その5
イタリア・アルビニ社の

リネンをつかおう。

エジプトからやってきたギザ88という綿を
大分で紡績、浜松で織物にした
コットン100%のオックス。

それがことしの「ほぼ日×伊勢丹×HITOYOSHI」
オリジナルシャツの素材のひとつです。

そしてもうひとつ、「夏」に展開するからには、
ぜひ挑戦してみたかったのが麻のシャツ!
麻は、熱伝導率が高い
──つまり熱をすばやく吸収する──ので、
身に付けたときに「ひんやり」と感じます。

吸湿性も高く、形態安定性にすぐれ、じょうぶで、
摩擦にも強いという特徴が、麻素材のシャツや服が
夏向きの素材と言われるゆえんです。
(ちなみに「ほぼ日」で「麻」というと
ちょうどいま展開中の「hobonichi + a.」
麻素材のものがならんでいます。)
「白いシャツをめぐる旅。」では1年目に
レディスのシャツで扱ったきり。


ずっと、ぜひ、レディスだけじゃなく、
ユニセックス、メンズでもやってみたいなあ、
と思っていたのでした。

今回、HITOYOSHIさんが縫製する
ユニセックスのボタンダウンシャツと、
メンズのバンドカラーシャツの素材を麻にしよう、
と決めた私たち。

コットンは、レディスの丸襟シャツと
メンズのラウンドカラーシャツ、
どちらも「襟がまるい」シャツを
オックス地でつくることにしましたから、
ちょうどいいバランスかなと思っています。

麻って‥‥かっこいいですよねえ。
ぼく(武井)はこの旅をはじめてから、
麻のシャツを2枚買いました。

それも、イタリアのドレスシャツ。
そういうものって、
うんと大人のものだという印象があったんですけれど、
中身はともかく、年齢はじゅうぶん大人になったので、
思い切って買ってみたのです。

そうしたら、やっぱり、快適なうえに、
きちんと採寸をしてつくったので、
いい感じに「ちゃんとする」のですね。

ちょっと体型が過剰なことになると
とたんに似合わなくなるのもいい。

「がんばってかっこよくいなくちゃ」
という気分になるので、いいのです。

大人といえば、今回シャツづくりを担当してくださる
HITOYOSHIシャツの吉國武社長は、
たいへんなダンディ、紳士なのですが、
その吉國さんも麻についてこうおっしゃっています。

「35年くらい前に南の島に行く機会があり、
そこに着て行くための白い麻の長袖シャツを
意気込んで作って持って行った思い出があります。
その時のリラックス感をいまだに覚えています。
ゆっくりした雰囲気に、ゆったりした感覚。
それが麻のシャツですよね。
今回のアルビニの麻もリラックスして縫製したいです」

わあ、それはたのしみ。

でもいちおう現場の声も聞かなくちゃと、
昨年取材でうかがったHITOYOSHIの工場長、
竹長さんにおうかがいしたところ、
こんな回答をいただきました。

「麻は節が大きいので
無地でも織り目が目立ちます。
裁断時は地の目(縦・横)両方を
気にしなければいけません。
裁ち目もほころびやすいので、
パーツの取扱いも要注意です。
ノッチ(合印)も見えにくくなるので、
縫製も難しくなります。
麻のシャツづくりの現場は、
かなり気を付けなければいけません。
がんばります!」

わ。ことばのはしはしからうかがえる緊張感。

現場ってやっぱりたいへんなのですね。

でも、あのすばらしいHITOYOSHIの環境ですから、
じょうずに息抜きをしながら、縫製していただけたら、
きっと「リラックス」できるウエアができると思います!

さて、現在HITOYOSHIの工場で
鋭意縫製中(のはず)の麻のシャツ、
もとはといえば、イタリアからやって来ました。

さらにその素材は、フランスで生まれ育ったもの。

つくったのはイタリアの「アルビニ社」といい、
1876年創業の老舗生地メーカーです。

アルビニ社は品質の高い麻を扱うことでも知られていて、
いわゆる「高級ドレスシャツ」の原材料を
多く、供給しているんです。

ちょっとだけ詳しく(でも駆け足で)説明しましょう。

まず、麻というのは、
世界でつくられる繊維のなかで、
1%にも満たないという、じつは稀少な素材。

その起源はエジプトで(また、エジプトだ!)、
ミイラの包帯だとか、経帷子も麻だったそうです。

そして、エジプトからヨーロッパに
麻をもたらしたのはフェニキア商人。

その影響で紀元前から
フランスのブルターニュ地方では
麻が栽培されていたと言われています。

ヨーロッパにおける「麻の真の黄金期」はローマ時代。

エジプトを征服したローマ人たちの家庭には、
着るものだけでなく、家庭で使う布としても
麻が普及していったのだそうです。

すっかりヨーロッパの生活文化に定着した麻は、
ブルターニュ地方、そしてフランドル地方で栽培され、
ことルネッサンス期は、
ローマ期につづく麻の黄金時代となり、
高級なシャツ、ズボン、寝具などに使われました。

その後ルターの宗教改革、宗教戦争の影響で、
多くの職人がヨーロッパ本土から
英国やアイルランドに移住したことで、
フランス・ブルターニュ地方が
ヨーロッパの麻の栽培を担った時代もありました。

海が近く、代わる代わるやってくる雨と太陽、
強い風、そして土壌、すべてが栽培に適した環境ゆえ、
ブルターニュはいまも、麻の一大生産地です。

現在、アルビニ社が使っているのは、
そのブルターニュの麻。

現地の生産協同組合「Terre de Lin」と組み、
最高品質の亜麻を育てています。

3月半ばから4月半ばまでに種をまき、
6月に2週間だけ花を咲かせた亜麻は、
引き抜かれたあと、2週間から3週間、
地面に寝かせて水に浸します。

堅い茎を自然に劣化させることで、
繊維を取り出しやすくするための工夫です。

そのあとは貯蔵庫に入り、
必要に応じて叩いて繊維をほぐし、
手選別で等級わけて出荷されます。

フランスからイタリアのベルガモ地方に運ばれた麻は、
アルビニ社の工場で「梳いて整える」「平らにする」
「漂白する」「紡績する」という工程のち、
(場合によっては染織工程を経てから)
ようやく「生地」として完成するのでした。

みじかく説明するつもりが、
それなりに長くなってしまいましたが、
さてここでアルビニ社のアジア担当である
エンリコ・デ・ピエリさんのお話も伺ってみましょう。

忙しい出張旅行のなかで
「ほぼ日」に立ち寄ってくださったエンリコさん、
イタリアの大人の男性が「こうでなくちゃ」と考える、
肌着をつけず、フィットした長袖シャツを
1枚でさらりと着るスタイルであらわれました。

「ああ、きのうは麻のシャツを着ていたのに!」と、
その日がコットンシャツであることを
ちょっと申し訳なさそうに。

いえいえ、いいんです、毎日着てらっしゃるわけじゃ、
ないですものね。

ちなみにエンリコさんが
約100枚持っているシャツのなかで、
リネンの割合は15枚ほどだそう。

なるほどそんな感じのローテーションなんですね。

「でもアジアにいると、登場する回数が増えますよ。
いまアルビニ社のアジア拠点は香港なので、
日本の夏よりも湿度が高く、暑いこともありますから」

どんなに暑くても、長袖・肌着なし。

あの、肌着、あったほうが汗対策によくないですか?

「うーん? こういうのは習慣だからね‥‥。
小さい頃は、母親に、Tシャツを下に着せられたけど、
だんだん大人になって、ファッションに目覚めると、
『はやくああいう格好がしたいな』と考えるのは、
イタリアの一般的な大人の男性のスタイルだったんです」

そっか、下にTシャツが見えているのを
ちょっとこどもっぽいって感じるんでしょうね。
ぼくら(日本)は、ヨーロッパからというよりも
アメリカからの流行に染まった感覚が強いので、
シャツから肌着のTシャツが見えているのは
ぜんぜん違和感がないんですけれど。

(ちなみに、ずいぶん一般的になったので
今回は「ほぼ日」での取り扱いがありませんが、
男性はグンゼのSEEKという肌着が、
着ているのに着ていないように見えて、いいですよ。)

ついでにこの質問も。

半袖シャツってイタリアの男性は着ないんですか?

その質問を「半袖シャ」あたりまで口に出したとき、
エンリコさんから笑顔でかぶせるように

「半袖シャツ? ない、ない!」

という答えが返ってきました。

そんなに全否定しなくても! と、盛り上がりつつ、
なぜそう思うのかをたずねてみたところ‥‥

「自分たちの文化にはないからです。
ヨーロッパだと、あれは、
ドイツのひとが好むスタイルですよね。
つまり、とても実用的なのだと思います。
日本でも同じ。湿度と暑さを考えたら、
半袖シャツはとても実用的なんだと思いますけれど、
ぼくは、着ません。一枚も持っていません」

さすがイタリア紳士。ある意味かたくな。

実用よりファッション。かっこいい。

でもまあ今回私たちも男性用の半袖は用意していませんから
ちょっとよけいな質問ではありましたね。

麻に話を戻しましょう。

日本で麻を着るって、「実用的」にも
とてもいいように思えるんです。

「そうですね、その通りです。
ぼくらには麻のシャツは夏のイメージがありますが、
日本の気候だったら、夏だけに限らず、そうだな、
3シーズン着られると考えてもいいと思いますよ。
そして、しわを気にせず着るカジュアルスタイルもあれば
きちんとアイロンをかけて着る
エレガントなスタイルもある。
これは、男性、女性、どちらにも言えることですよね」

ちなみにエンリコさんは、洗濯も、
アイロンがけも自分の仕事だそうです。

(あたりまえでしょう? とのこと!)
ところで今回、
ユニセックスのシャツを麻でつくるんですが、
それってイタリア的にはOKですか?

「もちろん!
女性が、ボーイフレンドのシャツを
大きめに羽織る、みたいな着方は、
イタリアでもポピュラーですよ。
セクシーだし、ファッショナブルです。
カジュアルに着るのもいいし、
もちろんドレッシーに活用してもいいし。
とってもいいんじゃないかな」

麻のシャツって、こと白だと女性は
「透け感」が気になるかたもいるかなと
思うんですが、
イタリアの女性たちはどうですか?

「そうですね、そもそもあまり
気にしない文化ではありますが、
最近は、あえて、透けて綺麗な肌着を
つけるひとが多いように思います。
そんなふうに重ね着を楽しんでいただくのも、
きっとセクシーだと思いますよ」

エンリコさん、ありがとうございました。
それにしても体型が「フィット」だなあ。

そのあたり自分も気をつけなくちゃと思いました。
いいシャツが、似合わなくなるから!

さて次回更新は6/16。

Ataraxiaという、あたらしいブランドのご紹介をしますよ、
どうぞおたのしみにー。

2017-06-15-THU

<いままでの更新>

▶︎その1 ことしの旅がはじまります。

(2017-06-09-FRI)

▶︎その2 いまほしいのはこんなシャツなんです、HITOYOSHIさん。

(2017-06-12-MON)

▶︎その3 シャツ工場のひみつ[1]

(2017-06-13-TUE)

▶︎その4 シャツ工場のひみつ[2]

(2017-06-14-WED)

▶︎その5 イタリア・アルビニ社のリネンをつかおう。

(2017-06-15-THU)

▶︎その6 Ataraxiaという、あたらしいブランドと成田加世子さんのこと。

(2017-06-16-FRI)

▶︎その7 吉川修一さんのSTAMP AND DIARYは、ことし。

(2017-06-17-SAT)

▶︎その8 シャツにあわせるカーディガンのこと。

(2017-06-18-SUN)

▶︎その9 あのすごい肌着を、ふたたび。ma.to.wa.の恵谷太香子さん。

(2017-06-19-MON)

▶︎その10 旅とシャツ。HITOYOSHIシャツ吉國武さん。

(2017-06-20-TUE)