ゼロからはじめるジャーナリズム オランダ人ジャーナリスト、ヨリス・ライエンダイクさんと。
ヨリス・ライエンダイクさん――という人を ご存知の方、どのくらいいらっしゃるのでしょうか。 実は、わたしたちも、お会いする少し前まで、 ヨリスさんを知りませんでした。 ヨリスさんは、世界で活躍するジャーナリストで、 出身のオランダでは、とっても有名な方なんです。 「日本とオランダは昔から縁があるからね」 なんて、談笑も交えながら糸井と話していると、 情報の伝え方やあり方に対して感じていること、 考えていること、気をつけていることが とても似ているとわかり、 お互いが、「そうだよね、そうだよね。」と うなずき合う対談となりました。
 
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スーパーマンになろうとしてない。 今日の更新
 

第4回 スーパーマンになろうとしてない。

ヨリス 例えば今だと原子力のことを一生懸命ネットで見ても、
混乱するばかりで、なにもわからないんですよね。
ここにもし誰か1人、
「ゼロから自分はここを調べて
 勉強しようと思います」と言って、
その過程を全部ネット上で見せてくれたら、
これは本当に今、資産になるのかなと思います。
私が今イギリスでやってる金融ブログも
たぶん、日本での原子力に対する姿勢と
ちょっと雰囲気が似ていて‥‥。
糸井 ああー。
ヨリス 「お金は安全だと、
 信用してくれと言ってたじゃないか。
 あなた方がこの安心なはずの
 金融システムをぶち壊しにした」という、
ものすごい怒りが‥‥。
糸井 似てるわ、確かに。
ヨリス で、そこで怒っちゃうと、
学べなくなっちゃうんですよね。
糸井 そして、怒られたら、
立場を固くするしかないんですよね。
ヨリス そうです、そうです。
例えば、軍の人に取材すると、
「いや、軍としてはこうです」
って話しか出てこないんです。
でも、軍を辞めた人に話を聞くと、
「いや、あなたの言うことも一理あります」
と、話が変わるんですよね。
糸井 はいはいはい。
ヨリス 議論がまるで戦いみたいになっちゃう。
糸井 スキを見せるとつけ込まれて、
自分が倒されるというふうにも。
ヨリス そうですね。
そうなると、なにも学べない。
糸井 あのう、本当は誰でもフェアプレイが好きなんです。
フェアプレイが好きで、
相手を尊重したいと思いながら議論をするってことは、
誰でもできるはずだと思うんですけどね。
ヨリス 今、ここで、私と糸井さんがやってるのも、
要はどういう対話をしたいかという
やり取りができてるんですよね。
糸井 そうですね。
ヨリス で、相手に問い詰めるような感じがまったくない。
これがいいんですよね。
糸井 うん、ぼくはこういう一生を送りたいです(笑)。
ヨリス 私もです(笑)。
糸井 ヨリスさんは、今イギリスの日刊紙で
金融の話を連載されているそうですが、
それはどのくらい続ける予定なんですか。
ヨリス 2年ぐらいやりたいなと思ってます。
まず2年間、私がゼロからはじめてみて、
「金融のことなら、ある程度は語れます」と
言えるぐらいまでになったら、
人を10人集めて、それぞれの人に
1テーマずつやってもらいたいなと思ってるんです。
原子力のテーマを追いかける人、
砂漠化を追いかける人、
温暖化を追いかける人。
それができたらいいなと思っています。
糸井 いいですねぇ。
実現すると思いますよ。
今から1人でやろうと思ってるんじゃなくて、
もうすでに10人と言ってるところが実現性を感じる。
スーパーマンになろうとしてないじゃないですか。
だから、ノウハウを渡せるし、育てられるし。
ヨリス そうなんです。
ありがとうございます。
糸井 ゼロからなにかをはじめるときほど、
そういうふうに、ひとつひとつを
現実的にとらえていくことが大切なんですよね。
ぼくは、2011年の3月に
ゼロから1を作り出すワークショップというのをやったんです。
そのとき、とても似たことを考えていました。
そのワークショップでは、
たまたま前後に座った1人と1人をセットにして、
お互いを取材し合うっていうことをしたんですね。
ヨリス なるほど。
糸井 取材するという立場もなったことないし、
取材されるって立場もなったことないし、
両方初めてのことを交互にやってって。
で、みんなに1時間か2時間ぐらい、
どこに行ってもいいから話してきなさいと。
で、帰ってきたあと、みんなに
「その知り合った人とハグをしましょう」と言ったら、
ウワーッとなったんです(笑)。
ヨリス ああ、いいですね。
糸井 よかったですよ、とても。
なにを知ったかじゃなくて、
関係ができたこと自体が、
なにかはじまったってことだと思ったんです。
ヨリス おもしろいですね。
糸井 もうひとつ、金融と全然関係ないけど、
お金つながりってことでいうと
別のワークショップではこんなこともしました。
「ポケットの中から100円を出しなさい」と言って
100円を出してもらって、
「今から15分あげるから、どこかに捨ててきなさい。
で、捨てた感想を述べなさい」って言ったんです。
捨てたとき、どういう気持ちだったかって聞くと、
誰もそんなことしたことないから、
「ちょっと気持ちよかった」とか
「ドキドキした」とか、
感想がとてもおもしろかったんです。
ヨリス へえー。
糸井 全部正解だと思ったんですけど、
不正解がぼくはいくつかあると思って。
あとで取れるように電話ボックスの中に置いたとか、
ジュースを買って飲んだとか、
それは捨てたとは言わないんじゃないかなと。
でも、たぶん、そっちのほうが
ジャーナリスティックな態度だったんだろうな(笑)。
ヨリス そうかもしれないです(笑)。
糸井 やっぱり、一番ステキなのは、
「気持ちよかった!」っていう。
ヨリス なんでそんなに気持ちいいんですかね。
糸井 やっぱり縛られてるからでしょうね。
なんだかわからないものに縛られてるんでしょうね。
ヨリス ああー。
糸井 それから、マイナスのことをするっていうことを
肯定するのは、知性がないとできない。
十代のころに不良がとても魅力的に見えるのも、
きっと、縛られてるものから
解き放たれている存在だからでしょう。
そういう人間理解をしといたほうが
いいですよね(笑)。
ヨリス なるほど。
そういえば、日本に来るときの飛行機の中で、
自分の席の目の前についている、
映画を観たりゲームで遊べたりする機械が
壊れてたんですね。
あ、壊れてる、残念、と思ってたんですけど、
20分ぐらい経ったら、
「あ、選ばなくていいんだ。いやあ、これは楽だなあ」
って思いました(笑)。
今までは、飛行機に乗ったら
その機械でなにかを選ばなくてはいけない、と
無意識に縛られていたんですね。
糸井 世の中そんなことだらけですね。
ヨリス 本当に、そう思います。
糸井 おもしろいね。
そういう当たり前だと思っていたことが、
実は思い込みだったことに気づく想像力のことを、
昨日ぼくの知り合いがうまいこと言ってたんです。
「想像力の反射神経」って。
ヨリス そう、ちょっとスポーツみたいですよね。
糸井 ヨリスさんも、そうとう
「想像力の反射神経」がいいと思う。
ヨリス ありがとうございます。
糸井 いや、ありがとうございました。
ヨリスさんと知り合えて、うれしかったです。
ヨリス 本当に素晴らしかったです。
ありがとうございました。
  (糸井重里とヨリスさんの対談は
 これでおわりです。
 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。)

   

2012-04-03-TUE


 


1998年からの5年間、中東特派員として活躍した
ヨリス・ライエンダイクさんが
その際に感じたジャーナリズムのからくりを、
自らの体験や出会った人、聞いた話などの
エピソードを中心としてまとめた1冊。
知らなかった中東諸国の現状が語られており、
メディアを読み解くためのヒントとともに、
ヨリスさんの純粋な心にふれることで、
心が揺さぶられる本です。

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