耳で聴くほぼ日の怪談・その2

「音声メモ」

10年ほど前のことです。

当時私は地下鉄で通勤していたのですが、
ある日の朝、いつも降りる駅で
飛び込み自殺がありました。

私が事件のあったホームを通った時には、
飛び込んだ人はすでに運ばれていった後で、
ホームから地上へ出る階段には
乾いていない血の跡が点々と続いていました。

さらに地上の出口付近には、
べっとりと大量の血がついた担荷が残されていて、
背筋が寒くなりました。

私は歩きながら携帯を取り出し、
母に電話をかけ、
いつも通る駅で飛び込み自殺があったことを
伝えました。

「現場を見たの?」

「ううん、見てない」

「その人亡くなったの?」

「運ばれていった後だったから、わからん」

そんなやり取りのあと、
母に「気をつけなさいよ」と言われて
電話を切った覚えがあります。

午前中の仕事が終わり、
昼休みにごはんを食べにいこうと
ロッカーからバッグを出すと、
中で、携帯のランプがチカチカ光っていました。

画面には『音声メモ:1件』の表示。

音声メモは、ふだんはまず使わない機能なので、
何事かと思いながら
音声メモを再生しました。
そして耳に当てると、

「‥‥‥死んだ‥‥‥うん‥‥‥」

「死・ん・だ」

母のものでも、私のものでもない、
低い声の、
短いメッセージが録音されていました。

すぐにその音声メモを消去したのは
言うまでもありません。

それ以降、携帯にも異常はなく、
私や母の身にも何事も起こりませんでしたが、
かなり薄気味の悪い出来事でした。

自殺や殺人のあった現場で、
軽々しくその事について触れてはいけませんね。

以後、花が供えてあるような場所では、
気づいても口をつぐむようにしています。

(おっちぃの嫁)

朗読版はこちら。
※音声の公開期間は終了しました。

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  • 音声メモ (ほぼ日の怪談2010 より)

  • 協力:アクセント(笹森亜希 小林かつのり)
    エンジニア:内田伸弥
2012-09-07-FRI