2018年1月、
ほぼ日の学校が始動しました。

これからいったい、
どういう学校に育っていくのか。

そのプロセスの出来事や、
学校にこめる思いなどを、
学校長・河野通和が
綴っていきます。

ほぼ日の学校長

河野通和(こうの・みちかず)

1953年、岡山市生まれ。編集者。

東京大学文学部ロシア語ロシア文学科卒業。

1978年〜2008年、中央公論社および中央公論新社にて
雑誌『婦人公論』『中央公論』編集長など歴任。

2009年、日本ビジネスプレス特別編集顧問に就任。

2010年〜2017年、新潮社にて『考える人』編集長を務める。

2017年4月に株式会社ほぼ日入社。

ほぼ日の学校長だよりNo.108

百人一首、浮世絵、シェイクスピア

 このひと月は、いつになくイベントが立て込んでいました。ダーウィン講座を締めくくる授業をいくつか走らせながら、来年1月からの新講座「橋本治をリシャッフルする」の準備を進め、その間に3つのイベントをやりました。

 まず11月24日、ほぼ日の株主総会の当日に、「ほぼ日の株主ミーティング」でトークイベント「百人一首が笑っている」を開催しました。株主総会が後に控えているというタイミングで、こんなイベントをすること自体異例なのですが、ほぼ日の学校としては是非ともやりたい企画でした。

daniel

 というのも、“まさか”と思っていたアイディアがほんとに実現しちゃった、という余勢をかっての企画だからです。ほぼ日オリジナルの「百人一首」かるたの話です。

 詳しい経緯は「もし、和田ラヂヲ先生が百人一首の絵を描いたら。」の記事に委(ゆだ)ねますが、ほぼ日手帳2020のストア購入特典として「オマケは、百人一首にしよう!」と、糸井さんが突然言い始めたのがきっかけです。

 ほぼ日の学校は、いってみればムード・メーカー。その空気の醸成にひと役買ったといえるのです。

 2019年の新年は、「万葉集講座」第3回、岡野弘彦さん(歌人・国文学者)の講義に先立つ“予習茶話会”から始まりました(1月11日)。講師をした私がいうのもナンですが、これが予想以上に盛り上がりました。

okano

そして岡野さんの本講義、さらに永田和宏さん、ピーター・マクミランさん、俵万智さんの授業が続き、回を追うごとに、どんどん教室が熱を帯びます。そこに4月1日、新しい元号の「令和」が、万葉集の「梅花の歌三十二首」の序文から選ばれた、というビッグ・ニュースが飛び込みます。

nagatapetertawara

 翌々日(4月3日)の小泉武夫さんの講義の際には、NHK「おはよう日本」の取材が入るなど、「さすが、ほぼ日の学校! 先見の明がありますね」と、あちこちで言われて悪い気はしません(笑)。

koizumi

 授業に皆勤賞だった糸井さんや、ほぼ日乗組員の関心が、万葉集や和歌に向き始めたのも当然です。「人生観が変わった」とさえ、糸井さんは言いました。とはいうものの、手帳の購入特典に「百人一首」をオマケにしよう、という着想には、さすがに脱帽です。

 さらにシビレたのが、その絵を和田ラヂヲさんにお願いすると手帳チームが決めたことです。参考文献に、ほぼ日の学校がお世話になった橋本治さん(今年1月29日に逝去されました)が現代語訳と解説をほどこした『百人一首がよくわかる』(講談社)を選ぶことができたのも幸いでした。

 このアイディアを、手帳チームのさんから聞かされた時は、「すごい!」のひと言しか出ませんでした。さらにシビレたのが、その締切! 

 時間がない、なんてもんじゃなく、「えッ!」とただ絶句するしかなくて、「受けてもらえるといいけどねぇー」と、願(がん)をかけに一緒に行こう! と誓い合ったくらいです。

 ところが、願をかけるまでもなく、ラヂヲ先生から速攻の返事。

 「やってくださるそうです‼」――ウルッとした星野さんが、まだ信じられません、といった面持ちで私の席に現れます。

radio

 即答で快諾!‥‥カッコよすぎる、和田画伯!‥‥でも、大丈夫かな? ひょっとして、ことのタイヘンさをおわかりになっていないのでは?‥‥ 

 そんな疑いを、チラッとでも差し挟んだ自分を、いまは恥じて、反省しています。和田さんならではのラフスケッチがほどなく届き、刮目(かつもく)し、大いに笑い、あとは怒涛のような勢いで傑作の百人一首が完成しました。

 それにしても、あのスピード感。後から聞くと、仕事がずいぶん立て込んでおられた様子です。なのに、「どうして引き受けてくださったのですか?」という問いの答えに、また震えます。

和田 
締め切りが、あまりにシビレたんで、
逆に、なんかいけるんじゃないかなあ、と。

 なんたる豪胆さ! 「古典」に向き合うには、こういう度胸も大事です。

 とまぁ、“電光石火”のドラマを経て、オリジナルの「ほぼ日の百人一首」が誕生しました。まずはほぼ日手帳のストア購入特典として、コンパクトな「サイズ小さめ」の非売品ができました。

isshu2

次に、深緑色の箱に入った、標準サイズで、絵もカラーの「ほぼ日の百人一首」が、1217日に販売開始となりました。かるたとして遊ぶことはもちろん、歌を読んで絵をたのしむ「そばにおく古典」という触れ込みです。

isshu1

 そんなプロセスが幾重にも重なって、これは何かやらなければと、学校チームも考えました。それが、先のトークイベントにつながったのです。

 「百人一首」そのもののおもしろさをもっと知ってもらおうと、人気漫画『ちはやふる』(講談社)の漫画家・末次由紀さんと、SNS界の“古典の伝道師”たらればさんをゲストに迎え、賑やかな特別授業が実現しました。

 トークの模様は、1月1日から全12回でほぼ日刊イトイ新聞に連載されます。オリンピック・イヤーは、「百人一首」で幕開けです。

 さて、2つ目のイベントは、その1週間後の11月30日。こちらは江戸東京博物館(東京・両国)で開催されている「大浮世絵展」(~1月19日)にちなんだ企画です。新年スタートの橋本治講座のプレイベントとして、橋本治『ひらがな日本美術史』(新潮社)を読み解きながら、美術ライターの橋本麻里さんと「ひらがな浮世絵トーク」を行いました。こちらは「学校長だより」No.106ですでにお伝えした通りです。

 そして、先週の12月17日に3つ目のイベント――「ごくごくのむ古典 in 福岡~能楽堂でシェイクスピア⁉~」をやってきました。初めて東京以外で行う出張授業。内容は「ほぼ日の学校ニュース」で紹介しましたので、それを参照いただければと思います。

 ここでは、当日の感想をいくつか紹介したいと思います。メールでほぼ日宛てに送ってくださった感想から――。

<いつも楽しく拝見しています。本日、大濠能楽堂でのイベントに参加してきました! 本当に楽しかったです。ほぼ日の学校についてはいつも、東京の人はいいなあーーーと、羨ましく思っておりましたので、今日、ナマの現場に参加できて、こんな嬉しいことはありませんでした! オンラインクラスを受講しているおかげで、先行発売のご連絡もいただき、おかげでとてもよい席で観ることができましたし、本当に感謝です!(略)

シェイクスピアは実はあまり詳しくなかったので、マクベスのあらすじだけ把握して観劇したのですが、とても熱く、面白い舞台でした! 歌舞伎は好きなので、義太夫の三味線の音はすごく自然に耳に入り、舞台装置なしのお芝居も、まるで松羽目物の(能舞台ですからこれこそホンモノの松羽目物ですね) 演目を観ているようでした。お客さんが熱かったとおっしゃっていただいて、なんだか嬉しかったです。ほぼ日は動く森だ! っていうキメゼリフができたのも素敵でした。さすが糸井さんですね。

シェイクスピアももっと詳しく知りたくなりました。もう50をとうに過ぎていますが、学ぶことは楽しいということを再確認させてもらいました。来年も福岡で何か計画があるとか。楽しみに楽しみにしております! 今回の企画、本当にありがとうございました!>

fukuoka1

 地元の応援団として、陰でいろいろ手伝ってくださった深町健二郎さんも、フェイスブックに書いておられます。

<[ほぼ日の学校スペシャル ごくごくのむ古典in福岡〜能楽堂でシェイクスピア!?〜」大盛況のうちに無事終了しました!

ご来場の皆さま、またご支援頂いた関係者の皆さま、誠にありがとうございました。🙇‍️

今まで門外不出だったほぼ日の学校が、初めて持ち出され、しかもそれが我が街福岡で、さらに企画段階から関わらせて頂けるなんて、喜びとプレッシャーのせめぎ合いの日々でした。

終演後、楽屋に戻った糸井さんからの「面白かったな〜」の一言で、それまでの緊張感が、ようやくスーッと緩んでいきました。😅

これまで、"ほぼ"完全スルーしていた古典が、こんなにも刺激的で楽しいものだったなんて、早く教えて欲しかった〜😂でしたが、いやいや、今からでも全然遅くないと、たくさんの"学び"と"気づき"を頂きました!

どうやら僕の中の"眠れる森"が動き出したようです。😉

賢いは馬鹿〜、馬鹿は賢い〜😝
知ってるは知らない〜、知らないは知ってる〜😝

シェイクスピアのこと、カクシンハンのこと、義太夫のこと、能楽堂のこと、まだまだ書き切れませんが、後は"ほぼ"記憶に留めておきます。>

fukuoka2

スタッフとして大活躍してくれた、やはり地元応援団の高山貴久美さんのフェイスブック。

<【興奮冷めやらず】

怒涛の展開すぎて、まだなんだかふわふわしていますが、ほぼ日の学校スペシャル ごくごくのむ古典 in 福岡 〜能楽堂でシェイクスピア!?〜大盛況にて終了いたしました✨

木村龍之介さん率いるカクシンハンさんのシェイクスピア『マクベス』は素晴らしく、その熱量、ことばのもつ響き、波形あるストーリー、すべてが溶けあうように入ってきて、あの能舞台の奥にありありと情景が浮かぶようでした。まさにドラマ。義太夫三味線の鶴澤寛也さんも音に、間に、素晴らしかった…。
その後続いたほぼ日の学校長河野さん、木村さん、福岡から深町さんのお三方のアフタートークではスペシャルゲストとして糸井さんも登場。人から人へ、ことばがことばを生み、つながり育っていく様をリアルに感じることができました。とても刺激的。糸井さんの「動く森だ!」には全部持っていかれた感じでやられました。しばらく頭から離れません(笑)。>

fukuoka3

 熱い感想がまだまだたくさん届いています。

 私たちも、すごく刺激を受けて、元気をもらって帰りました。福岡という街との出会い、新たに生まれた人とのご縁、ほぼ日の学校が「これからもっとやりたい」ことの可能性などを、いろいろ実感できた夜でした。

fukuoka4

 福岡応援団の力を借りて、たのしく終えることができた今年最後の大仕事。少人数で乗り込んだ学校チームも、広い能楽堂の中をずいぶん歩き、走りました。ある学校スタッフの万歩計は、約2万5000歩だったとか!

 おかげさまで、これにて2019年は有終の美を飾ることができました。一年、ありがとうございました!

2019年12月26日

ほぼ日の学校長

ほぼ日の学校オンライン・クラスに「万葉集講座」第8回授業が公開されました。講師の永田和宏さんとともに、99人の受講生が歌仙を巻きました。受講生からつぎつぎに溢れてくる歌!日本人に根付いている歌を詠う心を感じる授業です。
*能楽堂イベント写真撮影:平山賢

kitte1955