怪・その53

「死んでも怖い」



私は若くして夫に先立たれた、未亡人です。

夫が亡くなった後、
一緒に暮らしていた一戸建て住宅を追われ、
私は賃貸マンションに引っ越しました。

ファミリー対応の50戸程の
そこそこ大きなマンションで、
エントランスには広い花壇があり、
その花壇の縁石の高さは50cmほどあって
腰掛けるのにはちょうど良い高さでした。
いつも誰かしらそこに座って
おしゃべりをしていました。

夫が亡くなってから
初めての夏がやって来ました。

夜に近い夕方、仕事から帰ると、
マンションの花壇に夫が座っていました。

「どうしたの?」

と声をかけると

「君が帰ってくるのを待っていたんだ。」

という返事が帰ってきました。

「へ?」

「だって‥‥、
勝手に入ったら、君が怒ると思って‥‥。」

「別に構わないよ。」

「ホント?」

と言って、すうっと夫は消えました。

その日は、早い方のお盆の初日。
急いで提灯とお迎えグッズを一式買い揃えてきて、
歓迎の印の迎え火も焚きました。

8月のお盆に合わせて
お寺の予約をしていましたが、フェイントです。

この時の出来事を周囲の人に伝えたところ、
返ってきた答えは、みな同じでした。

「死んでも、
怖いものは変わらず怖いものなんだな。」

と、みんな納得したように言うのです。
生前の夫は恐妻家で知られていました。

(k)

こわいね!
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2021-09-10-FRI