耳で聴くほぼ日の怪談・その5
「見知らぬ友人」
半年ほど前、
見知らぬメールアドレスから、メールが来ました。
何の変哲も無い、「アドレス変えました」の
お知らせメールです。
一年に数回、携帯に届くようなメールです。
私は何も考えず差出人を確かめました。
しかし、知らない女性の名前です。
おかしいな、と思いました。
私のアドレスは迷惑メール防止のため、
とても長い文字で登録しており、
知っているのは会社や友人、身内のみです。
ならばこの女性、仮にAさんとすると、
彼女はわたしの知り合いなのでしょう。
私は携帯の電話帳で、Aさんの名を検索しました。
出てきました。
なんて事はない、薄情な事に、
私はただAさんの名前を忘れていただけの事。
変更了承の返信メールを送り、
Aさんの事を思い出そうと考えをめぐらせました。
何も、出てきません。
いつ出会ったのか、どのような関係か、
顔すら思い出せないのです。
ぼんやりとしていると、また携帯が鳴りました。
メールは、Aさんからでした。
先ほどのアドレス変更時のメールにも感じた事ですが、
割と親しそうな内容でした。
しかし、私は、相手を思い出せません。
そこで私はAさんに
「ご無沙汰してます」という内容のメールを
送りました。
Aさんがそこで
何かのリアクションをしてくれたら、
思い出すきっかけになるかもしれないと思ったのです。
しかし、Aさんから返ってきた返事は
「一ヶ月ほど前に会った」でした。
手帳を取り出し、ページをめくります。
たいていの事は書いてあるはずの手帳にも
なにもない。
携帯の受信メールをチェックしても、同じ。
私はまだAさんの事を思い出せませんでした。
私はもういちど、Aさんにメールを送りました。
「ほかの皆さんと連絡取ってますか?」
2人きりで会った記憶がないのですから、
それはきっと大勢の中に
紛れてしまったのかもしれない。
卑怯ながらも、私はAさんに
「誰々と会った(または会っていない)」
という、第三者の名前を引き出させたかったのです。
それで思い出せる。
この薄ら寒いような感覚から、抜け出せる。
そう思ったのに、Aさんから返ってきた返事に
言葉を失いました。
「ほかの皆さん?」
実は、先日、わたしはAさんに会ってきました。
あれから時折交わすメールの内容から判断すると、
趣味で親しくしている友人の一人らしいのです。
でも、私は彼女の顔を、
いっさい記憶していませんでした。
趣味の話も、それにまつわる人間関係も。
話す内容に齟齬はないのに、
私から、彼女の存在だけが抜け落ちているのです。
私が記憶してないだけで、
彼女は本当に私の友人なのでしょうか?
それとも‥‥。
私はまだ、怖くて、
ほかの友人に確認が取れないでいるのです。
(YUU)









