を継げたらいいな、
と考えているんです。
───
‥‥ほおおおーーー。
まあさんが、「田口商店」を継ぐ。
ねむ
継いだとしたら五代目です。
───
五代目。
「田口商店」は創業何年なのでしょう? 
写真
まあ
わたしたちもよくわかってないんですけど、
150年は超えてる‥‥よね? 
ねむ
うん、たぶん。
でもお店の周りには
19代目とかがごろごろいるようなところなので。
まだまだ浅い方です。
───
はあー、すごい町ですね。
ねむ
母からの情報によると、
初代が鶴松さんという名前だったそうです。
───
つるまつさん。
ねむ
だからうちの屋号のロゴは「ヤマツ」。
山に「ツ」ですね。
写真
───
聞いたことがあります。
食品を扱う老舗の屋号紋っていうのでしょうか、
「ヤマ(Λ)」は商売繁盛みたいな意味で、
「ツ」は創業者の名前の一文字目だそうで。
ねむ
そう、昔からのお店でよく見ますよね。
───
「ヤマツ」、かっこいいです。
ねむ
初代から、名前を継いだり別な姓になったり、
あれこれありまして、現在は「田口商店」。



四代目の父には、
ふたりのいい子が生まれました。
まあ
わたしたちのことね(笑)。
写真
───
なるほど。
ねむ
いい子なんですけど、
ふたりの娘は東京に出てきまして。
───
それぞれの道を。
ねむ
まあちゃんはフランス料理人。
わたしはなんか、謎の人(笑)。
おもしろにんげんとして生きてきました。
まあ
おもしろにんげん(笑)。
ねむ
それである日、この書店を始めるとき、
お姉ちゃんに
喫茶を担当してくださいって頼んだんです。
まあ
はい。
ねむ
やがて、おとなも子どもも食べられる、
まあちゃんが作るうどんが、
お店の看板メニューになりました。
写真
───
おいしいです。
あれはほんとうにおいしい。
とくにカレーうどん! 
ねむ
ありがとうございます。
まあ
ありがとうございます。
───
長女のまあさんには
五代目になるというお話、
これまでなかったのでしょうか。
まあ
ちいさい頃はずっと言われ続けてました。
ねむ
え? 言われてた? 
まあ
うん。ちいさい頃は。
ねむ
それ、次女は知らなかった! 次女だからだ! 
まあ
「お婿さんもらって」とか
「どこどこの息子はどうや」とか、
めちゃ言われてたんです。
でも、ピンとこないじゃないですか。
「んー」みたいな。
そんな感じで過ごしているうちに、
「料理をやる」と決めて、家を出て。
その頃にはもう言われなくなりました。
「好きなことをしなさい」みたいな。
ねむ
そっかあ、じゃあ昔は、
継ぐのを期待されてたんだ。
まあ
期待っていうか、
あたりまえにそうなると思ってたようで。
ねむ
わたしなんかね、
「お姉ちゃんが継がないんだったら
わたしが政略結婚する!」って言ってたよ。
そしたらお母さん、
「うちはそんな立派な家じゃないから
政略結婚とかはできない」って。
ふつうに真顔で断られて、「あれ?」みたいな。
まあ
(笑)
───
ねむさんが政略結婚を考えたのは
いつ頃の話ですか。
ねむ
ええと、中学生。
写真
───
中学生。
でも、そんなねむさんも東京へ。
ねむ
そうですね。
まあちゃんはがっつり料理人をやってるし、
わたしもアイドルやってるから
家を継ぐことはまったく考えてなかったです。
───
ご両親もきっと、
おふたりが活躍しているのが
うれしかったのでしょうね。
ねむ
そうだと思います。



そうこうしているうちに時間が経ちまして。
───
はい、経ちまして。
ねむ
わたしのアイドル引退ライブの翌日に、
家族みんなで焼肉を食べに行ったんですね。
まあ
行ったね。
ねむ
同じ時期にお父さんも
「田口商店」の事業を縮小するって宣言をして。
「お互いに節目だねぇ」
みたいな感じで焼肉を食べて‥‥。



そのとき、
「うちらは実家の美味しい魚を
あと何年食べられるんやろう?」って。
まあ
はっとしたんです。
写真
ねむ
いつもたくさん魚やだしが送られてくるけど、
「うちの魚、食べられなくなるんやな」って。
まあ
買ったことがなかったもんね。
魚の買い方がわからんくらい。
ねむ
父が鮮魚で、母がだしの担当なんです。
父の鮮魚が縮小して、
そうしたら次は母のだしが‥‥。
───
あ‥‥「夢眠書店」のうどんは‥‥
まあ
母のだしです。
───
このお店で販売している
「だしだしパック」がそれですか。
ねむ
そう! あれです。
かつお節だけじゃなくて、
昆布、シイタケ、じゃことかのブレンドで。
写真
まあ
母のだしがないと、
うちのうどんは無理なんです。
───
あたりまえのようにあるものが、
いつか手に入らなくなるかもしれない。
まあ
その危機感がずっとあります。
ねむ
わたしたち、ちいさいころから
あのだしで煮たニンジンとかを食べてたよね。
だからなんか、命の水に近いっていうか。
───
命の水が、なくなるかもしれない。
まあ
無意識で「だし、どうしよう」
とつぶやくくらいになっちゃって。
ねむ
そういう姉の様子を近くで見ていて、
「これは、継がなあかんのでは」と。
───
なるほど。
五代目継承のお話につながりました。
ねむ
はい。
でも、なかなか難しい問題もあって。
四代目は父なんですね。
だしを始めたのは母なんです。
だから、だしを継ぐだけで五代目なのか? 
あと、そもそも母が
自分の代で終わらせるつもりかもしれないし。
写真
───
ああー。
まあ
でも、だしがないのはほんとうに困る。
あの配合をわたしは知らないし、
質のいい素材の仕入れ方も知らない。
今なら教えてもらえる、
今しかない、とは思っています。
ねむ
まあちゃんは料理人だから、
その思いは強いよね。
───
そういうお話、
お母様とはまだしていないのでしょうか。
ねむ
何度かしてます。探り探りで。
ね? 
まあ
うん。
するんですけど、話が続かないというか‥‥。
「また今度な」
くらいの感じになってしまって。
───
先延ばしになっている。
ねむ
そうそう、いつもお母さん、
「またいずれ」って。
まあちゃんはまあちゃんで、
いろいろ気にしてグイグイ言わない。
───
親子間の微妙なご関係があるのですね。
ねむ
そこで、わたしです!!
───
おっと。はい、ねむさん。
ねむ
ここはもう、一族で一番ずうずうしい
わたしが馬鹿でかい声で言うしかない! 
っていうのが、今回この企画です。
写真
───
陰の立役者なのに大きな声で(笑)。
ねむ
はい! 
それを、ほぼ日さんに載せてもらえば、
こっちのもんっていう(笑)。
───
光栄です(笑)。
ねむ
わたし、母に言います。
「お姉ちゃんに、だしを引き継がせて!」
「あと、五代目に!」
───
決定の場をつくる。
ねむ
そうです! 
───
ご家族のことにほぼ日が
立ち入ってしまうかたちになりますが、
お話を聞くことで
前向きななにかが決まるのでしたら、
すごくうれしいです。
ねむ
ありがとうございます。
母も、ほぼ日さんが来てくれるし、
「生活のたのしみ展」のこともあるし、
きっと心の準備をしてると思います。
───
そうですか。
じゃあ、五代目を継ぐ場にしましょう。
ねむ
‥‥まあちゃん、それでいい? 
───
あ、そうか、そうですね、
まあさんのお気持ちを確認しないと。
まあ
わたし、五代目になれるのかな‥‥。
ねむ
なれるよ、なろうよ、五代目! 
───
まあさん、いいんですね? 
いま止めないと、進んでしまいますよ? 
まあ
はい(笑)。
お願いします。
写真
ねむ
やった。
───
ちなみに五代目になるということは、
伊賀のお店に戻る可能性も? 
まあ
それはないです。
ねむ
「田口商店」の名前をこっちに持ってきて、
それで五代目に。
鮮魚の部分は継げないので、
だしの「田口商店」として。
───
なるほど。
そういう継承のかたちについても、
しっかりと話しましょう。
まあ
はい。
よろしくお願いします。
───
こちらこそです。



行きましょう、伊賀へ。
ねむ
よかったー。
作戦会議、もう、ばっちりでしたね!
写真
(次回、伊賀編へつづきます)
2026-05-13-WED