田口商店 五代目継承の物語。 田口商店 五代目継承の物語。
下北沢にある「夢眠書店」は、
店主・夢眠ねむさんと、料理担当・まあさんが
ふたりで営んでいる本屋さんです。



ねむさんと、まあさんは、実の姉妹。



ふたりは三重県伊賀市にある老舗、
「田口商店」に生まれました。
乾物や鮮魚を販売するお店の、長女と次女です。



その「田口商店」が、
「生活のたのしみ展」に初出店します!
おいしいかつお節などを、たっぷりとご用意して。



しかもこれを機会に、代々続いた「田口商店」の屋号を、
長女・まあさんが五代目として継承するとか。
つまり、五代目として初のお仕事が、
「生活のたのしみ展2026」ということです。



なぜ、いま、継承することになったのか。
東京で活動するまあさんは、
どういうかたちで「田口商店」を継ぐのか‥‥。



継承までの経緯を、ほぼ日が追いかけました。
「生活のたのしみ展2026」にお越しくださる前に、
その物語をお読みください。



第一回 出店のための作戦会議 前篇
それは、2025年1月、
「生活のたのしみ展 2025」会場へ、
夢眠ねむさんが訪れてくれたときのことでした。



ねむさんは、
ひととおりのお買い物を終えたあと、
会場全体をぐるりと見渡し、ふと、おっしゃいました。



「あの、これって、どうやったら出店できるんですか?」
写真
▲その日1枚だけ撮っていた写真。左は糸井重里。
ねむさんのこの質問から、今回のすべては始まりました。
おおげさに言えば、物語の「起」です。



質問を受けたご縁から、
この企画は山下が担当することに。
進行は、宮野。
デザイン・撮影は、田口。



そんなほぼ日乗組員3名で、
「まずは詳しいお話をうかがおう」と、
後日、下北沢「夢眠書店」にお邪魔しました。
写真
───
まずは、ねむさん。
ねむ
はい。
───
おとなりの方を、
あらためてご紹介いただけますでしょうか。
ぼくは何度もお会いしてるんですが、
ほぼ日の読者さんには「はじめまして」ですので。
ねむ
わたしの姉です。
まあ
まあと申します。
写真
───
まあさん。
妹のねむさんといっしょに「夢眠書店」を。
まあ
はい、ふたりでやっています。
ねむ
料理人の姉が、喫茶店をぜんぶ担当。
わたしが、本屋の部分を担当。
───
おふたりでずっと、
このお店を続けていらっしゃる。
まあ
はい。
───
ありがとうございます、よろしくお願いします。



で、ねむさん。
ねむ
はい。
───
ぼくの記憶が正しければですが、
ねむさんが「生活のたのしみ展」にいらして
「どうやったら出店できるんですか?」
と言われたのが最初ですよね。
ねむ
そう、そうでした。
まあ
会場でいきなり?
ねむ
うん、いきなり(笑)。
その節は失礼しました。
写真
───
いえいえ。
あのときはどたばたしていて、
くわしく聞けなかったんですが、
「実家の花かつおをここで」と。
ねむ
‥‥なんか、あの場所にいたら、
「ああ、いまここにいる方々は、
自分とおんなじものが好きなんじゃないか」
って感じたんです。
───
お買い物をしながら。
ねむ
うちの実家の食べ物を
「おいしい」って言ってくれる人が
多いんじゃないかっていう、勝手な直感があって。
「どうやったら出られるんだろう?」
‥‥という心の声が。
まあ
気づいたら出てた。
ねむ
うん(笑)。
写真
───
ありがとうございます(笑)。
あのとき、
そう言っていただけてうれしかったです。
ねむ
ほんと、わからないじゃないですか。
ほぼ日は自分たちが好きなものじゃないと
紹介しないという印象があって。
でも、だったらどうしたらいいんだろうと。
───
「自分たちがおいしいと思ったものを」
というのは、おっしゃるとおりです。
ねむ
たぶん、ほぼ日社内の口コミでしか
出られないんじゃないかなあと‥‥。
───
でも、社内口コミなら、
個人的にぼくは言ってたんですよ? 
「夢眠書店のだしはおいしい!」って。
ねむ
うう。ありがとうございますー。
───
それと、糸井もお邪魔してますよね、
「田口商店」に。
ねむ
そうなんです! わたしたちが不在のときに、
伊賀の実家に来てくださって。
───
「ねむさんのとこに行ってきたよー」
という写真がその日に届いたので、
記事になったとき貼っておきますね。
写真
▲三重県伊賀「田口商店」前にて。樋口可南子さんと。
ねむ
年末に奥様と。
───
プライベートで。
ねむ
なんか、年末でお店がわちゃわちゃしてて、
「気づいたら女優さんが急にいる!」みたいな(笑)。
───
(笑)
ねむ
「やっぱりきれいやなぁ」っていう、
ザワザワが店内でけっこうあったらしいです。
───
びっくりしますよね(笑)。



たしか糸井さんは花かつおを買ったらしくて、
「あそこは確かなものを置いてるぞ」と。
ねむ
うっ‥‥うれしい。
───
「ご町内に愛されてる
ああいうお店はいいものだよねぇ」とも。
ねむ
ありがたい~。
写真
───
ぼくもうれしかったです。
糸井さん食べてくれたんだって。



ただ、そこで止まってたんですよ。
なにしろ伊賀のお店ですから、
「生活のたのしみ展」につながらなくて。
でも、「そうか、かつお節か」と思いました。
ねむ
実家の花かつおをその場で削って食べたり、
おだしを売ったり、
そういうことができるかも、と。
会場を見ていたら、
けっこう保冷系のものも売ってらっしゃるから、
うちのだしは要冷蔵なんですけど、
「冷蔵も売れるんだ」って。
───
いけるかもしれないと。
ねむ
はい。
───
いけるかもしれないと思ってくださって
ありがとうございます。
もう、すでにご縁はありますし、
糸井は「確かだよね」と言ってますし、
ちいさい声ですがぼくも大好きですから、
これはもうゴーだろうと。
ねむ
ああ、ぽろっと言ってよかった‥‥。
───
こちらこそです!
ねむ
ただ‥‥ねえ? 
まあ
そう‥‥ちょっと‥‥。
───
な、なにかありましたか。
ねむ
雲行きが‥‥。
起承転結の「転」が急にきた、みたいな。
写真
───
どういうことでしょう?  
ねむ
「生活のたのしみ展」にっていうのは、
実はわたしたちの勝手な思いだけじゃなくて。
───
なくて。
ねむ
母がその‥‥あれはアクリル? 
まあ
そう、アクリル。
ねむ
アクリルのクリアなケースの
削り節の機械が欲しいと。
すごーく薄く削れるマシンが。
───
おおー、はい。
ねむ
でも、買う勇気が出ない。
「ああいう機械があったら、
東京とかの物産展に持っていって
削って売ったらすてきやのになあ」
みたいなことを言ってたんですよ。
───
はい。
ねむ
母がそういうことを言うときって、
背中を押してほしいときなんです。
まあ
「ええやん、ええやん」って。
「買っちゃえ」って言われたい(笑)。
写真
ねむ
だからわたしはよかれと思って、
「ほぼ日に出られるかもしれへんよ?」
「ほぼ日さんに聞いてみるから」
みたいなことも言って。
───
そこまで話してたんですね。
ねむ
「だから買ったら?」って。
「100万は出してあげられへんけど」
───
100万円するんですか。
ねむ
なんか、毎回100万のものなんだよね。
まあ
そう、いつも100。
───
いつも、と言いますと他にも? 
ねむ
「自動販売機が欲しい」のときも。
まあ
「100万するんや」って。
───
自動販売機。
おだしを販売するんでしょうか? 
ねむ
そうですそうです。
で、それ買ったんです。
買ったけど思うように売れなかったり
管理がたいへんだったり。
まあ
気に病んで胃が痛くなったりとかしてて。
ねむ
母は、大胆だけど繊細なんです。
───
なるほど。
写真
ねむ
それで今回は、
「くわしい話を聞きに来てくれるから、
ほぼ日の来年のイベントに出られるらしいよ。
もう機械を買っても心配いらへんよ」
って電話したら‥‥
「来年生きてるかわからないからお断りします」
って。
───
え。
‥‥それは、お身体の具合が? 
ねむ
いやいや、そうじゃないんです。
70歳を迎えて、
いろいろ思うところがあるみたいで。
───
お母さまは70歳でいらっしゃる。
ねむ
昭和30年生まれなので、
そうですね70です。



あんなに弱気になってる母を
あんまり見たことないんですよ。
もうパワフルそのものって感じの人だから、
びっくりしちゃって。
───
そうでしたか‥‥。
ねむ
でも、わたしの見立てでは、
母は100超えるんですよ。
まあ
うん。
ねむ
ぜったいそうなんです。
母側の血筋は基本的にそうだから。
もう、ぜったい。
まあ
長生きするよね。 
ねむ
それと、もうひとつびっくりしたのが‥‥。
写真
───
まだなにか。
ねむ
背中を押すつもりの電話をしたとき、
すでに買ってたんですよ、機械を。
───
え? 100万円のマシンを? 買っていた。
ねむ
買ってるんです。
だけど、なぜかずっとネガティブで。
───
ネガティブ。
ねむ
ずっと「しゅん‥‥」
みたいな感じになっちゃってて。
───
あの‥‥たいへん僭越ではありますが、
その「しゅん」を取り除きたいです。
ねむ
ああ、ありがとうございます。
わたしはもう、母に笑顔になってほしい。
まあ
ね。
───
‥‥わかりました。
お母さんにお会いして、イベントのことを
たのしみに思っていただきたいです。
ねむ
伊賀に来てくださる。
───
あ、もともと取材で
うかがう必要がありますから。
まあ
ありがとうございます。
───
そこでまずは、お母さんを笑顔にして‥‥
って、なんだかこの打ち合わせ、
作戦会議っぽくなってますね(笑)。
ねむ
作戦会議だ(笑)。
写真
───
作戦立てて挑みましょう! 
ねむ
あ、でも、もうひとつ、
お話ししておきたいことがあるんです。
───
おっと、はい。
物語に、またテーマが。
なんでしょう。
ねむ
ここまでは「母サイド」の話なんですけど、
まだ「姉サイド」の話もありまして。
───
まあさんサイド‥‥。
聞かせてください。
(姉サイド? つづきます)
2026-05-12-TUE