怪・その40

「いつもの予約の声」



友人の、ちょっと不思議な話です。

航空券といえば、まだネット予約は無く、
窓口か電話予約が一般的だった頃の話です。

友人は東京で、
国内便の航空券予約受付の
電話オペレーターをしていました。

出張や帰省等、よく利用されているかたの声は
最初のやりとりだけでも、
誰だかわかるようになったそうです。

中でも常連客の男性Aさんはビジネスマンで、
関西出張の多いかたでした。

ある時、Aさんからまたいつものように、
予約依頼の電話がありました。

友人はいつものように、
Aさんのお好みの位置の座席を取り、
予約内容確認をし、
「それではA様、
お気を付けていってらっしゃいませ」
といつものように言って切ったそうです。

急なご予約以外は、出発便の前
(たしか出発2日前か前日)に、
確認のご連絡の電話を、
オペレーターからかけるという決まりでした。

Aさんの場合は出張だったので、
Aさんの職場にかけたところ、
電話に出た相手の様子がなんだかおかしい‥‥。

とても言いにくそうに、

「あの‥‥、Aは先日亡くなりました」。

驚いて声も出ない友人に、
Aさんの職場の人が言うには、こうでした。

たしかにAさんは大事な案件があり、
出張予定だったが、その関西出張に行く前に、
心筋梗塞で急逝したと。

日時を訊くと、
友人が予約依頼を受けた時点では、
もうとっくに亡くなっていたことになる‥‥。

でもわたしはたしかに
Aさんからの電話を受けたし、
いつものようにしゃべったのに‥‥、

友人は戸惑いつつも、
事の顛末を上司に報告しに行きました。

すると上司は驚きもせず、
「たまにあることだから」と、
粛々とキャンセル処理を指示したのだそうです。

Aさんは余程その仕事が気がかりで、
行かなければ!
という気持ちが強かったのでしょう。

「でも、あの少し急いでるような話し方も、
声の大きさも、
本当にいつものAさんと全く同じだったの‥‥」

と話す友人の言葉が印象的でした。

(S)

こわいね!
Fearbookのランキングを見る
2021-09-01-WED