怪・その35
「知っている足音」


以前勤めていた会社で聞いた話です。

会社は4階建ての小ぢんまりした自社ビル、
すぐ裏手には社長の自宅がありました。

会社の4階は食堂になっており、
その食堂の奥にある6畳の畳敷きの部屋は、
当時事務員として働いていた
社長の叔母にあたる方が
自分の部屋として暮らしていました。

ある日の夜中3時頃に、
社長の自宅にも繋がっている会社の内線電話が鳴り、
「こんな時間に何事だ」と内線の番号を見ると
4階にいる叔母さんからです。

出ると、叔母さんが切羽詰まったような声で、

「早く、早く来て!」と言うのです。

「どうしたの、何かあったの!?」と聞くと、

「Y部長が階段を上がってくる!」と
今にも泣きだしそうです。

社長は一瞬、
「叔母さん、寝ぼけてるんだな」と思ったそうです。

何しろY部長は
その年の夏に脳溢血で亡くなっていたからです。

電話口からは
悲鳴ともつかないような
叔母さんの細い怯えた声が続いたかと思うと、
「は、早く、鍵を取り付けに来て!」
と叫ぶのです。

そのあまりの尋常でなさに、
社長は奥さんと一緒に隣の会社の4階に走りました。

会社内では、
室内履きに履き替えることになっていました。

昼間でも階段を上り下りする時は
それぞれが履いているスリッパの足音が
パタパタと鳴り響くのですが、

10人いた社員それぞれに足音の特徴があり、
日ごろその叔母さんは、
事務仕事をして、下を向いていても、
誰が階段にいるのかがすぐにわかる、と
言っていたそうです。

そして、
その日の夜中、
他に音のない会社の階段に、
ペッタン、と音が響き、
Y部長の特徴のあるスリッパを履いた足音が、
ペッタン、ペッタンと上へあがってきた、と言うのです。

その後、叔母さんの部屋には
鍵が取り付けられ、
それきりY部長の足音はしなくなったそうです。

(nucchi)
この話、こわかった! ほかのひとにも読ませたい。
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2011-08-26-FRI