怪・その41

「深夜の墓参り」



私達夫婦は、新婚時代、
京都市内の西の山際に住んでいました。
自宅近くを通る急なアスファルトの坂道は、
下れば15分で最寄り駅、
上れば1分で車の入れない山道に通じており、
山道の両脇は、竹藪の中に墓石が点在する
古い墓地でした。

住み始めて初めての夏、
坂道にこんな看板が立ちました。

『お盆期間の8月◯日〜◯日の墓参は
混雑防止の為、
お車は駅前パーキング等に駐車し、
徒歩にてお参りください』

普段人気のない静かな坂道も、
お盆は上のお墓にお参りする人々で、
賑わうことがあるのだなと思っていましたが、
いざ、8月◯日〜◯日が来ても、
坂道はひっそりと静かなままでした。

次の年も、その次の年も、看板は立ちましたが、
やはり坂道はいつもと変わりませんでした。

やがて、看板が立っても注意を払わなくなった頃、
私は仕事で遅くなり、終電もおわり、
大阪の会社からタクシーで京都まで帰りました。

車が自宅近くの件の坂道を上り始めると、
ヘッドライトに
大人の女性と小学校低学年ぐらいの男の子の後ろ姿が
浮かび上がりました。

徐行する車窓から追い越し様に見ると
親子らしき二人は、
上が白、下が黒の法事装束で、
母親はバケツ、子どもはスーパーの袋を持って
坂道を歩いていました。

同時にあの看板も目に入りました。
「8月◯日‥‥今日‥‥えっ、お墓参り?!」
近所の坂道で見る、初めての墓参の人でした。

でも、時刻は深夜の二時少し前です。

すると、運転手さんが泣き笑いのような声で、

「こんな夜中に墓参り?
京都、変わってますなぁ。
アハ‥‥あの人達‥‥人間ですよねぇ?」

後部座席から乗り出して前方を見ると、
ヘッドライトを反射して、
沢山の白い背中が、
街灯の少ない薄暗い坂道から、
真っ暗な山道に向かって点々と続いていました。

帰宅してすぐ、
今見た事を夫に話しましたが、
常日頃、助手席に乗ると秒で爆睡の私。

「イヤイヤ、
居眠りしとって夢見たんやて」

と、まったく信じてくれません。

悔しかったので、後日、
長年坂道沿いに住む奥さんにその話をすると、

「せやで、私も理由知らんけど、
上のお墓、夜中にお参りするんえ。
お盆の間、人が仰山喋りながら坂道通らはるし、
寝不足なるえ」

と教えてくれました。

「で、お墓参りしてるの、人間ですよねぇ?」

と冗談のつもりで聞くと、奥さんは複雑な顔で、

「声聞いたかて‥‥窓開けて見たことあらへんわ」

(コトンコ)

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2021-09-01-WED