怪・その11

「駅までの帰り道」



数年前の職場からの帰り道の話です。
職場から駅までは、
まーっすぐな道でした。
職場の周りは工場や住宅地で、
夜になると暗く静かでした。

その間の道をまーっすぐひたすら進み、
ちょっと歩き疲れてきた頃に、
徐々に飲み屋さんなどの明かりが
ちらほらと増えてきます。
そして最後には駅前の、
小さな賑わいのある商店街へたどり着きます。

ある冬の夜のことでした。
残業で遅くなり、
同僚も帰った職場の戸締りをして出ました。

さて、まーっすぐの道だ、
といつもの帰路に差し掛かった途端。

肩が重くなりました。

明らかに、ずしっと、両肩が重い。
私以外に、誰もいない。

「疲れているからではない、寒いからではない」と
第六感がガンガンに訴えてきます。
私は幽霊もおばけも妖怪も妖精も
見たことがないですが、
この時ばかりは絶対に何かいるとわかりました。

ですが、
もし何かが私の背後にいたとして
『私がそれの存在に気がついていること』
に気がつかれたら何が起こるかわかりません。

明かりもほぼない道で、
振り返ることも声を上げることも出来ず、
両肩にまるで手をかけられているかのような
質量を感じながら、
静かに、進むしかありませんでした。

いつものまーっすぐの道が、いつもより遠く感じました。
怖さでスマホを見るような余裕がありませんでした。
足が遅い気がしました。
前をひたすら見て進み、
ただただ「早く駅に辿り着きたい」の一心で歩きました。

こわい、こわい、はやく、と
頭の中がいっぱいになりました。

ところがあっさりその怖さから解放されます。

まだまだ駅までは遠い、
いつもの歩き疲れ始めるポイントについた途端。
肩の重みが、スッと無くなりました。

「えっ? なんで急に?」
と困惑して横に目をやると、横道を一歩入った先に、
どデカい赤提灯にビッカビカの照明、
中からホカホカといい匂いの湯気が出ている
あったかそうな居酒屋さんが、
どんちゃん騒ぎで営業していました。

たぶん、たぶんですが。
「私、居酒屋までの
タクシー代わりに使われたんだ!!!!」
と直感でわかりました。

恐らくですが、
1人(1匹? 1体? 1個体?)では
移動ができない何かしらが、
どんちゃん騒ぎの居酒屋さんに行きたくて、
足代わりに私の肩に捕まったのだと思います。

そう気がついた途端に、
なんだか可愛いなと思ってしまいました。

楽しい気分になりたいよね、わかる。
と納得して、タクシー代わりにされたことも
許すことにしました。

関係ないかもしれませんが、
職場の真ん前は大きな総合病院でした。
ずっと行きたかったのかな、なんて考えると
良かったねという気持ちでいっぱいでした。
(S)

こわいね!
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2022-08-08-MON