怪・その42

「個室棟の夜」

私は看護師をしています。

看護学校を卒業して1年目に配属された病棟は、
重症患者さん用(別名個室棟)と
抗癌剤などの定期治療の患者さん用(別名大部屋棟)で、
ナースステーションを境に、
二つに分かれている病棟でした。

重症患者さん用の方は満室になることはあまりなく、
患者さんの人数は少なかったですが、
自力で姿勢を変えることができない方が多く、
2、3時間毎に床ずれ予防のために
体の向きを変えるというケアが必要でした。

夜勤をやるようになってから、
個室棟の方に行くと
背後に人の気配がするようになりました。

夜勤は3人でやるのですが、
消灯後からは、
1人が1つの棟にいる時は
もう1人は別の棟、
もう1人はナースステーション、
もしくは全員ナースステーションに
必ず居るようにしていました。

2人が1つの棟に別々で入ることは
緊急時に備えて、ほぼ有り得ませんでした。

ある患者さんの部屋で、
患者さんの体の向きを変えているときに、
廊下を棟の奥の方へ
誰かが歩いていく気配が頻繁にありました。

けれど、廊下は一方通行ですし、
この方の部屋は奥から2番目。
1番奥の部屋は、
そのとき誰も入院していませんでした。

そもそも個室棟にいるのは
重症患者さんなので、
自力で歩くなんてことは有り得ません。

そんなことが頻回にあり、
夜勤のときは、そっちの棟に行くのが嫌でした。

ケアを雑にする訳ではありませんが、
早く終わらせようということばかり
考えていました。

夏頃に、先輩にその話をすると
「重症の方が多いから、
そっちのほうが、亡くなるからねぇ」
と返されました。

病院で怖い話は付き物か、
と変に納得しようとしていたところもありました。

けれど、
夏の終わり頃の夜勤の時のことでした。

個室棟の方のある部屋から
ナースコールがありました。

しかし、
その部屋は患者さんはいませんでした。

防犯上、空き部屋は
施錠しておくきまりなので、
部屋を間違えた患者さんが入るということも
ないはずでした。

先輩に

「見に行った方がいいですか?」

と聞いたら、先輩は

「行かなくていい。」

と答えました。

理由を尋ねると先輩は

「この部屋のナースコールで
首を吊って亡くなった人がいる」

と教えてくれました。

それでも、
ナースコールがあった以上、
何かあったら大変なので
3人で見に行きました。

結局何もありませんでした。

その後も時折、
誰かが通る気配や、
廊下を歩いている時に
後ろから見られている気配は続きました。

さらに、
ナースコールのあった部屋に入院した
高齢の男性患者さんが

「白い人がいる」
「怖いから1人にしないでくれ」
「行かないでくれ」

と大騒ぎをし、
部屋を変えるということもありました。

家についてこないで欲しい、
それだけを考えながら夜勤をしていました。

4年間勤務したあと、
部署異動で別病棟の別の診療科に
異動になったので、
その後のことはわかりません。

病院とホラーはセットですが、
結局は忙しくて
お化けどころではないので、
こんな事があっても看護師を続けています。

(二)

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2020-09-01-TUE