怪・その43
「墓地へ向かう人びと」
私が子どもの頃通った幼稚園は、
仏教系でした。
お寺に併設された立派な園舎で
ホールの壇上にある扉の中には、
立派で煌びやかな像があり、
歌をうたいながらお祈りする習慣もありました。
ホールの裏手には墓地が広がっており、
その中をお友達と駆け回って遊んだような、
そんな記憶もあります。
(本当はいけないように言われていたのに
入っていたのかも知れません。)
卒園した私は、
卒園児が入部できる鼓笛隊に入り、
練習は、園のホールを使っていました。
多分、
小学校1、2年の頃だったと思います。
練習の時間はいつも
夕方からだった記憶があるので
まだ日も高いうちの事。
父親の用事で仕方無く、
開始時間よりかなり早めに
車で送ってもらった私は、
閉じたホールの入り口でただ一人、
みんなが来るのを待つしかなく、
入口前のベンチに座り、
何もできずボーッとしていました。
人気のない静寂な園内。
そのうち突然、騒がしくなりました。
園の門側から、
沢山の人達がこちらに向かって
ぞろぞろとやってきたのです。
砂利が敷かれた通路なので、
ザ、ザ、と踏みしめる音がします。
気づいたら自分の目の前を
ぞろぞろと、通り過ぎていきます。
全員、裏手の墓地の方向に向かって。
昼間ですから、
一人一人はっきりと見えているのですが、
なぜだか違和感を感じずにはいられません。
おじさんおばさん、お年寄り、
かと思うとベビーカーを押した若いお母さん、
自分と同じくらいの子ども‥‥、
ざっと30人くらいだったと思いますが、
服装も皆、あまりにも普段着で、
何かのセレモニー的な恰好や
雰囲気は全く無く、
そして余りにも何の繋がりもなく感じる人達が、
ただ、
ホール裏手の墓地の方に向かって、
流れるように歩いていくのです。
普通に見えているはずなのに、
その時の私には、
この人達が、
この世のものではないような気がしてなりません。
それぞれのお墓に戻っていくような、
そんな雰囲気を感じてしまいました。
そして気づくと、誰もいなくなり、
また静寂が訪れました。
わたしは墓地の方に確認に行く勇気は持てず、
そのままベンチで
「早くみんな、来ないかな‥‥」と
かなり不安だった、
という思い出があります。
あの時私は、
なぜそんな風に感じたのでしょうか。
(akko)