怪・その42

「黒いモヤ」



何年も前の事です。
深夜に夫が飲み会から帰ってきました。

私は子供達と先に就寝しており
夫が私達の寝ている部屋のドアをそっと開けたので
目が覚めました。

小声で帰った事を知らせてくれて、
ひと言ふた言 会話をして、
夫はまたそっとドアを閉めて
自分の部屋に向かったようでした。

その後すぐ、寝室の床に
ポトッ、ポトッと水の落ちる音が。

こんな時間に漏水? どこから?
耳を澄ますと

ポトッ、ポトッ

暗い部屋で
水の落ちる場所は一ヶ所ではなく、
ベッドの周りをゆっくり移動するように
聞こえてきます。

私はベットから片方の腕を下ろして、
床に手のひらを滑らせるようにして確認しますが、
どこも濡れていません。

明かりを着けようと、
照明のスイッチがあるドアのすぐ横、
先ほど夫が立っていた辺りを見ると、
カーテンから洩れる月明かりの中に

人より大きめの黒いモヤのようなものが
佇んでいました。

何かいる。
水の音は黒いモヤの方からする。
モヤが移動している。

怖くなった私はすぐに布団を被りました。
水の音に怯えながら、
どのくらい時間が過ぎたのか、
気が付いた時はもう朝でした。

そんなことがあったと言うと
夫の顔色がサッと変わりました。

飲み会で二件目に行ったお店は、
久しぶりだったのですが、
以前とくらべ店内がすごく陰気で、
照明でも暗くしたのかな
という気さえしたそうです。

店長さんと話をしていると
何やらスタッフが
次々体調を崩して辞めてしまう。
店長さん本人も通院中だというのです。

お店の裏に大きな葬儀場が出来てから。

という話を聞いて、
自分はここにあまり長くいない方がいいと直感し、
帰ったというのです。

黒いモヤの話を聞いて、
もしかしたら何かを
自分が纏って帰ったのかもしれないと
すぐに思ったとのこと。

その日以降は特に何もありませんでしたが、
夫はそれからそのお店に行っていません。
(k)

こわいね!
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2022-08-31-WED