怪・その54

「部屋に戻って」



25年前、職場のアルバイトAさんが
東京で経験したお話です。

その頃、沖縄に移住するための資金を貯めるため、
四畳半風呂無し共同トイレ、
木造建の安アパートのニ階で暮らし始めたそうです。

居酒屋で働いていたため出勤は夕方、
帰りは深夜になるので、
隣近所とはほとんど顔を合わすことがなく、
どんな人が住んでいるのかもわからない。

部屋は壁も薄く、
階段を登ってすぐの部屋だったので、
ドアの前を人が通るたびに
廊下が「ギシギシ」と音がするような
古いアパートだったそうです。

暮らしはじめてすぐのある夜、
布団に入りしばらくすると、
隣の部屋の窓が開く音が聞こえました。

時は11月、
窓を開けると冷気が入り、寒くなります。

突然、「ドスッ」と窓の下あたりに
何かが落ちる音がしました。

ビックリして窓の下を確認したのですが
何も落ちていない。

ちょっと怖くなったので、
布団を頭からかぶり眠り直そうとすると
階段の方から引きずるような音と一緒に
「ギシギシ」
と何かが階段を上がってきます。

その音はAさんの部屋の前を、
這いずるように
「ずりっ、ずりっ」
という音を立てながら通り過ぎ、
隣の部屋へ入っていきます。

その後、薄い壁の向こうから
今度はか細いお婆さんの声で
「イタイ、イタイ、うぅ、うぅ」
と苦しそうな声が聞こえ始めました、

暫くして声はやみ、静かになったそうです。

Aさんはとても怖くなったそうです。
というのも、隣には誰も住んでいないと、
大家さんから聞いていたのです。

すぐにでも引っ越したい、
と思ったのですが、経済的には引っ越せない、
その後もこの現象は毎晩のように続くので、
たまらず大家さんに
隣の部屋で何があったのかを聞きました。

じつは、Aさんが越してくる前に
隣の部屋には
一人暮らしのお婆さんが住んでいたそうです。

生活が苦しかったのか、
その部屋の窓から飛び降り自殺を図ったのですが
高さが足りなかったのか死ぬまでにはいたらず、
その体で自分の部屋まで這いずりながら戻り、
その部屋で息絶えた、という話でした。

さすがにその話を聞いた後には
しばらく友人の家に転がり込んだそうです。

本人から聞いた、本当の話です。

(ブラックバード)

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2021-09-10-FRI