その6
Ataraxiaという、

あたらしいブランドと

成田加世子さんのこと。

前回までの旅のレポートでは
「ほぼ日」と伊勢丹のみなさん、
HITOYOSHIシャツのみなさんとで
「いま、着たいシャツってなんだろう?」
というテーマでつくるシャツについて、
主に素材のことを中心にレポートしてきました。

どんなシャツになったかは、
20日オープンの「ストア」ページで
さらにくわしく紹介をする予定です。

私たちは、自分たちでつくるシャツのほかに、
ことしも、「シャツをつくっている人」たちから、
ことしのシャツを仕入れたいと考えました。

というのも、HITOYOSHIさんでつくるシャツは、
「デザイナー」が不在。もちろん服づくりのプロが
かかわったプロジェクトではありますけれど、
誰かが「ことしは、こう!」みたいに宣言をする、
というのではなく、
みんなで「ここはこうじゃないかな?」と、
こまかく詰めていくような作業を経て、
シャツを完成させていきました。

また、素材を「そのかたち」になるように
パーツ分けして考える「パタンナー」も不在。

これはHITOYOSHIさんの長年の経験により、
工場でやっていただきました。

いわばオーダーメイドの洋品店です。

いっぽうで「着るもの」の世界には、
時代を見るちからにすぐれた
デザイナーという職業のひとたちがいて、
「いま」と「これから」を考えているわけです。

そんな力とセンスをもったかたがたを、
この旅の仲間に迎えたくて、
ことしは、ふたつのブランドに
お願いをすることにしました。

今年はじめての参加となるAtaraxia(アタラクシア)と、
これまでのおなじみのSTAMP AND DIARYさんです。

きょうは、まず、Ataraxiaのことをお伝えしますね。

たくさんの白いシャツを前に
「どのブランドに協力していただこうか」
というミーティングをしたときに、
ぐんと目立っていたのがAtaraxiaでした。

ちょっととくべつな印象でしたし、
ほかのどの服とも「ちがって」いたのです。

ああ、これは、ぼくらには
つくることができない服だ、と思いました。

ハンガーに吊るされている状態なのに、
「りんとした、女性像」と言ったらいいのかな?

あるていどの経験を経て、
じぶんの人生に責任をきちんと持ち、
うれしいこともかなしいこともよいしょと引き受け、
すっくと立っているうつくしいひと。

そんな姿がイメージできました。

この服をつくったかたは、おそらく、
現代の女性にこうあってほしい、という考えを
しっかり持っているんだろうな、と思ったのです。

しかも糸の選び方や織り、縫製、色、洗い、
すべてにおいて上質感があって、
なにより全体のシルエットがうつくしい。

なのに「日常着であること」という部分に
しっかり立脚したものづくり。

それは、ぼくらの考える
「白いシャツ」にぴったりでした。

そのとき、Ataraxiaというのは、
うまれたばかりのあたらしいブランドだと知りました。

2016年の秋、成田加世子さんという
デザイナーが立ち上げた、と。

聞いてみると、成田さんは、
長い期間、とある有名なセレクトショップで
デザイナーとして勤務、
有名な欧州のデザイナーズブランドにまじっても、
ひけをとらない服づくりをしてきたひとでした。

フリーランスになってからは
いくつもの企業の仕事をかかえ、
30代、40代をたいへん多忙にすごします。

そのなかですこしずつ、
「自分のデザインによる、自分のブランドを」と、
サンプル制作をしていたそう。

けれども「いつかは立ち上げたい」と思いながら、
どんどん「頼られる存在」になっていったこともあり、
それが実現したのは50代になってからでした。

ずっと、インハウス(社内)デザイナーだったり、
企業と組んでの仕事をしてきたことで、
技術やコミュニケーションの力はじゅうぶん。

こんかいは自分のお金で、
自分でぜんぶジャッジする仕事をやってみよう、
と決意をしたのが、昨年のことだったそうです。

もしかしたら「自分のつくりたい服」に、
「自分の実年齢が近づいた」ということも、
あるのかもしれませんね。

さて、Ataraxiaというブランドで、
成田さんが表現したかったことって、
どういうことなのかな?

そんなインタビューをしてきました。

「大自然のなかに、すっくと、
ホテルだったり美術館だったり、
とてもモダンな建物がある、
という風景が、大好きなんです。

自然が大好き。でも都会の暮らしも好き。
自然とモダンが融合している空間に
悠々と立っている女性というのが
ひとつのイメージなんです。

もちろん年代は問いませんが、
Ataraxiaの服は白髪になっても着ていただきたいな、
という思いでつくっているんですよ」

いろいろな経験をし、
さまざまな価値観を理解したうえで、
「わたしは、これを選ぶ」という感じ。

そこにはじぶんを囲む世界を自由にとびまわる
女性たちのすがたがあるように思います。

自然と都会。それはもしかしたら
「旅」と「家」だったり、
「プライベート」と「仕事」だったり、
どちらかを選ぶのではなく、
どちらも楽しんでしまおうという姿勢なのかも?

成田さんのそんな感覚は、
服づくりに、よくあらわれています。

たとえば「モード」(ファッション)に近づきながらも、
とても「シンプル」で「スタンダード」。

そのシンプルさのなかには、
「きちんと手をかけた、ていねいさ」があります。

また、「清潔感」とともに、
「ちょっとのんびりした抜け感」の表現もあるんです。

ちょっとおもしろい服ですよね。

さて今回、Ataraxiaから届くのは、
「リネンロングテールシャツ」、
そして「9分丈ドローストリングステーパードパンツ」
です。最初はシャツだけのつもりだったんですけれど、
合わせたときのたたずまいがとてもきれいだったので、
そのほうがAtaraxiaの世界を
より知っていただけるような気がして、
パンツもあわせて仕入れることにしたのでした。

Ataraxiaのシャツは上質な素材を使っていますから、
じつは価格がすこし高めです。

日本のリネン専業メーカーが企画している素材で、
フランス北部でとれる亜麻(あま)を原料に、
中国で紡績し、静岡で織り、
滋賀で染め加工をしたリネンは
(そのことを成田さんは「まるでシルクロードを
通ってきたかのよう」と表現していました)、
しぜんなストレッチ感のあるしなやかな素材です。

リネンならではの張り感ともに、
丈の長さによるドレープ感も、とてもきれい。
アイロンをかければぱりっと仕上がりますし、
洗いっぱなしの自然なしわを楽しんでもいい。

クリーニング表示がしてありますが、
家で洗っても縮むことがなく(乾燥機はNGですよ)、
旅先では、夜、しわに水でスプレーをしてかけておけば
朝には乾いてしわがとれるのも便利です。

縫製もていねい。襟つけやカフス部分、
縫い代の透け感の均一さ、そして3センチに18針の
運針の正確さなど、すみずみまで成田さんの美意識が
ゆきわたっています。

かたちは、ドロップショルダー&ロングテール。

ちょっと独特な、ちいさな襟のかたちは
「タキシードに合わせるウィングカラーのシャツから
インスパイアされたんです」と成田さん。

襟は、折った状態でも、あるいは立ててきてもよさそう。

後ろ姿は、たっぷりと分量感のあるボックスタックが特徴。

「ロングテール」というわりに、丈の長さが‥‥?

と思いきや、
いま女性たちのあいだでポピュラーな着方となっている
フロントインで、後ろに少し引っ張るようにする
「抜いて着る」ときに、ちょうどいい長さになっています。

(もちろん、きちんと着てもかっこいいですよ。)

一緒にならべるパンツは、
9分丈のドローストリングスでテーパードパンツ。

「日常着として、活動しやすいように」という考えから、
価格はおさえめ。20代から70代をこえても
着られるようにと配慮されたデザインです。

9分丈、いわゆるクロップドですが。

「くるぶしが見えちゃうと、ちょっと若すぎるかも」
というかたのために、気持ち、長めになっています。

ハイウエストに作られていますから、
ジャストウエストでヒモで結んでも、
すこし落としても大丈夫。

これからの季節だったら、
サンダルを合わせるのもよさそうですよね。

腰回りはゆったりめですが、
ひざから下がほっそりしていて、
センターに折り目もきちんと入っているので
きれいに見えるんですよ。

ちなみに素材はフランスの生地メーカーが企画する
ポリエステルレーヨンストレッチ。

生地の厚さがちょうどいいので、
真夏以外のスリーシーズンOKな素材です。

そしてこの素材の良いところは、
こんなにきれいな素材なのに、自宅で洗えること。

その際は、ネットに入れて
おしゃれ着用洗剤をつかってくださいね。

成田さんの提案する、あたらしい服、Ataraxia。

前回までに紹介したシャツとは、
まったくことなる世界ですけれど、
ちょっと気にかけていただけたら、うれしいです。

さて、次回は、6/17更新。

おなじみ、STAMP AND DIARYの服を
ご紹介します。どうぞおたのしみに!

2017-06-16-FRI

<いままでの更新>

▶︎その1 ことしの旅がはじまります。

(2017-06-09-FRI)

▶︎その2 いまほしいのはこんなシャツなんです、HITOYOSHIさん。

(2017-06-12-MON)

▶︎その3 シャツ工場のひみつ[1]

(2017-06-13-TUE)

▶︎その4 シャツ工場のひみつ[2]

(2017-06-14-WED)

▶︎その5 イタリア・アルビニ社のリネンをつかおう。

(2017-06-15-THU)

▶︎その6 Ataraxiaという、あたらしいブランドと成田加世子さんのこと。

(2017-06-16-FRI)

▶︎その7 吉川修一さんのSTAMP AND DIARYは、ことし。

(2017-06-17-SAT)

▶︎その8 シャツにあわせるカーディガンのこと。

(2017-06-18-SUN)

▶︎その9 あのすごい肌着を、ふたたび。ma.to.wa.の恵谷太香子さん。

(2017-06-19-MON)

▶︎その10 旅とシャツ。HITOYOSHIシャツ吉國武さん。

(2017-06-20-TUE)