糸井重里とみうらじゅん、 歳の差は、10年。 出会いから30年間の長い年月、 たがいの節目ごとに、 なぜだかいつも近くにいる。 ふり返って話すのは、 もしかしたらこれがはじめてかもしれない。

だからある意味では、ほんとうには、まだ、なかよくない。
糸井
あのね、まだオレは
穏やかに欲かいてるよ。
みうら
あ、そうなんですか。
穏やかに欲を?
糸井
暇になるのが怖くてしょうがないんだ。
オレは、バードウォッチングに行くのは、
まだちょっと無理なんだ。
みうら
「ほぼ日」をやっている糸井さんって、
歳とったと思えないから、正直言って
オレはちょっとつらいんですよ。
オレだって、
「あーあ」とか、家で言ってみたい。
「もうオレもなぁ」なんて言ってると、
糸井さんはいろんなとこに出てるし、やってるし、
もう何にも言えなくなっちゃう。
だらけられないですよ。
糸井
オレはだらけてるよ。

みうら
そうですか。
もっとたっぷり言ってくださいよ。
「だらけてる」って。
糸井
でも、上手にやりすぎちゃってるから。
みうら
ぐ、そんな‥‥
糸井
ただ、みうらが何十年もオレを見てて
いちばん忙しかったと思ってる時期が
あったとして、
そんときより、
いまのほうががはたらいてるよ。
みうら
うん、そう思いますよ。
糸井
それが「気の毒になぁ」って
ちょっと、自分に思うことはある。
オレの歳で、
このくらいの零細企業の社長さんだったら、
昔はみんな、
ゴルフに行ってたんじゃないかなぁと思う。
みうら
もう、叙々苑杯とか出てるでしょ、それは。
ぼくが糸井さんと知り合った頃は、
糸井さんは若かったし、
無茶苦茶忙しいといっても
できる範囲だと思ってました。
でも、いま糸井さんがいっぱいやってることって、
歳だけ考えるとできないはずです。
つまるところ、オレは
体力だと思うんですよ。
滅茶苦茶体力があるんですよ、
糸井さんって。

糸井
ない。
みうら
いやー、ありますね。
まちがいなく、あります。
これは、ものすごい体力だと思う。
糸井
体力はね、ない。
みうら
気力もふくめてぜんぶ、体力です。
糸井
それもない。
みうら
そうですか。
たのしいことをやってると
寝なくていいから‥‥?
糸井
それはもう無理。
みうら
もう無理ですか。
寝ますか、ちゃんと。
糸井
寝る。
寝なくても、寝る。
みうら
そうですか。
糸井
体力は、大事なんだけどね。
なんだろうなあ‥‥
さっきの機嫌みたいなことだよ。

みうら
機嫌がいいか、悪いか。
糸井
機嫌がいいか、悪いかだよ。
すべて。
みうら
うーん。
糸井
いまは、周囲の人たちの機嫌かいいか悪いか、
ということが、オレの機嫌だよ。
みうら
うん。
わかります。
糸井
みうらのやってた連載だって、
機嫌よく、たのしかったでしょ?
みうら
あの連載は、ホントにいい塩梅でした。
47都道府県じゃなくても、
アメリカでも語れますよ、もう、いまなら。
糸井
みうらがあんなにできるようになったのって、
この10年だよね。
みうら
確実にそうです。
勢いだけじゃできないんですよ。
糸井
仕込んでたネタを
出すだけじゃないみうらじゅんが、
ついに登場したんだよね。
みうら
それは、いちばんうれしいです。
仕込んでたネタは全部尽きましたので、
糸井
ははは。
みうら
瓶(かめ)見ても、もう
水の一滴も入ってません。
そういう状態になって、
それが、10年どころかもう、
20年ぐらい前からあって、
糸井さんはそれに
気づいてたんですよ。
糸井
いくらネタがあっても、
みうらの「思う」がなくて出しちゃったら
人にばれちゃうんだ。
だけど、あの47都道府県には、
みうらの「思った」っていう分量があるから。
みうら
そうです。
糸井
テクニックがあるんだから、
出してればいいんで。
みうら
「思い」は前よりは強くなったと思うんです。

糸井
思ってる分量が多い人は、
ずっと、大丈夫なんだよね。
口だけうまいヤツとはちがうんだ。
みうら
この数十年、ずーっと、
長い歴史の長い時間、
糸井さんとおんなじ話をしてるみたいです。
ぼくは変わったけど、
糸井さんはぶれてない。
ぼくが会った頃は、
糸井さんは30歳ぐらいですよ。
糸井
そのときのオレには、
「ちょっとそこに座れ」と言って、
意見してやりたいことはある。
みうら
あ。そうですか、そうですか。
糸井
そのときのオレは、
やっぱり、まずいよ。

みうら
まずいですか。
そうかなぁ。
オレにとって糸井さんはぜんぶセーフです。
糸井
後輩に対してはそうだったかもしれないけど、
自分に対しては、まずい。
みうら
あ、なるほど。
糸井
でも、若いときはまちがいがないと
パワーが出ないからね。
ノーパワーで、
悟ったようなことを言ってる30歳がいても、
しょうがない。
みうら
それは、根底を知ってて、
わざとまちがえたりしてませんでした?
糸井
そういうこともあった。
みうら
え?! やっぱり!
糸井
そういうこともあったけど、
でも、それは、ダメだよね。
自分でやったことだからね。
みうら
そうなんだ、うーん、
わかったようなわからないような‥‥
またこういう機会があるとは思うんで、
教えてもらいますけどね。
糸井
そう言えば、みうらは
オレに、メールとか電話番号とか
教えてくんないんだよ。

みうら
メールというものができてから
糸井さんに、そんなに会ってないからですよ。
しかも、いつも悩み相談みたいなことで
事務所に来てるから、
そんなに「メールしましょうか」ってことが
ないんです。
糸井
電話番号も知らないんだよ。
みうら
たしかに、そうです。
ぼくも糸井さんの番号は知らないし。
糸井
だからある意味では、
ほんとうには、まだ、なかよくない。
みうら
わはははは。
糸井
ちょっと心残りなのは、そこだな。
だから今度、みうらともう一回会って
なかよくなったら、交換しようかな、と思う。
みうら
よく言いますよ、
いま、してくださいよ、そんなの。
糸井さんにかければいいんでしょ、ぼくが。
じゃ、かけますよ。
‥‥‥‥。

糸井
早くしろ。
みうら
ちょっと待ってくださいよ‥‥。
いま電源を入れてましてね、
「now loading」になって、
時間がかかるんです。
(シャリラリーーン♪)
糸井
二枚目の音楽がするな。
みうら
ははは‥‥えーっと、
糸井さんの番号は‥‥
糸井
早くしろ。





(おしまい)

2009-08-17-MON



 
みうらじゅんさん原作 映画『色即ぜねれいしょん』

©2009「色即ぜねれいしょんズ」


©2009「色即ぜねれいしょんズ」


©2009「色即ぜねれいしょんズ」


みうらじゅんさんの
自伝的小説
「色即ぜねれいしょん」が、
このたび映画化されました!


流行りの体育会系でもなく、
ヤンキー系でもない、
ふだん脚光を浴びることのない
平凡な文科系男子高校生の
ひと夏の成長物語を
描いた青春映画です。


監督は盟友、田口トモロヲさん。
出演は、黒猫チェルシーの
渡辺大知さんをはじめ、
銀杏BOYZの峯田和伸さん、
くるりの岸田繁さん、堀ちえみさん、
リリー・フランキーさん、
臼田あさ美さんほか
豪華なキャストが集まりました。

糸井は、試写会で拝見しました。
この対談にもくわしく出てきますが、
「いいじゃないですか。
 これはぜんぜん言うことなすび」

と言っておりました。

「色即ぜねれいしょん」は、
2009年8月15日(土)より
シネセゾン渋谷、新宿バルト9、
吉祥寺バウスシアターほか
全国ロードショー。

8月8日(土)より梅田ガーデンシネマ、
なんばパークスシネマ、
シネリーブル神戸ほか
関西先行ロードショー。

8月7日(金)にMOVIX京都にて
“前夜祭”イベント開催決定。
オフィシャルサイトはこちらです。