怪・その33
「仲間の輪に」
20年前、
学生寮に住んでいた夏に起きたできごとです。
深夜1時過ぎ、
部屋の暑さに耐えきれず、
廊下に出て涼んでいたところ、
同じ階の友人も
寝つけないと起きてきたので、
階段近くで井戸端会議を始めました。
深夜のため、
話し声を小さくしていたものの、
やはり響いていたようで、
起きてきた他の友人も加わり始め、
気付けば7人くらいで楽しく話をしていました。
ふと廊下に目を向けると、
一番端っこの部屋にいる友人・ミキが
部屋から出てきたのが見えたので、
トイレに起きてきたのかなと思い、
一緒におしゃべりしよう、
と、声をかけようとした時でした。
隣にいた友人が
突然グッと、
私の腕をつかんで、
「話しかけちゃダメ。
あれはミキじゃない。
っていうか、人じゃない。」
と言うのです。
続けて、
「こっち見てるけど、
気付かないフリだよ」
と。
ちらっと目を向けると、
近付きたそうに
ずっとこちらを見ています。
彼女を見ないようにすればするほど、
こちらの輪の中に入りたそうな
圧を感じてしまい、
恐怖から話しかけそうになりましたが、
友人に言われた通り、
目を合わさないで、
気付かないフリをして、
彼女がその場を去るのを待ちました。
しばらくしてトイレ方面へ歩いていき、
また戻ってきて
こちらを伺っていたようでしたが、
あきらめたのか、
廊下の突き当りのほうへ
消えていきました。
その晩、みんなが眠れなかったのは
言うまでもありません‥‥。
念のため、次の日にミキに
「昨日夜中に
トイレに起きてきていないよね?」
と確認したら、
朝まで熟睡していたから
部屋から出ていない、との返答。
やっぱり人じゃなかったんだ‥‥、
と再認識し、怖くなりましたが、
一方で、
楽しそうに話していた仲間の輪の中に
入りたかったのかなと、
ちょっとかわいそうだったかな
とも思いました。
後日分かったことですが、
何年か前に寮で亡くなった学生がいたようで、
通りすがりの彼女は、
その子だったんじゃないか
という話になりました。
人も幽霊も、みんな
楽しそうな場所に集まりたいんだな、
と感じたできごとでした。
(x)
