怪・その25

「窓ガラスの中に」



私が小学生の時に体験した出来事です。

休み時間に友達と校庭で遊んでいた私は、
その途中転んで怪我をしてしまいました。
その手当をしてもらうため、
私は一人で保健室に行きました。

あいにく先生は不在だったため、
戻ってくるまで待つことにしました。

ソファーに座って休んでいましたが、
なかなか先生は戻ってきません。

このままでは休み時間も終わってしまうので、
絆創膏だけでも貰っていこうと立ち上がりました。

その時、ふと窓の方に目がいきました。
窓ガラスの中には、
こちらを向いて立っている
自分の姿がありました。

それをちらりと見て、
絆創膏を探すために
薬品棚の方に視線を移しました。

しかし、何か違和感を覚え、
再び窓の方に目を向けました。

先ほどと同じように
こちらを向いて立っている私。

そのすぐ傍らに
同じ年頃の男の子が
うつむき加減で立っていました。

黄色い通学帽を目深にかぶり、
白色の体操服を着て、
背中には黒いランドセルを背負っていました。

この部屋には
私以外誰もいなかったはずなのに‥‥。

不思議に思った私は後ろを振り返りました。

そこには誰もいませんでした。

びっくりしてまた窓の方に目を向けると、

男の子の姿は変わらずそこにありました。

ガラス越しにしか
見ることができない男の子、
怖いというよりは不思議な気持ちでした。

年も近そうだしどこのクラスの子だろう、
顔をよく見ようとガラスに一歩近づきました。

するとその子の顔がおかしいのです。

輪郭はあるのですが、
その中にあるもの‥‥目、鼻、口が無いのです。

ぼんやりとしているというか、
歪んでいるというか、
とにかく目を凝らしてみてもよく分かりません。

顔が分からないなら
体操服についている名札を見ようと、
視線を下に落としていくと‥‥無かったのです、
男の子の胸から下が。

空気に溶け込むようにぼんやり消えて、
上半身だけでそこに存在していたのです。

ようやく私は、この男の子が
生きているモノではないということに
気づきました。

それを認識したとたん、
背中に冷たいものが流れるような感覚を覚え、
とてつもない恐怖に襲われました。

そして動けずにいる私に向かって、
彼はゆっくりと手を伸ばしてきたのです。

傷の手当ても忘れ、保健室を飛び出しました。
とても後ろを振り返る勇気はありませんでした。


この体験は大人になった今でも忘れられず、
ガラスに映った自分を見ると
ふと思い出すことがあります。

(なお)

こわいね!
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2021-08-20-FRI