怪・その40

「古い倉庫のトイレ」

その日私は、友人と二人、
Y市でショッピングを楽しんでいました。

夜はそこでそのまま
ゴハンを食べて帰ろう!
ということになったので、
友人が、「少し歩くけど、美味しいよ!」という
お店に行くことにしました。

そのお店は、
海の近くにある古い倉庫を改築した
観光スポットの中にありました。

その倉庫は異国情緒たっぷりの素敵な雰囲気で
有名かつ人気の場所です。
レストランはお料理も美味しく、
久しぶりに会う私たちは話が弾んで、
気がつくと22時30分過ぎ。
店員さんのラストオーダーの声かけをきっかけに、
そろそろ帰ろうか、となりました。

お会計を済ませてレストランを出ると、
友人が
「ゴメン、お腹痛いからちょっとトイレ寄って良い?」
と言います。

私もちょうど行きたかったから‥‥と、
一緒に寄ることにしました。

しかし
「先に行ってきて」
と友人が言うので

「ああ、お腹痛いから、
焦らずゆっくり入りたいんだな」

と思った私は、お先に‥‥と
一人でトイレに向かいました。

商業施設のトイレにしては珍しい、
重い鉄の扉を押してトイレ内に入ると、
中には誰もいませんでした。

さほど広くもないトイレ内は
「え? こんなに暗いの?」
と思うほど暗く、
赤っぽい間接照明がついていました。

扉もそうでしたが、壁も、
建てられた当時のものを再利用しているのか、
ゴツゴツした粗削りな感じで、
雰囲気があるというより
「何だか怖い‥‥」と思いました。

そのうえ、鉄の扉が閉まると、
中は完全に無音の閉鎖空間なのです。

何とも言えない嫌な感じがして
回れ右をしたくなりましたが、
引き返しては友人を驚かせてしまう!
とにかく済ませて早いとこ出よう!
と、3つある個室のうち、
壁側のひとつに入りました。

すると何故か、

どうにも上が気になります。

個室のドアの上から、

何かが覗いているイメージが

頭の中に浮かび上がってくるのです。

それが、子供‥‥に思えました。

絶対に上を見ないようにし、
慌てて用を済ませて個室を飛び出し、
洗面台で手を洗いました。

すると、今度は、
後ろの隅の方から気配がするのです。

思いきって顔を上げて鏡を見ました。

が、暗い室内が映るだけです。

でもとにかく恐ろしいんです。

目には見えないけど、絶対何かがいる、
それも一人ではなく‥‥。
冷や汗が出て、鳥肌が立ちました。

走って逃げ出したい! と思いつつ、
怖いとか言ったら
友人がゆっくり入れなくなると思い、
あえて奇妙なほどの明るい声を作って
「お待たせ。ゴメンね〜!」と扉を開け、
外へ出ました。

驚いたのは、その後でした。

交代で入って行った友人が、
ものの30秒ほどで飛び出して来て、

「Mちゃん!(私です)
このトイレ怖くない!?」

と言うのです。

このトイレ絶対ムリ!!
駅のトイレまでガンバル!
と言う友人と二人、寒空の下、
全速早歩きで倉庫を後にしました。

帰宅後、父親にこの話をすると、

「あそこは大震災も戦災もくぐり抜けてきた
建物だからなぁ‥‥。
いろんな人間の念みたいなものが
留まっていると思うよ。」

それきりその場所へは行ってませんが、
数年後、友人に訊くと、
そのトイレはもうなくなったよと言ってました。
明るい新しいトイレになったそうです。

(めみたん)

こわいね!
Fearbookのランキングを見る
2020-09-01-TUE