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おんなのホテル道。 その12




ノリスケ ここでね、勘違いしていただいては
困るんですけど、あくまでもこちらの
リクエスト通りではないことに対して、
悲しんでるのよね。
よくね、ゴネれば、
アップグレードするんだよとか。
つねさん クレーマーじゃないわけよね。
ノリスケ 分不相応な高望みをしたいわけじゃない。
期待どおりであってほしいだけ。
ましてや怒りや不機嫌みたいな
マイナスの武器を
さも正当であるかのように
使うみたいなことは、
ほんとに嫌なんですっ。
ジョージ うん、そう。
ノリスケ 格安エコノミー航空券を
ビジネスにアップグレードするには
とにかくカウンターでゴネろ、とか。
つねさん はいはいはい。
ノリスケ カードの年会費を無料にするには
カスタマーサポートにこう言えとか、
そういうマニュアル的なことが
耳に入ってくるんだけれど‥‥
あれは嫌。
ジョージ あれはよくないね。
「期待通りであること」が大切であって、
期待以上を狙うと絶対に
期待以上にはならないのね。
ノリスケ そう。で、ジョージさんも、
期待通りでないことについて
言っているんだけど。
ジョージ 人間、怒っちゃダメ。
悲しまないとダメ。
ノリスケ 怒ってたくせに(笑)。
ジョージ だってボクは悲しさが
怒りになるんだもん。
つねさん ああ。
ノリスケ ああ。
ジョージ だってボクは、何であれだけ一生懸命、
予約のときに、キングサイズねって
念を押したのに、なぜ? って。
何であなたたちは嘘をつくの?
私ってそんな悪いことをしました?
って悲しみの表現をするつもりが、
「クイーン」だなんて言われたら
もうほんっとに。
つねさん そりゃ怒るわなあ。
ジョージ そう。でもあの時のスイート、
すごいよかった。
つねさん ははは。
ノリスケ ははは。
ジョージ そのホテル素敵だったよ。
ロサンジェルスのベルエアだったけど、
用意してくれたスイートが、
パビリオンっていうか離れになってる
一戸建てのスイートで、
うわ、素敵って言ったら、
でしょ? エリザベス・テーラーが
よく泊まってた部屋だからって。
うわ、すごいーとか言ってたら、
そのステイの間ボクずっと
リズだったから。愛称が。
つねさん リズ。わははは。
たしかに「クイーンですから」って
目配せするスタッフのいるホテル。
ノリスケ そうね。最後までプリプリと険悪でいたら
ホテルとしても困っちゃうもんねえ。
ジョージ ホテルにしてみれば
いい部屋は使ってほしいの。
ノリスケ サービスのコストはそんなに
変わらないだろうしね。
ジョージ そう。
でも、ほんとに、ああ、
最近ささくれだってないなあ。
ノリスケ いいことよ。
つねさん ふふふふ。
ジョージ 今ささくれだったら
大変なことが起こるんだろうな。
つねさん そうだよ。いろいろね。
ジョージ 上を下へのてんやわんやのお騒ぎってやつ?
つねさん そうねえ。
ジョージ 昔はね、手紙をよく書いた。
つねさん あ、そう。いろんな人に?
ノリスケ お礼の?
ジョージ お礼の手紙も書いた。
だけど、期待通りじゃなかった時にも
よく書いた。それももうほんっと
イライラするわけよ。
こんなはずじゃなかった、
こんな部屋じゃなかったとか。
サービスが思った通りじゃ
なかったとかって思うと、
後々チェックアウトするまで
その気持ちを持っとくと嫌じゃん。
ノリスケ うん。じゃ、お部屋で書いて?
ジョージ うん。もう、その場で書くの。
つねさん で、部屋に置いとくんだ。
ジョージ うん。引き出し開ければ
たいてい便せんか絵はがきあるでしょう?
まあ、小さい怒りだったら
絵はがき分で済むのよ。
小っちゃーい文字になるけど。
ノリスケ いっぱい書くのね‥‥。
ジョージ で、絵はがき分で済まない時には
便せんに書くのね。
こうこうこうだと思っていたんだけど、
こうでああでこうなって、
どうとかこうとかで。
で、本来こういうふうに
していただけるものと思っていたんだけども、
非常に悲しかったと。
あなたたちというのはこんな程度の
サービスしかできない人たちではないと思う。
私はこのホテルを好きになりに来たのに、
何故好きにさせてくれないのかということが
悲しくて悔しくて、今日はもしかしたら
眠れないかもしれませんっていうのを
部屋に置いたり、晩飯食いに出る時に
ペローンってロビーに立ってるのに
ピュッと渡して、よろしくね、
みたいな感じで。
で、晩ご飯食べてるとすごいよ。
やってくるの。人が。
ノリスケ Gのつく人が(笑)。
ジョージ そう。
「ジョージ様、
 申し訳ございませんでした」
「でしょう? ちょっと寂しかったの、
 今日は」
つねさん もうそれ、めちゃくちゃ
ささくれてるんじゃん(笑)。
ノリスケ それ、どこの国の話? まさか日本?
ジョージ アメリカ。
つねさん アメリカだよ、絶対。
ノリスケ そうだよね。
ジョージ 日本だとそこまでしないよ。
アメリカだからそこまでするのよ。
そうするともうお部屋は変わらないけど、
まあ、1回だけ変わったことあるけど、
シャンパンが中に入っていたり、
翌日飛行場まで行く車が、
中で卓球ができそうな車が
やってきたりとか。でもそういう時に限って、
ちょっと賢い旅行で
エコノミークラスだったりすると、
すんごい恥ずかしかったりするのよね。
つねさん ふーん。
ジョージ 昔、例えばユナイテッドに乗って、
ファーストクラスでチェックインすると
車を降りる場所も違っていれば、
チェックインのカウンターも違い。
ノリスケ カウンターは違うねえ。
ジョージ しかもイミグレーションも
違っていたりとかしたのね。
ふたり そうなんだ!
ジョージ うん。で、今そういうのが残ってるのが
シンガポールのチャンギ空港で、
シンガポールエアラインの
ファーストクラスに乗ると、
ほんとに全然違うんだよ。
でね、昔、アメリカでね、
送迎車がすごかった時、
車は当然、一番手前の、
ファーストクラス用の車寄せに
停まるわけ。
ノリスケ うん。
ジョージ その先にビジネスクラスがあって、
ずーっと向こうに
エコノミークラスがあるんだよね。
なのにファーストのところで
停められてしまって、先に停めてほしいのに
降りないといけないじゃん。
で、降りてしまうとそこに人が立っていて。
つねさん あ、中に連れて行かれるんだ。
ジョージ そう。中に連れて行かれそうになるんで、
それをけん制しながら、
車が動くまでニコニコしながら待って。
つねさん で、ガラガラガラガラー。
ジョージ 持ってる荷物を引ったくるようにつかんで、
ごめんなさいって言って、
テクテクテクテク向こうまで歩いた。
ノリスケ あははは。悲しいー(笑)。
ジョージ すっごい悲しかった。
すーっごい悲しかった‥‥。


2007-01-31-WED

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