第4回 「株価」ってなんだろう。

ここで、少しだけ専門的な話をさせてください。
株価というのは、
「EPS(1株当たり利益)× PER(株価収益率)」で
決定します。
おおざっぱに言うと、
EPSは「利益」、PERは「人気」です。
つまり、

株価は「利益」と「人気」で決定するんですね。

ぼくは、人気を気にする人から
「日経平均はどうなりますか」
「為替はどうなりますか」と、よく質問されます。
投資のプロで、しかも日本でいちばんの成績なんだから、
わかっているはずだろう、と。
そういうとき、
ぼくはいつも「わかりません」と答えます。

ぼくの仕事は、
日経平均株価の上げ下げを当てる仕事ではありません。
来月の日経平均株価が上がるのか、下がるのかなんて、
誰にもわからないのです。
わかるとしたら、神様だけでしょう。
けれど、社長と会って話すことで
真面目に経営しているのか、
ちゃんとお客さまが増えているかを調べることは
人間にもできます。
その人間技を積み重ねていくことが、
大きな収益につながるんです。

株式投資の世界というのは、
売ったり買ったりする人たちがいて、
わあわあと売買をやっているうちに
株価が上がったり下がったりする。
そんなふうに、株には
実態がなくて儚いものというイメージが
あると思います。

でも、実は株式投資って、
とても道理にかなった商売なんですよ。

これは、次の2つのグラフを見ていただければ
すぐに理解していただけると思います。

スライド32 ダイハツ工業のグラフ

スライド33 小松製作所のグラフ

2つの会社の、2002年から2012年までの
営業利益と株価をグラフにまとめたものです。
おどろくことに、
営業利益と株価の動きは、
ほとんど一致しているんですね。

今はこの2社しかご紹介できませんが、
ほんとうは、現在上場している約3400社の
営業利益と株価の動きを
すべて見ていただきたいと思っています。
いずれは、パラパラマンガのように
次々とグラフを見ていただけるようなものを
つくりたいですね。

この折れ線グラフの、
ジグザグと細かく上下しているのは
TOPIX(東証株価指数)に連動した動きです。
ジグザグの線が明日上がるか下がるかは
誰にもわかりませんので、
これを当てにいってもしょうがない。
ただ、今日明日といった話ではなく、
半年から1年、3年というスパンになってくると
不思議なことに、
成長している会社の株価は上がり、
ダメな会社の株価は下がるんですね。

つまり、
がんばってお客さまを3倍に増やして
営業利益が3倍になったら、
株価も3倍になるんです。
逆に、コマーシャルをじゃんじゃんやっていても、
利益が3分の1になると、株価も3分の1になります。

がんばったら3倍、見かけだけだと3分の1のイラスト

投資の世界って、ごまかしがきかないんです。
ぼくは、これが株式市場のいいところだと思っています。
さらに、株は誰でも買うことができます。
性別や年齢、国籍、学歴は関係なく、
資金があれば、どんな人でも参加できる。
すごくオープンな場所なんですね。

もうひとつ、
営業利益と株価のグラフを見ていただきましょう。
「朝日印刷」という会社のものです。

スライド34 朝日印刷のグラフ

たぶん、みなさんご存じない会社ですよね。
でも、ご覧のとおり、株価は右肩上がり。
この会社は、ある分野で50%のシェアを
持っているんですよ。
あ、今たまたま持っていますね。
これです。

薬のボトルの、ここ。ラベルですね。
朝日印刷は、薬のボトルや箱、
「使用上の注意」が書いてある説明文書などを
日本でいちばん印刷している会社です。
このような薬の効能の印刷は
字の大きさや色など
薬事法による細かい決まりがあって、
誰でもつくれるものではないんですね。
字の大きさや色が微妙にちがっただけでも、
全品回収になってしまいますから。

大手の印刷会社からすると
手間がかかって儲けが少ない仕事になるので、
この分野には手が出せません。
新規参入しようとしても、
薬事法の細かい規定を理解したり、
薬業界とのネットワークが必要になるので、
現実問題、むずかしいと言えます。

一方、朝日印刷は、
明治時代から薬の効能の印刷をしている
筋金入りの印刷会社。
社内には薬剤師もいます。
大手の印刷会社もベンチャーも入りにくい分野なので、
専業メーカーとして活躍しているんですね。

朝日印刷は毎年10%から15%ずつ
利益がアップしています。
それには、
高齢化で薬の需要が高くなっていることや、
近年リスク情報をきちんと載せることが
非常に重要になっているため、
使用上の注意の紙が年々大きくなっていることが
追い風になっているんです。

そして、朝日印刷に会社訪問して
工場を見学させてもらったとき、
社員のみなさんは
とても真面目にお仕事をされていて、
自分の仕事に誇りをもっているように見えました。

実は知らないだけで、
朝日印刷のような会社が
日本にはたくさんあるんです。

さきほどクイズで考えていただいた
「失われた10年」に株が上昇した1700社
そういう「知られていないけれど
社会的意義のある会社」なんですよ。

株式投資を
日経平均株価やTOPIXなどの
ジグザグとした上下の動きを見極める
マネーゲームと捉えることもできますが、
その一方で、
朝日印刷のようなところに投資をして、
株主になることで
その会社を応援することもできるんですね。
ぼくは、後者のほうが
よっぽど社会的意義があることだと思います。

株式投資を残念なものにするのか、
それともすてきなものにするのかは、
投資家の行動次第なんです。
冒頭でお伝えした、
「株式投資をすることは、
 おしゃれで、知的で、かっこいい社会貢献」
とは、こういうことなのです。

お話したいことはたくさんあるのですが、
時間もだいぶ少なくなってきたので、
あとは、ぼくが独自に考えている
「ダメな会社の法則」のなかから
1つだけご紹介させてください。

(つづきます。)

2014-05-19-MON

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糸井重里の
「これは、いい参考書です。」いうつぶやきは
この本の帯にもなりました。

「ほぼ日」の創刊12周年記念の特集で、
テーマは「お金」でした。
なぜ、お金について「あえて」取り上げるのかという
糸井重里のイントロダクションからはじまり、
芸術家の赤瀬川原平さんや、みうらじゅんさん、
日本マクドナルド会長の原田泳幸さんなどにうかがった
お金にまつわるお話をまとめています。

日本・台湾の実業家、作家の邱永漢さんの
2000年から2002年まで連載したコンテンツです。
「金儲けの神様」と呼ばれた邱さんが
お金や経済を中心に、人間、人生についても執筆。
全900回の連載になりました。

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邱永漢さんと糸井重里との対談が、
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このコンテンツは、対談本の立ち読み版です。
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就職すること、はたらくことについて
あらためて考えたコンテンツ特集です。
ミュージシャンの矢沢永吉さんや
ディズニーの塚越隆行さん、
マンガ家のしりあがり寿さんなど、
さまざまな職業や肩書きの方に話をきいたり、
読者にアンケートしてもらったりしました。