第2回 会社なんて大嫌い。

2013年の暮れ、ぼくは
東京証券取引所が主催する勉強会で、
約100名の社会と家庭科の先生に向けて
経済と投資についてお話しました。

今までお話してきた内容は、
そのときにしたものと同じです。

ぼくはそのとき、学校の先生たちに
「あなたたちが育てているのは
 経済をマネープリンターだと思っている人間なんだよ」
と直接投げかけました。
もちろん、ぼくは学校の先生たちを
非難したかったわけではありません。
このような価値観を生んでいるのは、
社会全体にも責任はあるのですが、
その一部は学校の先生にもありませんか、
という事実をお伝えして、
自覚していただきたかったのです。

約1時間半の講義でしたが、うれしいことに
過去に何度か行われた勉強会のなかで、
アンケートの満足度が
もっとも高い勉強会になりました。
そのアンケートの感想を読んでみたら、
ほぼ、同じことが書いてあったんです。
それは、次のような内容でした。

「私は、労働は悪だと思っていました。
 会社にいいイメージはありませんし、
 株式投資も悪いものだと考えていました。
 そのようなことを
 暗に生徒に伝えていたような気がします」

現代社会で生活を送っていると、
こういう考えが常識として染み付いてしまう。
これが、とても大きな問題なんですね。

ぼくは20年以上、
みなさんからあつめたお金で
「ファンド」という金融商品を作り、
運用する業界で仕事をしてきました。
この20年間、会社訪問をして、
この社長を応援したいと思った会社に投資してきました。
もちろん、投資を検討するときには
財務諸表などの数字も見ますが、

そういう数字よりも大事なのは、
経営者、経営陣、社員、つまりその会社の人が
いきいきはたらいているかどうかだと思っています。

このことを、ぼくは
「きれいごと」と呼んでいます。

「株は汚い」と思われがちですが、
ぼくがはたらいている
レオス・キャピタルワークス株式会社では、
そういうきれいごとをきちんとやることが
成果につながる、と信じています。
ほんとうに、きれいごとをやっていたら、
それは数字に出てくるんですよ。
その証明のひとつが、「R&I ファンド大賞」です。

「R&I ファンド大賞」とは、
格付投資情報センター(R&I)が主催している、
いわば投資信託の甲子園のようなものです。
レオス・キャピタルワークスは
「ひふみ投信」の運用の成績で
2012年は最優秀賞、2013年は優秀賞と
2年連続受賞しました。
(編集注:2014年も最優秀賞を受賞されました!)

ぼくらは日本株を専門としているので、
ライバルはだいたい1000商品くらいです。
相撲は、幕内力士40人くらいで戦っていて、
甲子園も50校くらいですよね。
ぼくら、1000です(笑)。

(笑)

あ、自慢をしに来たわけではなくてですね‥‥(笑)。

※期間:2008年10月1日~2013年10月31日
 レオス・キャピタルワークス作成。当該実績は、過去のものであり、
 将来の運用成果等を保証するものではありません。

 

こちらは、ひふみ投信の成績です。
TOPIX(東証株価指数)というのは、
日本株を平均した指標のこと。
このあたり(A)から、アベノミクス効果ですね。
それ以降は
ひふみ投信もTOPIXも劇的に上がっていますが、
注目していただきたいのは、その前の部分です。
TOPIXは低迷していますが、
ひふみ投信は右肩上がりなんです。
ここに、ぼくらの強さがあると思っています。

ここからは、なぜぼくらは強いのか、
ということを、お話していきますね。

2013年にアベノミクスが施行されて、
去年1年間だけで、
TOPIXは50%上がりました。

アベノミクスによる上昇の前の
2002年から2011年までの過去10年間、
「失われた10年」といわれる期間では、

日本株はたった2%しか上がってないんです。

これは、10年間お金を預けていても、
2%しかプラスになっていないということ。
減らなかっただけマシ、という数字です。

では、ここでまた質問です。

みなさん、頭に答えを思い浮かべましたか?
これは、手をあげてもらいましょう。

20%だと思う人。

はい、ありがとうございます。
次、30%だと思う人。

はい。
50%の人は?

最後、70%の人。

はい、ありがとうございました。

答えは、70%です。

おおおー!
ほら、おれ、社長だから。
(笑)

おみごとです、糸井さん。
上昇したのは1705銘柄で、
下落したのは897銘柄でした。
約70%の上場企業の株は、上昇していたんですね。

このうち大型株といわれる、
時価総額が3000億円以上の企業の株で
上昇していたのは、なんと4%だけ。
中小型株とか超小型株とよばれる
お菓子をつくっていたり、
水道の栓をつくっていたりするちいさな会社が、
がんばっているんですね。

しかも、上昇した1705社を平均すると、
株価は倍、営業利益も倍、
従業員数も倍になっているんですよ。
「失われた10年」といわれていますけれど、
ぜんぜん失われていないんです。
上場している会社の
7割の株価が倍になっているんですから。
以前、経済の専門家の方々に
みなさんと同じクイズを出したとき、
ほとんどの人が30%で手をあげていました。
専門家でも、意外と知らないんですよ。

では、大企業の株価はどうだったのか。
時価総額と流動性がとくに高い30社で構成される
「TOPIX CORE 30」で見てみましょう。
「流動性」とは、かんたんに言うと
「売買しやすいかどうか」ということです。
株はその値段で買いたい人と売りたい人が合致して
はじめて売買が成立します。
人気が高い株は売りたい人と買いたい人が
たくさん現れるので、すぐ売れますし、
人気が低い株だとなかなか売れないんですね。

これが、2013年7月11日時点の
「TOPIX CORE 30」に入っていた企業です。

みなさんもご存知の、
そうそうたる企業ばかりです。
ところが、

これら30社の「失われた10年」の株価は
24%のマイナスだったんです。

よく大企業が中小企業をダシにしているといわれますが、
実際はその逆で、この10年間は
上場している中小企業は
大企業のシェアを奪っていたんですね。

また興味深いことに、
この10年で株価を上げた1705社の多くでは
オーナーが経営者だったんです。
大企業の社長や会長は2期4年制なので、
極端に言えば、
自分が務める4年間だけうまくいけばいい。
そして、短期的に収益を上げるには、
投資をしないほうがいいんです。
工場をつくらないし、海外進出もしない。
挑戦しないから失敗もない。
でもそれだと、
どうやっても事業は尻すぼみになります。
オーナー経営者のほうが
会社の10年、15年後のことを
きちんと考えて行動していると言えるんですね。

(つづきます。)

2014-05-16-FRI

星海社新書 820円(税別)
Amazonでの購入はこちら。
20年以上プロの投資家として活躍されてきた
藤野英人さんが、
「お金の本質とはなにか」について考えた結果を
1冊にまとめた本です。
この本を読んだ糸井重里は、
「非常におもしろかったです」と社内にメール。
希望者を募って本を配りました。
糸井重里の
「これは、いい参考書です。」というつぶやきは
この本の帯にもなりました。

「ほぼ日」の創刊12周年記念の特集で、
テーマは「お金」でした。
なぜ、お金について「あえて」取り上げるのかという
糸井重里のイントロダクションからはじまり、
芸術家の赤瀬川原平さんや、みうらじゅんさん、
日本マクドナルド会長の原田泳幸さんなどにうかがった
お金にまつわるお話をまとめています。

日本・台湾の実業家、作家の邱永漢さんの
2000年から2002年まで連載したコンテンツです。
「金儲けの神様」と呼ばれた邱さんが
お金や経済を中心に、人間、人生についても執筆。
全900回の連載になりました。

「もしもしQさんQさんよ」を連載していた
邱永漢さんと糸井重里との対談が、
同タイトルでPHP研究所から出版されました。
このコンテンツは、対談本の立ち読み版です。
本についてはこちらをご覧ください。

就職すること、はたらくことについて
あらためて考えたコンテンツ特集です。
ミュージシャンの矢沢永吉さんや
ディズニーの塚越隆行さん、
マンガ家のしりあがり寿さんなど、
さまざまな職業や肩書きの方に話をきいたり、
読者にアンケートしてもらったりしました。