耳で聴くほぼ日の怪談・その4

「友人の別荘」

2年前の夏、友達と自分とふたりで
那須高原にある、別の女友達の別荘を借りました。

お風呂場から外の林が見え、日の光が残る夕方、
ゆっくり湯船にでもつかろうとお湯をためながら
リビングでニュースを見ていました。

お風呂場からかすかにパチャリ、パチャリと
水をたたく音がしたので
溢れさせたのかも、と大急ぎでバスルームに行くと、
浴槽の縁から湯船の中に、とろり、と
青緑色の手と
白髪まじりの長い髪の毛が消えて行きました。

友達はそのような現象を
見たり感じたりしないほうなので、
全然気にしないと言い、私としても初日で帰ると
別荘を貸してくれた友達に
事情を話さなくてはならず、
それも気の毒な気がしたので、
もうちょっと居てみるか、と夜を迎えました。

意外にも、その夜も、翌日も
恐ろしいことはなにひとつ起きませんでした。

本腰を入れて滞在を楽しもうと
友達と一緒に買い出しに出かけ、
買って来た食材をひとまずキッチンに置いて、
私はトイレに行きました。

すると、友達が

「ダメだ、ダメだ、なし、なし」

と大声を出しながら
廊下をどすどすと
歩き回っている様子が聞こえました。

トイレを出ると、家の中が異臭に満ちていました。

何事かとキッチンに戻ると
買ってきた大量の食材の袋のすべてから
茶色いどろどろとしたものが滲み出て来ていました。
異臭は、腐り始めた食材の匂いでした。

動揺しながらもなんとか台所を片付け、
荷物をまとめて車に乗り込み、別荘を後にしました。

友達は、別荘から1時間ほど離れたドライブインで、
やっと、見たことを話してくれました。

私がトイレに行ったあと、
友達が食材をしまおうと冷蔵庫の扉を開いたら、
そこに、青黒い顔の髪の長い女の首が
入っていたそうです。

半開きの濁った白目がぬるりと剥かれ

「だって、」

と言ったそうです。

そこで彼は冷蔵庫の扉をものすごい勢いで閉め、
叫びながら荷物をまとめ始めたのでした。

別荘を借してくれた女性の友達には、
その話をしませんでした。

理由のひとつは、友達がその別荘を買って
まだ数年しか経っていなかったので、
嫌な思いをさせたくなかったのと、

もうひとつの理由は、一緒に行った友達が、
冷蔵庫の中の首の顔は変色して
年寄りのような顔だったが、
よくよく思い出してみると、それは、彼女の顔だった、
というからです。

(HA)

朗読版はこちら。
※音声の公開期間は終了しました。

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  • 友人の別荘 (ほぼ日の怪談2008 より)

  • 協力:アクセント(笹森亜希 小林かつのり)
    エンジニア:内田伸弥
2012-09-07-FRI