ゼロからはじめるジャーナリズム オランダ人ジャーナリスト、ヨリス・ライエンダイクさんと。
 

第0回 ヨリスさんって、どんな人?

今年の1月の終わり、
糸井重里はヨリスさんとお話ししたことについて、
このようなツイートをしました。

「先日お会いしたオランダ人のジャーナリスト
 『ヨリス・ライエンダイク』さんが、
 じぶんのやり方について言いました。
『なにかの問題に、
 なにも知らないゼロの人間として向かい合っていって、
 少しずつ知り憶え考えていくプロセスを発表していく。
 そういう方法なんだ』
 ほとんど、ぼくと同じです。」



この対談の内容は明日より掲載させていただきますが、
ヨリスさんの「やり方」をお伝えする前に、
ヨリスさんが今までに、そして、今なにをしているのかを
ふまえたうえで読んでいただいたほうが、
よりおもしろく、たのしめることと思いますので、
ヨリスさんについて、簡単にご紹介させてください。

ヨリスさんは、1998年から2003年までの5年間を、
中東特派員としてエジプトやレバノンなどで過ごしました。
特派員になったのは、大学院修了後すぐの26歳のときで、
ジャーナリストの経験はほとんどないため、
きちんと特派員としての仕事ができるか、
ヨリスさんは不安に感じていました。
しかし、実際にはヨリスさんは
なんの支障もなく特派員の仕事をこなすことができました。

なぜなら、伝えるべきニュースの内容は、
本社の編集部や通信社によって
すでに「用意してあるも同然」だったからです。
つまり、ヨリスさんの仕事は「現場にいること」と、
なかば決まっているニュースの「文章を書くこと」。

違う言い方をすれば、ヨリスさんは
中東におけるニュースの最前線にいるのに
自分の手で得た、独裁政権下にある中東諸国の
リアルな情報を伝えられなかったのです。

ヨリスさんは、違和感をもち始めます。

当時のことを、ヨリスさんは対談のなかで
次のように話していました。
「ジャーナリストはなんでも知ってるように見えるけど、
 さまざまな制約のなかで仕事をしているし、
 その結果として、わからないこと、
 判断できないことが多すぎるんです。」



帰国後、ヨリスさんは中東特派員の経験を本にまとめます。
中東諸国の現状をリアルに伝えるその本は、
オランダ国内で25万部の大ベストセラーになり、
ヨリスさんは2006年、オランダ・ジャーナリスト協会の
「最も影響力のある国際ジャーナリスト40人」の
1人に選ばれました。
現在、ヨリスさんは金融関係者に取材し、その内容を
イギリスの日刊紙『The Guardian』のウェブのコンテンツ、
「BANKING BLOG」に連載しています。
この活動の内容は、
下記の動画で見ることができますので、
興味のある方は、ご覧ください


わたしたちが、ヨリスさんを知って、
お話をすることができたのは、
「『イシューからはじめよ』のまわりで考える。」という
コンテンツでお世話になった
英治出版さんからの紹介でした。
オランダでベストセラーとなったヨリスさんの本が、
『こうして世界は誤解する』として出版されたのです。
紹介を受けた弊社のシノダがこの本を読み、
ぜひ糸井にヨリスさんを会わせたい! と思い、
今回の対談へと結びつきました。
そのときに感じたことを、シノダはこんなふうに言っています。

「あ、このヨリスさんという人は、
 糸井重里とつながる部分あるぞ」

ヨリスさんの本を読み終えたあと、そう思いました。
糸井は、自分が本当に感じていることはなにか、
自分の動機はなんなのかを、
とことん考え抜くことを大切にしています。
ヨリスさんは、この深い部分で、
糸井とつながっているな、と感じたんです。

それから、ヨリスさんが
現在行っているお仕事をウェブ上で読みました。
中東特派員のころから、
考え方や情報に向き合う姿勢が
全く変わっていないところに、
すごく好感をもったんです。
表面的でなく、
自分のなかにある「知りたい」という気持ちとか、
自分にとって意外性のある事実に直面したときも
ちゃんと受け止めて、自分なりの理解をしてから、
また次に進んでいくところが、
糸井と重なるな、と。

深い部分で共通するところのありそうな
ヨリスさんと糸井が出会って話をしたら、
どんなにおもしろいだろう。
そう強く思ったので、対談を提案しました。

 

対談の日の朝に、日本に着いたヨリスさん。
「時差ボケがあったのですが、
 話しているうちに、元気になりました。」
と、対談後におっしゃっていました。
ヨリスさんも、糸井重里も、
国境を越えて同じ考えや思いをもった「同志」に
出会えたことが、本当に嬉しそうでした。
明日から、対談がはじまります。


(つづきます)


  最新のページへ 次へ

2012-03-28-WED