怪・その35

「何度も夢に」



物心ついた頃から、数年間隔の不定期で
見知らぬ男の人が夢に出てきます。

その人は、痩せ型の長身、短髪、面長で
40歳代くらいの男性。
服装は薄汚れた半袖シャツに作業ズボン。
いつも物悲しげで、
突然私の家の中に現れるのです。
(夢の中でです。)

その男の人が現れる前触れは、
決まって就寝中、
急に動悸・震え・とてつもない恐怖に襲われ、
嫌な感じのゾクゾクが止まらなくなります。

何度も経験するうちに
「あ、またあの人が来る」
と分かるようになりました。

現れても特に何をするわけでもなく、
家の中をウロウロと歩いて回っています。
まるで何かを探しているかのように‥‥。

夢に出てくるようになってから
30年以上経ちますが
その人の容姿は歳をとることもなく、
ずっと変わらないまま。
一方、こちらは毎回、
知らない人が突然
自分の家に入り込んで居る恐怖で
何も話しかけることが出来ず、
見つからないように逃げて逃げて‥‥
目を覚ます‥‥ということを
長年に渡って繰り返していました。

数年前、その男の人がまた夢に出てきました。
そして、ついに勇気を振り絞って
話しかけることにしたのです。

まずは、どうして人の家に入り込むのか?
うちの父に見つかれば
大騒ぎになって警察沙汰になる。
どうか黙って入り込むのをやめてくれないか、
と、伝えると、その人は

「あなたにしか見えないから大丈夫」

とぼそっと言うのです。

次に、あなたは一体誰なのか?
なぜここに来るのか?
と聞いてみると、
答え辛そうに小さな声で一言

「‥‥を待っている」、と。

え? 誰を待っているの?
そもそもあなたは何歳? 何年生まれ?
と、さらに問い詰めました。

「明治44年、あなたと同じくらいの歳だ」

と答えてくれました。

誰を待っているのか知らないけれど、
きっとあなたが待っている人は
この世には居ないと思う‥‥、
と、伝えたのと同時に目が覚めました。

その後、
「明治44年生まれで40代で亡くなった男の人」
が親族に居ないかを調べましたが
親に聞いても、親戚に聞いても、
墓誌を調べても、該当する人は居ませんでした。

一体あの人は誰だったのでしょう‥‥。
未だに分かりませんが、
あの会話の後、パッタリと現れなくなりました。

長いこと誰かを待ち続けていたのでしょうか。
約束の待ち合わせの場所が
たまたま我が家と同じ場所だったのかもしれません。

彼が40代で亡くなったとすれば、
その頃の我が家の場所は、
海に近い田舎の駅前でした。

このまま、この先も現れずに、
成仏してくれていたら良いな‥‥と願っています。

(h)

こわいね!
Fearbookのランキングを見る
2021-08-27-FRI